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週報20240422-28

この週報はアーティスト井口真理子が、福岡県宗像市大島という離島を舞台に、「一日も無駄にせず、慈しんで生きる」というモットーのもと暮らす、その記録である。
毎週末に、先週号を振り返りつつ、当週号を書き綴る形式のため、配信は1週間ずらしている。
マガジンのサブタイトル「心技体」は、今年の書初であり、その1年における自分との約束である。

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4月第4週、朝型生活を継続中。今週も、エピソードが盛り沢山。
が、あまり全てを網羅的に書き留めていくのも、いささか強迫観念めいてくるので(笑)、今回は手短に、気楽に書き綴るとしよう。

先週号にて登場した木工職人の友人が、いよいよ本領発揮である。

この人物においては、収集癖というのか、人ひとりが一生のうちに所有するであろうモノの量にはおよそ及びそうもない、膨大なモノを所有するという特質をもっている。
もちろん、仕事道具も多岐にわたり、多種多様のラインナップで、さらにそれらがハイエンドなものばかり。仕事場を訪れる際は、憧憬と好奇心の眼差しで、そうしたこだわりの品々を拝見している。

職人は今回、それらのオールスター工具たちの中から、必要最低限な精鋭部隊をスーツケースに詰めてやってきた。
私も普段使いの工具ならばいろいろと取り揃えているつもりだが、職人の工具の中には、小さな定規ひとつ取っても、初めてお目にかかるようなデザインで、使い勝手のよさそうなものがあったりして参考になる。

手持ちの精鋭部隊で、先日調達した木材を手際よく採寸し、切断し、段取りを重ねてパネル制作に当たってくれた。

細やかに美しく仕上がっていくパネル

一方、私はその職人をもてなすべく、一日三食、毎回献立を考え、できるだけ大島の食材を取り入れられるよう、料理に励み、家事に精を出すのであった。

なかでも好評を博したのが、「鯵の漬け丼」である。
先日捌いた鯵の切り身がたくさんあったので、せっかくだからと保存が効くように漬けておいたのだ。
漬けのレシピはお世話になっているMさん直伝のもの。
醤油1:みりん1+酒少々+塩少々+すりごま・いりごまをお好みで、ひたひたに。
一晩漬けてごはんに載せれば、絶品漬け丼が味わえる。
美味しければ「美味しい」、と口にしてくれる友人から、この時は「めっちゃウマい、お店で出せるレベル」と太鼓判をいただき、ガッツポーズする私であった。

デザートも、もちろん用意。
普段私は、こだわり強め系生協の宅配サービスを利用している。(離島でも利用できるのがありがたい)
そこのバニラアイスクリームが美味しいので、事前に買っておいた。
実はこの友人から昔教えてもらった美味しいレシピがあり、一緒に食べようと思って楽しみにしていたのだ。
それはバニラアイスクリームに、たっぷりのヨーグルトをかけ、さらにマーマレードをかける、というもの。
今回マーマレードを切らしていたので、大島特産品である、甘夏を使用。
身だけを剥き出し、一口サイズに切り、メープルシロップをたら〜り。
これにて、甘苦酸っぱい、旬なマーマーレード風味の完成だ。
それをあいがけにして頬張ると、う〜む、やめられないとまらない。

友人は不思議なくらい、衣食住を共にしても違和感がない。緊張もしないし、変な気も遣わない。されど、親しき仲にも礼儀あり、という適度な距離感がある人で、互いにパーソナルスペースを維持でき居心地がよい。
私は自宅に招く人は慎重に選ぶ方なので、この気楽さはありがたかった。
家族のような、兄弟のような、師匠のような、友人なのだ。

畑作りも鋭意進行していった。
火曜には農協で苗の即売会があり、数量限定だったので開店後すぐに向かった。スイカ、ナス、キュウリ、トマトなどの夏野菜の苗を、早速畑に追加投入。その前に、やはり鍬で耕したり、畝を整えたり、砂利を除去したりと、ひと仕事しなくてはならなかった。

畑仕事を終えて戻ると、友人から「畑はほどほどに、本業に支障をきたさぬよう」という忠告を受けた。今週は、他にも2名から同じ忠告を受けたので、異口同音、天のお告げとおぼしきかな。うむむ。
確かに、どうも私は、畑「沼」に膝あたりまでは浸かってしまったらしい。
なんせ毎日、気になってしょうがない。
雑草を見るや、すぐ引っこ抜く習慣がついたり、猫のフンをこまめに取り除いたり。畝の修正なんかをしてしまう。
畑には生命力が漲っているし、畝作りなども彫刻チックな趣があるし、とにかくワクワクと、楽しいのだ。しかも結果的にその生命が、食を通じて自分という生命に取り込まれるなんて想像するだけで胸躍るではないか。

しかし、私はただひとりの、私である。一人分の、リソースしかないのだ。
たとえ三人分動いたとしても、使える時間やエネルギーには限りがある。

今年は個展が、何より重要なミッションだ。
そして、大島でのアートディレクションの仕事も忙しくなってきている。

無理をしたくないし、焦りたくない。
良いモノ、作品、結果を生み出すのは最善の行動から。
最善の行動は、最良の精神と身体から。
目指すは、中庸である。これがなかなか難しい。
ハイテンションで乗り切れるのは序盤だけ、その後失速しては意味がない。
常に淡々と、ベストを尽くし、生まれた成果を客観的に見て、次に繋げる。
インスピレーションは、余白に宿ることも忘れずに。
美しい旋律が、音符と休符によって生まれるように。
私は宇宙から授かったこの心身を、そのように、慈しんで、生き尽くしたい。
人生は、大海に打ちあがる波しぶきの、一粒の如し、と捉えている。
宇宙の時間の中では、ほんの一瞬のこと。
その一瞬をどのように生き尽くすかが、常に宇宙から問われている。

ああ、今週号は気楽に書こうなんて始めておいて、人生訓にまで行きついてしまっているではないか。どこが手短なのだ(笑)。はは。まぁ懸命に生きている証と捉えよう。

結論、畑はほどほどに、である。うむ。

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そして迎えた、友人との別れの時。
予定通り、大型パネル+キャンバス張りを遂行してくれた。仕上がりも上々、美しく、理にかなっている。さすがの一言。
完成したその支持体に絵を描いていくのにも、一層気合が入る。

その他、離れの作業小屋のDIYまでしてくれた。ありがたや…….。

最終フェリーに乗り込む友人に両手を振ってお礼を叫ぶ。不思議で楽しいあっという間の日々だった。

フェリー出航の見送りは、なかなかに情緒深い。
電車や飛行機のように、あっという間に見えなくなってしまうことはなく、だんだんと遠ざかっていく様子が眺められるからである。これぞエモいというべきか。

ずっと元氣でいてくださいね

この日は、夕方Mさんと夕日を見に行った。
今まで何度も美しい夕日を観てきたけれど、この日のそれは格別だった。
快晴度で言えば最高ではないものの、友人との思い出が蘇り、時の経過を抱きしめた。
我々の人生において、全ては一期一会なのだ。
波長が合う人との出会いは貴重で、お金では買えない財産だ。

そんな財産を心のお守りにして、これからの一期一会を大切にしよう。
目頭が熱くなるのを感じながら、私はまた自分との対話と切磋琢磨の日々に戻るのであった。




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