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「虎に翼」第6週「女の一念、岩をも通す?」

ついに、寅子たちが高等試験(司法試験)を受験。
結果はいかに。

1.「試験を受けられる」と「合格できる」は違う


さて、法改正がなされて女性にも扉が開かれた高等試験。
なんと、寅子、よね、涼子、香淑、梅子は全員筆記試験に不合格。筆記試験に通ったのは、寅子たちの先輩である久保田さんだけでした。
しかし、その久保田さんも口述試験で不合格。
寅子は、「働いて、自分のお金でどうにかする」という条件で勉強を続けることを許されたのでした。

明律大学から筆記・口述ともに合格したのは花岡稲垣の二人だけでした。
花岡はともかく、悪ガキの稲垣が受かるというのは…
もしや、久保田さんは女性ゆえに落とされたのではないか…?という疑念も湧きます。

合格者が出なかったことから、明律大学法学部女子部は、(上層部が勝手に)新規募集を停止するという事態に。

学生への相談もなしにあんまりだと香淑が抗議。寅子たちも、そして男子学生である花岡たちもそろって、女子部廃止を一年間待ってもらえないかと懇願します。結果として一年の猶予が与えられ、もし来年も合格者が出なかったら予定通り廃止ということになりました。

2.去って行く仲間たち


一年の猶予を無駄にしないために、そして後輩たちの未来を守るために、寅子たちは一所懸命に勉学に励みます。その勉強会に、よく轟も一緒に参加していました。いい人。
 しかしその矢先、香淑に暗雲が。日本で一緒に暮らしているお兄さんの同僚が逮捕された影響で、お兄さんも特高に連行されてしまったのでした。幸いにも疑いは晴れましたが、いよいよ身の危険を感じ、お兄さんは韓国(当時は朝鮮)への帰国を決断。

しかし香淑は「まだやりたいことがある」と言って一旦は帰国を断り、熱心に勉強を続けたのでした。

しかし疑いが晴れたとはいえ、女性・朝鮮人(当時は差別されていました)・お兄さんに思想犯の疑いありという試練を持つ香淑が、司法試験に受かる望みはほぼないに等しい。

香淑が日本で勉強を続けるのは、仲間たちの試験を見届けるためだったのでした。筆者はこの回をランニングマシン(ジム)の画面で見ていたのですが、うっかり泣きそうになり、不審者になるところでした。

しかし状況は悪くなる一方で、試験のときまで残るのも厳しい。よねが、「朝鮮に帰るには、今しかない」と厳しいけれど思いやりのある忠告をしたことで、香淑はやむを得ず帰国を決断します。
最後の思い出作りとして、寅子は海に行くことを提案します。

しかしあいにく、天気は曇り空だったので「思ってたんと違う」となってしまいました。この場面で涼子さんが「香淑さんのお国での名前はなんと言うの?」と聞いて、それに「チェ・ヒャンスクです(すみません、筆者はハングルを存じ上げず)」といい、短い間ですが「ヒャンちゃん」と呼ぶようになったのでした。それから程なくして、香淑改めヒャンちゃんは朝鮮に帰ってしまいました。

悲しい展開はまだ続きます。なんと、高等試験を2週間後に控えたタイミングで、涼子さんの父である桜川男爵が失踪(駆け落ち?)。
男爵は婿養子であり、かつ妻が圧倒的な力を持っており居心地が悪かったのでしょう。それが限界を迎えたのかも…。

おそらく男爵は、あえて自分がいなくなることで家を終わらせ、娘を解き放ちたかったのでしょう。しかし、優しい涼子さんにはそれはできなかった。もしこの状態で、自分も弁護士として独立したら家はお終い。
「家が終わるだけでなく、桜川家で雇っている使用人たちも路頭に迷うことになる」
涼子さんは試験を受けることを諦め、結婚することを決めたのでした。
よねは、「お前はそれで良いのか」と問いかけますが、涙ながらに「母を見捨てることができない」と訴える涼子さんに返す言葉がありませんでした。

「親(家)が重い問題」。ニュースやドキュメンタリー番組などを見ていると、「昔のことでしょ」と言い切れないのが辛い。

この話に乱入してきた涼子さんの母・寿子はアルコール依存症のようで、正気も失っている様子。
寿子は、寅子たちに「試験に受かるよう口添えしましょうか」と突っかかりますが、寅子は「それでは意味がありません。私たちは、私たちの力だけで、みんなそろって合格したい…したかった」と思いを吐露します。
「したかった」と言い直したのが切ない。

そして迎えた高等試験当日。寅子、よね、轟、中山先輩(良く泣く先輩)猪爪家の下宿生の優三は試験会場に向かいます。

緊張してまたお腹が痛くなる優三さんに、寅子は変顔をして気持ちを和ませたのでした。惚れてまうやろ。
ところが、今度は最年長メンバーの梅子が来ていません。
気になりながらも、試験を受ける寅子たち。今年こそ、後輩たちのためになんとしても受からなくてはいけません。

試験を終えて家に帰った寅子。猪爪家には、梅子からの手紙が届いていました。
そこには、試験会場に行けなかったことへのお詫びと、寅子たちなら立派な弁護士になれる、私のような女性の味方になってほしいと記されていました。

手紙を握りしめ、泣き崩れる寅子。
筆者もまた、ジムで泣く不審者になりかけました(二日連続二回目)。

自分の努力ではどうにもできない事情で翼を折られてしまった仲間たちの思いも背負って筆記試験に臨んだ寅子たち。
結果は…寅子、よね、優三、中山先輩、轟、みんな筆記試験を通過。おめでとう!

残すは、口述試験のみ。昨年筆記試験を通った(当時は、筆記試験の結果を次の年に引き継ぐことができたそう)久保田先輩も一緒に、皆で口述試験対策に励みます。

「もう少し物腰を柔らかくした方が…」とアドバイスをされ、「大事なのは法の知識なのでは」と反論するよね
しかし、久保田先輩から不穏な話を聞かされます。
それは、「結婚の予定はあるか?と聞かれて『試験に関係ないのでは』と反論してしまった、もしかしたら…」
モヤモヤします。

寅子は、笹寿司のおっちゃんに「去年の筆記試験は、皆がかなりの手応えを感じていたんです。なのに…」と愚痴ります。

そこに現われた桂場は、「『手応えがあった』などというなまっちょろいことを言っているうちは駄目だ。同じ成績なら男を採るのは当たり前のこと。受かりたいのなら、他の者も凌駕する力を持て」と言って去って行きます。

女子だけが、「文句のつけようがない完璧な出来」を求められる理不尽。
つい最近も、医大の入試で女子受験生への一律減点が問題になったことも照らし合わせると、こうしたことは今にも続いているのだろうと思います。

万全の対策を行い、試験前日。
しかし、このタイミングで寅子に月経が来てしまいます。寅子は月経が重い方なので、絶体絶命とも言える状況。

女子はこれが辛い。筆者は寅子ほど重いわけではありませんが、「それ」になると頭がぼーっとしたり、場所や時間を問わず眠くなったりするので、これが試験にかぶると終わりを覚悟します。

当日は優三さんが一緒に試験会場に行ってくれて、よねが前に教えてくれた三陰交(生理痛に効くツボ)を押して、なんとか口述試験に臨みます。
三陰交を押す寅子を気にしているよねさんが優しい。

寅子はしんどい中、口述試験を終えて帰宅。母・はるさんに「体調は悪かったけど、やりきったから後悔はない」と言います。
しかしはるさんは「嘘おっしゃい。自分で働いたお金で勉強するのなら、私は何も言いません。頑張りなさい」と暖かい言葉をかけてくれました。

いい家族ですね。家族の事情で受験を諦めた涼子さんを考えると、「理解して応援してくれる家族」がいかに重要かがあぶり出されるようです。

そして、口述試験の結果が届きます。
結果は…寅子、轟、久保田先輩、中山先輩は合格。
よねと優三は不合格でした。

よねさんが法の知識で男性陣に劣っていたとは考えられません。
面接官に男装を指摘され、「そのトンチキな格好は弁護士になっても続けるのか」と聞かれ、「トンチキなのはどっちだ。そっちの思い込みを押しつけるな」と言い返してしまったのが災いしてしまったのでしょう。
口述試験(今で言えば面接?)の理不尽さですね…。

優三は、これで司法試験を諦めることを猪爪夫妻に伝えます。
もしかしたら優三は、「腹痛さえなければ」という思いで勉強を続けてきたのだと思います。でも、月経でしんどくても合格を勝ち取った寅子を見て、「それも言い訳だ」と感じてしまったのでしょう。

お通夜のような顔をしている寅子を見て、「寅子ちゃん、そんな顔しないで。お祝いしよう」と言ってくれる優三さん。菩薩かな。

つらい。名前のとおり優しいのに、君こそ弁護士になってほしいのに。
このドラマ、試験で人を選ぶということの非情さも突きつけてきました。家柄や血筋で人を選ぶのとはまた違う残酷さがあります。

3.「日本一優秀な女性」?


ようやく掴んだ、「女性初の弁護士」の肩書き。
家族だけでなく近所の人や、「竹もと」のご夫妻、笹山(傍聴マニアの寿司屋のおっちゃん)にも祝福されまくります。
しかし、仲間の死屍累々を思うと、手放しで喜べない寅子でした。

ある日、よねが猪爪家に来ていました。
「私の口述は完璧だった」と悔しそうに言い、先ほどの男装の下りを思い出します。
その上で、「私は自分を曲げない。曲げずに、いつか必ず合格してみせる」と誓います。頼む、よねさんにどうか幸あれ。
そして、寅子に「言うのが遅くなってしまったけれど、おめでとう」と祝福します。

人一倍負けず嫌いで、誰よりも熱量をもって勉強していたよねさんが、自分の不合格(理不尽)を受け止め、友人の合格を祝えるようになるまでを思うと…

そして、寅子は十八番である「モン・パパ」という歌を口ずさみながら、6人で行った海を回想し、モヤモヤの正体に気づきます。
そうだ、仲間が居たのだ。でもその仲間たちは不本意ながら道を阻まれ、残ったのは自分だけ。モヤモヤの正体はその悲しみと、襲いかかる不条理に対する怒りでしょう。

そして迎えた祝賀会の日。
記者団から、「おめでとうございます。日本で一番優秀なご婦人がた」と賞賛されますが、寅子は「はて…」と納得いかない様子。
「そんなことありません」と否定しますが、それも謙遜と受け取られ、「女性の美徳としての謙虚さ」に変換されてしまいます。

ここから寅子の長台詞。
「この場に私が立っているのは、私が死ぬほど努力を重ねたから。でも、高等試験に合格しただけで自分が女性の中で一番優秀だなんて口が裂けても言えません。志半ばで諦めた友、そもそも学ぶことが出来なかった、その選択肢があることすら知らなかったご婦人方が居ることを私は知っているのですから。
(中略)私たちは怒っているんです。法改正がなされても、女は不利なまま。弁護士になれても、裁判官や検事にはなれない。男性と同じ試験を受けているのに。(中略)男か女かで振るいに欠けられない社会になることを私は心から願います。いや、みんなでしませんか。しましょうよ。私は、そんな社会で何かの一番になりたい。そのために良き弁護士になれるよう尽力します。困っている方を救い続けます。男女関係なく」

打ち込みながらも、筆者は泣きそうです。「志半ばで諦めた友」のあたりからもう駄目でした。このスピーチを唯一記事にしてくれた竹中記者の株が上がりましたね。

朝ドラで泣くのは、記憶の限りだと初めてです。
もう、名スピーチすぎて解説はいらないでしょう。何を書いても蛇足になる。その通りだとしか言えない。

ただ、それだと芸がないので少しだけ。
ドラマが進むごとに、「さよーならまたいつか!」という主題歌の凄みが増して行っているように思います。

たとえば、
「もしも私に翼があれば 願う度に悲しみに暮れた」
「土砂降りでも構わず飛んでいく その力が欲しかった」

この歌詞は、自分の力でどうにもならない事情で、受験を諦めた香淑や涼子、梅子にも当てはまるし、「姉を救いたい」ともがいた、よねさんにも繋がる。そして、去りゆく友に対してなすすべがなかった寅子にも。

「したり顔で触らないで 背中を殴りつける的外れ」
「女性初の弁護士」「日本で一番優秀な女性」ともてはやされつつも、ほしいのはそれではないと静かに怒る寅子。

極めつけは、
「人が宣う地獄の先にこそ 私は春を見る」
「女性」ということだけでハンデを背負うことになっていた時代(もしかしたら今もそうかも)。血のにじむような努力をして、司法の道への切符をつかみ取り、それで終わりではなく、ずっと戦い続ける。人はそれを「地獄」というけれど、それこそが私のやりたいことだ。
寅子そのものではないでしょうか。

令和の今になっても、完全に改善したとはいえない女性の立場。しかし、100年前に比べたら驚くほど向上しているのは事実でしょう。それは、寅子のような、茨の道を切り開いてきた先人たちの歩みがあってこそ。
そのことを心に刻みながら生きていこうと思います。

執筆しながらも温かい涙がこぼれそうです。どうか、このドラマが一人でも多くの人に届きますように。












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