夏色の庭
緑がぐんと濃くなって、わが家は夏色に包まれています。
もしも、あたしが居なくなったら、わが家はあっという間に深い緑に埋もれてしまうことでしょう。まあ、そんな先のことは知らないけどね。
あたしの県、空き家の軒数が日本一らしい。昔の宿場町とか、町家、豪農の立派な家とかなら、流行りの古民家再生プロジェクトとかすればいいかもしれません。
でもねぇ、古いだけが取り柄の何の面白味もない田舎の家。再生する価値も見いだせず、緑の重みに耐えきれず朽ち果てた、古い家の残骸が増えるのみです。
そのうち、腐海ではなく、緑の海に沈む運命なのかもしれないなぁ、あたしの町。
なんて、木陰でマールを見ていたら、空想がひとり歩きです。
今はこの子もいるし、まだ、腐海じゃなくて緑の海に沈む訳にはいきません。暑くない、早朝のうちに、せっせと家の回りの草刈りをする、今日この頃です。
それにしても、ほんの少しサボって草刈りをしなかったら、あっという間に緑に覆われるわが家です。
東京みたいな都会も、誰も管理しなかったら草に覆われて、ジャングルみたいになるのかねぇ。でも、コンクリートで覆われていて、肝心の土がないから無理かぁ。
研修に参加するため、半年ほど東京に通ったことがあります。
ぎゅうぎゅう詰めに建ち並ぶ、小さな戸建や古びたアパート。いくら住所は東京都でも、あんなところには住めんぞ。
電車の窓から見える、都会の裏の顔に、心が冷めた田舎者のあたしでした。
それとも、もしかしたら、あれが都会という名の東京の、表の顔かしら。江戸っ子が住む場所が表かな。表か裏か、半か丁か!なんて意味不明です。
ただ、小さな家の玄関にも、狭いアパートの窓辺にも、花の鉢が置かれていました。人は一握りの土と緑があれば、人間らしく生きていけるのかねぇ。
妙にセンチメンタルな気分で、都会の電車に揺られていた自分を思い出しました。
となると、こんだけ土と緑に覆われて生きるあたしは、真の人間かもしれないなぁ。
さてさて、空想遊びも終わりにして、今日は鮑めしでも食べに行こうかねぇ。