「虎に翼」第5週「朝雨は女の腕まくり?」

寅子の父・直言が汚職の容疑で逮捕されてしまい、裁判へ…という波乱の展開でしたね。
「朝雨は女の袖まくり」とは、「朝の雨はすぐ止むものだから、女の人が袖をまくるのと同じようにどうってことない」という意味です。
舐めているな…。

今週は少し趣向を変えて、あらすじを解説しつつ刑法についてをメインに書きたいと思います。


1.心強い仲間たち


父が逮捕されたことによって、寅子は大学に通えなくなってしまいました。
直言たちは「涜職に手を染めた国賊」となってしまい、弁護人を引き受けてくれる人が見つかりません。

そんな中、花岡と穂高先生が猪爪家を訪ねてきます(表にはマスコミが張り付いていたため、塀を跳び越えて)。
そして、花岡の提案で穂高先生が直言の弁護人を引き受けることを伝え、寅子に「学生の本分は勉強だ」と大学に来るよう促します。

寅子が大学の教室に入ったとき、女子部のメンバーは勿論というべきか、暖かく迎えてくれましたが、男子もおとなしかったのです。
その理由は、寅子を「犯罪者の娘」呼ばわりをした輩を轟が鉄拳制裁したからなのでした。
どこまでも株が上がる轟。
さらに、寅子の友人たちは、授業に来られない寅子のために授業のノートを取っていてくれたのでした。そして、皆で直言の冤罪を晴らすことはできないか、協力するのでした。

2.お父さんは帰宅できたけれども


寅子の父・直言は取調を終え、家に帰ることができたものの、過酷な取調によって心身共に衰弱していました。
直言は何もしていませんでした。しかし、「自白すれば全員を釈放できる」と脅されて、やむなくやってもいない罪を自白してしまったのです。

裁判の時、検事が手に持つ扇子をたたく音で取調の恐怖を思い出してしまい、気を失ってしまうほど、心に傷を負っていたのでした。

その様子を見た竹中(女子部に取材に来ていた記者)は、「あんたがそんなんじゃ、また娘が襲われるぞ」と言います。
 そう、この事件は政治的思惑が絡んでいて根が深い。事件について調べようとしていた寅子は、何者か(おそらく政府側の人)に襲われそうになります。幸い花岡がいたのと、竹中が割って入ってくれたおかげで事なきを得ました。

寅子が、直言に余計な心配をかけまいと、その身に降りかかった危難すら黙っていたことにショックを受け、「ごめんな、トラ」と謝る直言。
そして、全ての罪を否認するのでした。
しかし検察は自白を盾になかなか冤罪を認めません。

着実に証拠を積み重ね、検事の言い分の綻びを見つけて追い詰めていく穂高先生が最っ高に格好いい!
物腰は穏やかなのに、いや、だからこそあおり性能が高い。小林薫さんのお芝居が素晴らしいです。

3.判決は…

実はこの裁判の裁判官は、寅子が法学の世界に入るきっかけを作った桂場だったのです。
検察側が桂場を買収しようとしている場面もありましたが、判決はなんと、
「十六名全員無罪」!

「無罪だ」と聞いて、隅っこで喜びを爆発させるよね様にキュンです。
お祝いにお寿司を持ってきてくれる笹山のおっちゃんも、竹もとのご夫妻も微笑ましかった。

ほんっとに良かった。共亜事件のモデルとされる帝人事件も全員無罪でしたので、まあ史実通りの展開でしょう。

桂場たち裁判官の正義感がみんなを救いました。よかった!
判決文は、「犯罪の証拠そのものが存在しない事実を捏造しており、水面の月を掬い上げんとするかの如し」とまるで漢詩のような美文。
どうやらこれを書いたのは桂場だとか。

穂高先生も、「君らしいロマンチシズムと怒りが伝わってきた」と絶賛します。
桂場は、介入しようとした検事たちを「司法のなんたるかも知らない馬鹿ども」と一蹴します。火力高い。でも切れ味が鋭くかっこいいです。

検察も控訴を断念。直言たちの無罪が確定しました。
本当に良かった…しかしながらそろそろ戦争の足音も聞こえるわけで…つらい。

今回のポイント:「証拠」について


さて、現代刑事訴訟法における「証拠」について考えていきましょう。

現代の刑事訴訟法(以下、刑訴法)では、317条から328条に「証拠」についてどう捉えるべきかということが定められています。

まず317条には、「事実の認定は、証拠による」
そして、318条では「証拠の証明力は、裁判官の自由な心証に委ねる」と記されています。
従って、今の刑訴法をこの裁判に当てはめるとするならば、この事件の「証拠」として提出されたものについて、裁判官を務める桂場が自由に証拠としての能力を判断することができるということ。

自白の証拠能力について、319条では
強制、拷問または脅迫による自白、不当に長く拘留された後の自白その他任意にされたものでない疑がある自白は、これを証拠とすることができない」とされています。

また、「被告人は、公判廷における自白であると否とを問わず、その自白が自己に不利益な唯一の証拠である場合には、有罪とされない」と記されており、有罪になる根拠が自白しかなく、充分な物的証拠などに欠ける場合は有罪にならない(はず)です
(317条、319条ともにe-govより引用)。

今回のケースの場合、直言たちは長期間もう即され、手錠をかけられ拷問・脅迫もされていますから、現代の刑訴法で裁くのならば、拷問の録音などを出すことができれば一発でKOです。

と言いたいところですが、悲しいことに現代の日本でも厳しい態度で取調に臨み、被告人に自白を強要する「人質司法」が度々問題になります。
「犯人を見つける」というのは、事件の概要や原因を知るための手段であるはずなのに、犯人を見つける(もっと言えば、「容疑者」に罪を認めさせる)ことが目的化してしまっているのではないか、と感じます。

日本国憲法第36条「公務員による拷問及び残虐な刑罰は絶対にこれを禁ずる」
「絶対に」です。
たとえ犯人を探すためでも、拷問は絶対にやってはいけない。手段の目的化、ダメ絶対。

すごいドラマです。舞台は100年前のはずなのに、親権の話と言い、女性の社会進出といい、今のことを描いているような…

事件を経て寅子が抱いた法律観で締めたいと思います。
「法律は道具ではなくて、それ自体が『守らなければいけないもの』水源のようなもの。綺麗な水に変な色を混ぜられたり汚されたりしないように守り、正しい場所へと導かなければならない」

このセリフを憲法記念日にぶつけてくるとは、製作陣の方々は恐ろしい子!
こんなに面白くてタメになって、まだ5週目ってほんとですか?!
続きがとっても楽しみです!


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