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ダウンコートが暑い

数年前にもこもこのダウンコートを古着屋に買い取ってもらい手放した。
あの厚手のデザインが冬らしくて好きだったのだが、よく考えてみれば、
それを着ていて心地よい時間が少ないのである。
家を出た瞬間は良い。
駅のホームで電車を10分以上待ち続けなければならない深夜早朝も良い。
しかしそれ以外は、暑い。電車に乗ってしばらくしたら脱ぐ。
家から駅までの間、歩いている間に暑くなって、前のジップを開けて手袋も脱ぐ。
暑い。
結局、ほんの一瞬の活躍の場しかないのではないか。
そのくせ、収納するときの幅の利かせっぷりと言ったらない。

思い切ってダウンを手放したら、収納もスッキリして、
心もスッキリした。

以来、冬の寒い日は、中綿入りのトレンチコートか、ニット素材のカーディガン仕様のアウターか、古着屋で見つけたコーデュロイ素材のメンズコートのボタンを可愛いアンティークのものに付け替えたもの、この3着を着まわしている。

しかし世の中を見渡せば、猫も杓子もダウンコートなのである。
モコモコのダウンに帽子に手袋。
スーパーのレジ待ちの列で、あまりにも周りが示し合わせたかのように全員ダウンコートを着ていたので「今日はダウンコート記念日とかですか」と思いながら、心の中の大半を占めていたのは「ねえ、暑くないの?」であった。
私のその時の服装はコーデュロイコート。それでちょうど良いと感じていた。
つまりそれ以上厚着をしていたら、暑いんじゃなかろうかと思っていたのだ。
おしゃれ、なのだろうか。そうか、ダウンコートというファッションのおしゃれを楽しんでいらっしゃるのかもしれないな。おしゃれは、我慢だからね。

しかしそれでも私は暑いのは我慢ならないのである。
しかも夏じゃなくて、今はせっかくの冬。
なんで冬にまで暑い思いをせにゃならんのだ。

冬には1ミリも、暑いと思いたくないのである。

たまに会う人たちや家族からも「寒くないの?」と言われるのだが、
私は逆に問いたい。
「暑くないの?」

スーパーからの帰り道、よく晴れた冬空の下、急な坂道をゆっくり登りながら、私は考えた。果たして今、私は寒いのか寒くないのか。
まあ、寒い、といえば寒い。しかしそれは、嫌な感覚ではなくむしろ心地よいのだ。
これは寒いのではなく、涼しくて気持ちがいい、という感覚ではなかろうか。
考えながらずんずんと坂を登ればすでに背中にはびっしょり汗をかいている。
これでダウンなんて着てたら脱ぎ捨てたくなっただろう。

関東に暮らす限り、ダウンを買い直す必要は全く感じない。

もしもあなたが、確固たる楽しみを持ってダウンコートのおしゃれを楽しんでいたり、寒くてたまらないと思っていないのだとしたら、ダウンコートという世の常識から離れてもいいのではないか、と私は思う。

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