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「民藝の聖地」倉敷では、よくよく手仕事に出会う|2024.立夏・蚯蚓出


幼い頃から「民藝品」とよばれるものが身近な存在だった

親戚のおじちゃんが桐のタンスを作っていたり、小学校の授業で竹細工や達磨について調べて実際に作ったり。毎週末通った祖父母の家にはこけしが並び、人生で初めてのインタビュー記事は吹き硝子作家さんにお話を伺った。

それらが「民藝」と呼ばれるということを知ったのは、大人になってミュージアムめぐりが趣味になってから。2022年夏に東京ステーションギャラリーで開催された「東北のまなざし」という展覧会をきっかけに、幼い頃から暮らしのなかで親しんできたそれらが展示されるほどの価値あるものだということを知った。

それらはわたしの生活にあって当たり前のもので、旅先でちょこちょこと集めてきた各地の手仕事を使って暮らす日々が、ずっと続いていけばいいと思いながら暮らしの道具を揃え続けている。

ちまたでは「ていねいな暮らし」なんて言葉もあるけれども、実際のわたしは全然朝型生活はできないし、整理整頓も掃除もそんなに得意ではない。でも、どうせ暮らすのならお気に入りのものに囲まれていたほうが幸せだなと思っていて。

それで、気付いたら「民藝」と呼ばれるような手仕事の一点モノの作品や蚤の市で見つけたアンティークな道具、それから祖父母や両親から譲り受けたものたちに囲まれていて、もしかしたらわたしは民藝とか手仕事みたいなキーワードに惹かれるのかもしれないとやっと思うようになってきたここ最近。

お迎えした倉敷ガラス

民藝の聖地、倉敷ではよく手仕事に出会う

なんと、地域おこし協力隊として12月から暮らしているここ岡山県倉敷市は、日本で初めての地方民藝品展示施設である倉敷民藝館がある、民藝の聖地のような場所だった。

倉敷市の地域おこし協力隊になってみて、直接的に民藝品を作ったり販売したりするような活動はないけれども、ふらりとギャラリーに吸い寄せられて一目ぼれした倉敷ガラスをお迎えしたり、取材で出向いた展覧会でかわいいカトラリーをお迎えしたり、日々の暮らしのなかで手仕事に出会える機会がぐっと増えた。

いやはや、東京だっていろんなお店があっていろんなギャラリーがあるじゃないのとも思うでしょう。実際「作品」を目にする機会は、東京の方が多かったと思う。だって、ギャラリーの数もお店の数も倉敷とはけた違いにあるわけだし。

でも、わたしが東京でよく遭遇していたのはちょっと高価な目の保養になるような、美しさに惚れるような「作品」たちばかりだった気がする。でも、倉敷で出会う「民藝」はどれも、実生活で使うことを想定された機能性と価格帯のものばかり。

民藝とは略語で正しくは「民衆的工藝」という意味を持つ。つまり、人々の生活の中で使われることに意味があるもので。倉敷のギャラリーやイベントでわたしがよく出会う手仕事は、幼い頃実家で見ていたような「民藝」のようなものが多くて心が落ち着く。

フィールドオブクラフトに行ってきました

GW明けの週末は、全国のクラフト作家76組による作品の展示と9組のワークショップが用意された「フィールドオブクラフト」というイベントが倉敷市芸文館前で、全国各地の手しごとが集結する「第10回手しごとの会」が天満屋倉敷店で開催された。

フィールドオブクラフトは、関東でいう蚤の市のようなイベント。

お目当ての作家さんの作品を品定めする人、新しい作家さんとの出会いを楽しみにゆるゆると歩く人

美味しいグルメを求めて食べ歩きをする人

地域おこし協力隊OBの六島浜醸造所さん
目が合った瞬間に「活動頑張ってるね!」と声を掛けてくれた。やさしい。

そんな大人たちについてきてワークショップを楽しむ子どもたち……

特に初日の土曜日はまさに「立夏」という言葉が似合う汗ばむような一日。わたしは、数年前に栃木で開催された益子陶器市でお会いした作家さんと偶然再会。

「倉敷で地域おこし協力隊になったんです」と言ったら「良いところを選んだわね。倉敷の人たちは、わたしたちのような作家の作品を日常に取り入れてくれる人が多い地だから、この地でのイベントにはできるだけ出店したいと思っているの。」と教えてくれた。

「文化の中心地」とも言われる東京から遠く離れた岡山県の倉敷市へ。移住を機に、どこか置いてけぼりになってしまうんじゃないかみたいな不安もあったけれども。「倉敷で開催されるんだったら、わたしたちが作品と一緒に来ますよ」と言ってくれるようなこの街でだったら、これからも心ときめく手仕事にたくさん出会えるような気がしている。

こぶりなバーキ(沖縄のかご)を作ってきました

そんなフィールドオブクラフトをあとに、天満屋倉敷店で開催されている「第10回手しごとの会」へ。

実は、このイベントは主催者である岡山民藝振興株式会社の仁科さんへ直接インタビューをして告知記事も書かせていただいた。

このインタビューのときに、仁科さんから「せっかくだからワークショップに参加してみませんか?」と誘っていただいたので、これはおもしろそうと申し込んでいたのだ。

小さいカゴだし、案内にも所要時間は90分~120分と記されていたので(ちょっと体験するくらいだろう)と会場へ。

実際にかごの編み方を説明されてからも「これくらいならわたしにもできそう!」と思ったのも最初のうちだけ。いざ編み始めてみると、竹ひごは硬くて乾燥に弱いので、湿気の少ない百貨店ではすぐにポキポキと折れてしまう。

折れてしまうと、職人さんに新しい竹ひごを入れてもらわないといけないので、ポキポキしてしまうたびに小さくなりながら新しいひごを付けてもらい、編み続ける。2時間どころか3時間たっても完成したのは10人近い参加者の3分の1程度。

そういえば、小学生の頃に授業で竹かごを編んだときも結局最後まで完成させることができたのはクラスの半分にも満たなかったな、ということを思い出す。作り始めて3時間が経過したころから徐々に諦めモードかつ単純作業にうつらうつらとしてしまって、最後は職人さんに仕上げてもらって4時間45分かけてやっと完成。

自分で作ったかごのかわいさたるものやと思う反面、竹かご編みって想像以上に時間と労力が必要なことを体感して、手仕事のありがたみを感じるなど。お気に入りの道具たち、改めて丁寧に使っていこうと決意するワークショップでした。

ちなみに、職人さんたちは口をそろえて「これは、趣味じゃよ」と言って笑っていたのも印象的。わたしの生活はお気に入りがそこに「在る」ことで満足だけれども、誰かのお気に入りを「生む」生活もまたきっと見えかたが異なっておもしろいんだろうな。

蚯蚓出(みみずいづる)

4月までは朝晩冷え込む日が多かったけれども、立夏を迎えてからの倉敷は上着を忘れてお出かけしても大丈夫。

それから、19時を過ぎてもお空が淡く焼けている日が多くて「あぁ、西に来たんだな」と思う。九州や近畿にも住んでいたことがあるので、この感覚はどこか懐かしいもので。

一日のうちで一番夕陽の焼ける時間が好きなので、この時間をめいいっぱい楽しめる季節が来たことすっごくうれしい。冬の黄金色の夕焼けから、冬の雨と春雨を越えて、少しずつ茜色の夕焼けへ。

梅雨がやってくるまでの期間の夕焼けと、それから昼間の心地よい青空を楽しみながら、日々を重ねていきたい。

【立夏】夏の始まりの時期
初侯:蛙始鳴(かわずはじめてなく) 5月5日~5月9日
次侯:蚯蚓出(みみずいづる)5月10日~5月14日
末侯:竹笋生(たけのこしょうず)5月15日~5月19日

茶道手帳2024

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