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口ぐせ


「でも、あたし、不器用だし」

3年前に短靴の試作品を作ってから、世界はパンデミック。その女性はずっと山の工房に来ることが出来なかったそうです。

久しぶりの工房、「先生」と呼ぶ知人と連れ立って、少し興奮気味でやって来ました。

その彼女、どうやら口ぐせは「不器用だし」みたいです。隣に座って半時間もしないのにもう何回、耳にしたことか。

不器用だから、自分で作るより先生(この先生とはものづくりの師匠のこと)に作ってもらう方がいい。

不器用だから、あたしはここ(工房のこと)に来る資格はない。

いやいや、あたしに言わせると、ここに来ただけで凄いんです。大抵の人は、靴を作っていると話すと「いいなあ~、あたしもやってみたいけど。でもね~」と、ほとんどの人がはじめの一歩を踏み出しません。

踏み出せないんじゃなくて、踏み出さないんです。

あなたに出来ても、あたしには、僕には無理です、という人がほとんどで、この工房まで足を運んだだけで、立派に「ものづくり」の仲間です。

でも、初対面の人にとやかく言うと、余計に「あたしは不器用、あたしには無理」という壁を積み出すので、静かに、隣でチクチク。

「先生」と呼ばれる知人のご年配の女性は、来月、旅行に持っていく小ぶりのショルダーバックを作るようです。

革と幌布はんぷを組み合わせたお洒落なデザイン、でも、実は、幌布は革みたいに穴が開けられないので、縫い合わせるのが面倒です。安く仕上がると思ったようですが、安価なものは面倒がついてくるようです。

結局、革と幌布は工房の先生、師匠がミシンかけをしていました。


あたしの口ぐせは「まあ、ええんちゃう」、たまに、「むっちゃ、雑やねん」です。

雑だし、行き当たりばったりだし、目分量。だから、これまで作ったトートバッグもショルダーバックも、どこか、アシンメトリー。
でも、それが味というものです。

来年どころか、再来年の仕上がりを目指して短靴作りに励む隣の彼女。いやあ、そんなに時間をかけてたら、革も紫外線と汗で変色をするかもしれませんよ。

あっ、でも、それも味ですね。