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マニ教が消えた訳~『マニ教とゾロアスター教 世界史リブレット4』(山本由美子)~

世界史の授業では、メジャーではない宗教のことも教える必要があります。教科書や用語集に載っていること以外に、もちろん自分でもある程度は調べて教えるわけですが、正直教えていて、自分でもよく分からない宗教もあります。

その1つがマニ教で、「マニが創始し、ゾロアスター教をもとに、キリスト教・仏教などを融合させた宗教」というような説明になるわけですが、これらの3つの宗教を融合するとどういうことになるのか、私にはイメージがつきません(^-^;

幸い、これまで具体的なことを訊いてくる生徒はいませんでしたが、やはりこのままではいけないと思い、この本を読んでみた次第です。


それで分かったのは、まずマニ教の神話が様々な宗教の要素を盛り込んでいること。

マニ教は(中略)他の宗教と論戦をしながら改宗を勧めていった。そのとき、相手の宗教を否定するのではなく、むしろ積極的にその宗教独自の概念や神話を取り込んで、違ったものにつくりかえてしまうところに秀でていた。

これで少し、イメージが湧きました。


ただ、この折衷主義的であったことこそ、マニ教が発祥地の中東にとどまらず、西はスペインから東は中国まで、広大な範囲の歴史に影響を与えたにもかかわらず、消えてしまった理由であったようです。

本来折衷主義的であったところから、自由な翻訳と翻案が許されたため、あまりに複雑になりすぎたことが、衰退の要因の一つだったのかもしれない。

例えば中国に伝わった時には、仏教や道教の一派のように見せるなど、あまりに柔軟でありすぎたんですね。その結果、どこの地でも人々の間で結構流行ったものの、あるいはそれだからこそ、各宗教の指導者からは危険視されたわけです。

ゾロアスター教からもキリスト教からも、仏教からも道教からも、要素を取り込んだすべての宗教から異端と見なされ、どの地でも最終的には迫害されて消えてしまったわけです。


なお、どの宗教でも大抵女性は男性より下に置かれますが、マニ教は少々違ったようです。

マニ教には、女性が「選ばれた人」になることにたいするタブーはなく、女性の布教師もめずらしくはなかった。

「選ばれた人」というのは、聴聞者(一般の信徒)より上で、いわゆる出家者の一番下の地位です。まぁ、出家者の中でも上の方の地位は無理だったのかもしれませんが。


ササン朝に意外と多くのキリスト教徒がいたというのも、この本で初めて知りました。

シャープフル二世(在位、三〇九~三七九)はシリアにおけるローマとの戦いに大勝利をおさめ、キリスト教徒の捕虜を大量にメソポタミアやイラン各地の都市に移住させた。そのため帝国内部のキリスト教徒の数が増え、クテシフォンヤグンデ・シャープール、ビーシャープールなどの都市には司教区がおかれ、司教が任じられてその管区を統括するようになった。

キリスト教徒は二倍の税を課されたり、殉教者を出したりもしましたが、5世紀初めには彼らへの寛容な政策がとられるようになったようです。なのにそれに対するキリスト教徒の反応はというと……。

寛容策に乗じてキリスト教徒が攻撃的になり、ゾロアスター教の祭司を襲ったり、火の寺院を壊したりする事件があい次いだので、ふたたび弾圧されるにいたった。

厚意に対し、仇で返してはいけませんね。


ちなみにこの本の題名は『マニ教とゾロアスター教』ですから、もちろん半分くらいはゾロアスター教について書かれていますが、唖然としたのは以下の記述。

叡知の主アフラ・マズダーは先見の明によって、対立する二霊は戦わざるをえないことを知った。その場合、戦う場と武器と主体が必要になるし、戦ったあとには勝敗が決まる。したがって、戦いを始めるにあたって、究極的に自らの勝利となるときを期限とすることができれば、自分が勝利して終わることは間違いがない。そこでアフラ・マズダーは、自分が勝利するときを終着のときとするという条件で戦おうと提案した。死と破壊の霊は、結果をみとおすことがないので、ただ戦うというチャンスにとびつき、この提案は同意された。

それこそ授業では「最後には光の神アフラ・マズダが勝利することは決まっている」と教えるのですが、その理由が不明でした。そうしたら、「自分が勝利するときを終着のときとするという条件で戦」っていたとは……。アフラ・マズダ、なかなかしたたかですね。そして闇の神アーリマン、ちょっとおバカすぎるような……。


ともあれ、いろいろ勉強になりました。


見出し画像には、ゾロアスター教(拝火教)にちなみ、火の写真を使わせていただきました。


ちなみにゾロアスター教がキーワードの1つになるのが、松本清張の小説『火の路』です。





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