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~~『ハート・アンダー・ザ・ブレード』~~(元)オイランハッカー(元)JK(現)ニンジャ視点 #1

これはニンジャスレイヤーTRPGにおけるとあるセッションのプレイヤーキャラクター視点で小説化というなかなかあれなことをしています!内面描写はほとんど後で盛ったものです。ガチで。ここまで考えながらやれるか!他PCの内面描写や独立シーンをカットするというさらにあれなことをしてしまっているので色々イタイかもしれないけどキヲツケテネ!
続き


 トコロザワピラー、ネコソギファンドの本社であり、裏の世界の者たちには新興でありながらネオサイタマを牛耳るヤクザでありニンジャ組織…ソウカイヤの本拠地と知られてもいる。その高層ビルの最上階付近の一室で頭を悩ますニンジャがいた。
 彼こそはソウカイヤ設立と躍進の立役者であり、シックスゲイツと呼ばれる幹部制度を作り上げたソウカイヤのナンバー2、ゲートキーパーである。
彼が悩んでいるのは人材難である。ニンジャスレイヤー(ニンジャを殺す者)と名乗る謎のニンジャが現れ、たった数日でソウカイヤのニンジャを多数殺戮したのであった。その中には彼が教育を行っていた若いニンジャも含まれている。
 今はいい、ゲートキーパーは思う。シックスゲイツやその座を狙う候補者は皆、分野は異なれぞ強力なニンジャであり、実際盤石に思える。が、将来は?ニンジャスレイヤー、ヤクザ天狗、イッキウチコワシ、そしてザイバツ…多くの敵対者とのイクサによる消耗でその下の層の者が足りないのではないか。
 そんな折、一枚の報告書が彼のニューロンを加速させた。シックスゲイツの一人、ガーゴイルの元でヘルカイトというニンジャがめきめきと頭角を現しているというものだ。研修…OJT…ニンジャのイントラクション…!そうだ!手練れのニンジャに実戦で鍛えさせればいいのだ!
 彼はかつての電算室での活躍を思わせる速度でタイプし始めたのであった。



 重金属酸性雨降りしきる電脳犯罪都市ネオサイタマ。その一角にあるエンガワ・ストリート。
 エンガワ・ストリートはソウカイヤに与しない小規模武装勢力が小競り合いを続ける危険地域だ。耳を澄ませば銃声と何者かの哀れな悲鳴が聞こえるだろう。ここの住民たちはそれらを気にも止めない。チャメシ・インシデントなのだ。
 その危険なストリートを少女がダラダラとトボトボを7:3で足したような雰囲気で歩いている。彼女はパラノイア、半神的存在である超越者…ニンジャである。とはいえ見た目は十代後半に入ったばかりの少女であり、モータル(一般の人間)を片手で捻れる存在とは思えない。
 彼女はなんの目的もなくここに来たのではない。仕事だ。彼女は泣く子も黙るソウカイヤのニンジャであり、そうであるがゆえにミッションが下される。

「ミッション:アンゼン・イッパンテキ薬品社襲撃。集合はエンガワ・ストリート」 

数日前にIRC端末に届いたメッセージはそれだけであった。
そしてこれこそが彼女をだらだらと歩かせる原因となっている。

 彼女は元々ハッカーであり、ソウカイヤに所属することになってからも電算室でハッキングを行っていた。空調が効いた快適な部屋でのハッキング業務…常にニューロンが焼かれる危険性はあり、実際命がけであるが、銃弾やカラテ、スリケンが飛び交うわけではない。彼女は自分の適性に合った職場に配置してくれたソウカイヤの人事担当者の有能さに感謝していたのだった。
 しかしそんな生活はあっさり失われた。
 上司…電算室の主であるニンジャでありヤバイ級ハッカーであるダイダロスとオンライン会議中にそれは唐突に訪れた。ダイダロス宛てにノーティスが来、急にダイダロスが黙り込んだのだ。そして沈黙を破ったと思ったらパラノイアに命令を下した。
「アナタを私のシャテイ(注釈:ヤクザ組織内における直属の部下)にします。アナタ、ハック&スラッシュの経験はありますか?ない?ではバンディット=サンのところに出向して学んできてください。オタッシャデー」
一方的にまくしたてられ、一方的に通信が切断された。そして一秒も経たずに正式な辞令がIRCで届いた。彼女はソウカイヤに入ってから初めてブッダを呪った。

(そもそもアイツ、わたしのプロフィール全部知ってるじゃん!どうせシャテイ持てって言われたけどめんどくさくて言い訳作って他人に押し付けたんでしょ!)
あんなすぐに辞令が出るのもおかしい。偽造したに違いないのだ。
ストリートを待ち合わせ場所までタラタラ歩く。
更に憂鬱なのは押し付けられた側…斥候部門のバンディットが自分にいい感情を持っているわけがないのだ。
最悪捨て駒にされるかもしれない。
(かえりたい…電算室に)
パラノイアは大きなため息をついた。

目的地…集合場所には既に二人のニンジャがいた。
茶色の装束を着こんだ偉丈夫のニンジャと長身のビビッドカラー装束のニンジャだ。バンディット以外の新人ニンジャは自分を含めて三人だから新人では私が最後だったらしい。そしてバンディットはいなかった。
(…ネオンカラーナンデ?)思わず二度見してしまった。
斥候じゃなかったの?
更になにか煙を吐き出している。どうもなにかの薬物らしい。思わず顔をしかめる。クスリにいい思い出はない。
モータル時代の恥辱にまみれた日々のことを思い出しかけ、頭を振って追い払う。私はニンジャなんだ、もう。
…そもそもバンディットはなぜまだ来てないのか。呼び出しておいて。
転属の経緯、これからの向いてないミッションへの不安、そしてクスリ。
これらがパラノイアの中で混ざりあい、化学反応めいてイライラが醸成され始める。
とりあえず気を紛らわすためにIRC端末でネットを見る。

「むう、バンディット=サン。またミッション目標と集合地点のみのメールじゃないか」
憮然とした声で茶色装束のニンジャが呟く。
どうやら不満を持っているのは私だけじゃないらしい。
「ドーモ、パラノイアでーす」
とりあえずアイサツをしておこう。ただ端末から視線は動かさない。どうせニュービー(新人)同士だ。レイギはいらないだろう。
「ウフー!ドーモ、サイケデリックメデューサです。ドーモヨロシク!」
明らかに薬物でハイになっている声でアイサツされる。さらにイライラが募る。
「あ、ドーモ。サイケデリックメデューサ=サン、パラノイア=サン。ワイルドファングです。バンディット=サンが居ないが、どこかでカラテでやられたか?」
「待ちぼうけとかマジムカつく」
茶色装束のニンジャ…ワイルドファングのぼやきに同調する。
「バンディット=サンのことだ。どこかに隠れてる可能性もある。面倒なことをせずに襲撃すればいいのにな。」
どうやら思っているより脳筋らしい。話が合わなさそうだ…。不安が大きくなる。
「さっさとやってさっさと帰りたいんですけど」
できれば電算室に。さすがにそれは胸の中で抑えておく。
「なら、もう突撃してしまおう!よし行こう!ヤクが俺たちを待っている!」
ラリったニンジャ…サイケデリックメデューサがこれまた脳筋なことを言い出す。そうなったらこいつ盾にしよう。
その時
「?」
隣でなにかが動いた気配がした。

「なるほど。大した自信だなクズ共。それが口先だけでないことを祈るぞ」

雨の中から陽炎めいて揺らめいて一人のニンジャが三人のニュービーの真横に現れた。
ソウカイシックスゲイツが一人。バンディットである。
「アイエ!真横!ド、ドーモ。ワイルドファングです。」
「ウオーッ!顔が近い!ドーモ、バンディット=サン!」
なんたるワザマエか。これほどの近距離でありながらニュービーとはいえ三人ものニンジャに察知されないとは。
ワイルドファングとサイケデリックメデューサはそれぞれ驚きの声をあげた。…後者は薬物をキメながらなのでどこまで本気かわからないが。
ただパラノイアは違った。イライラが最高潮に達しつつある彼女は全てを皮相で捉えていた。
この時の彼女の感情を言語化するとこうである。
チッ横からこそこそ見てんじゃねーよマジムカつくストーカーかよ
だが上司相手である。アイサツは返さねば「ドーモ、パラノイアです」
三人の反応を無視してバンディットは話続ける。
「貴様らがここに来るまでをずっと監視していたが、まるでなっちゃいないな。油断しすぎだ。道中で少なくとも10回は殺すことが出来たぞ。それに突撃?結構な話だが、貴様らターゲットの情報は仕入れてきたのか」
(いきなりお説教とか…マジ白けるわー)
最もな説教なのだが今のパラノイアは受け入れるだけの精神の余裕がない。
さっさと説教を終わらせて話を進めようとする。
「いいからなにすりゃいいのよ」
気を紛らわすために髪を掻きあげる。
「ワハハ!バンディット=サン!おれがそんな芸達者に見えます.....?カラテ!ドラッグ!それだけ分かればイイかなって。ほら。」
「集合と書かれていたので集合しかしてないですな。」
他二人も似たり寄ったりの反応である。
説教に効果がないと見てとったバンディットは呆れきった表情で告げる。
「そうか。では勝手に乗り込んで死ね」
流石にニュービー三人は色めき立った。
バンディットはその反応に満足しつつ話続ける。まずはこのバカどもに斥候の仕事を理解させねばならない。
「ゲートキーパー=サンのお達しであるから貴様らをシャテイとしたが、我々斥候部隊はそもそも徒党を組まぬ。生きるも死ぬも一人きりだ」
「なるほど。下調べも一人で何とかせよということか」
ワイルドファングは得心がいったという顔をする。
「そんなのハッカーも似たようなもんじゃん」
生きるも死ぬも一人きり。バンディットが話した世界はパラノイアにとって馴染み深い世界だった。
もちろんこの発言はお前の世界は特別じゃないと表明している喧嘩腰の反応である。
「ふむ。パラノイア=サン、貴様あたま空っぽにみえて意外と分かっているではないか」
「ア゛…?アタマカラッポ…?」
もちろんバンディットが黙って挑発を流してやる道理はなかった。
「そうだ。我ら斥候部隊の扱うのはくそったれハッカー共と同じ情報だ。情報とは強大な武器であると同時に、扱いを誤れば自らを殺すチドクでもある」
これまたパラノイアにとって馴染み深い話である。
が自分の本職を貶され(彼女はそう受け取った)てイライラは遂に最高潮に達した。
(くそったれ…!?あんたにハッカーのなにがわかるっつーの!)
あの01で構成された世界の一端に触れたこともないくせに!
完全に子供の反応であった。
バンディットは気づいているのかいないのか話続けている。
「組織を活かすも殺すも我らシノビにかかっている。我らはソウカイヤというカタナを縁の下から支えるハートであることを忘れるな」
「アイアイ」投げやりに返事をするパラノイア。
拗ねている子供の反応である。
その反応に不安を覚えられながらも最低限の知識はあることは評価されているのには、当然気付かない。

「さて、では移動しながら、無知な貴様らにターゲットの情報を教えてやろう」
「チッ」パラノイアは聞こえないように舌打ちした。
貶めないと話もできないのかこいつは。
「まずはこいつだ」
バンディットは三人にIRCインカムを手渡した。
「ウフー!アリガトゴザイマス!」未だに紫煙を吐き出しながら受けとるサイケデリックメデューサ。
「これどうやってつけるんだ?」なれないテックに戸惑うワイルドファング
「………」視線を合わせず無言で受けとるパラノイア
しかしパラノイアはオモチャを手に入れたら徹底的に遊び倒す主義でもあった。
「あ、こうか」ワイルドファングがぎこちなく装着したのを確認すると、早速遊ぶ。
『あーテステス聞こえるー?』
『ブッダ!ブッダの声が聞こえる!』意外とノリよくサイケデリックメデューサが反応した。
『ぉわ!聞こえるぞ』ワイルドファングは音量設定を間違えたのか戸惑いを含んだ声であった。
『そーよーブッダよー』とりあえず遊ぼう。気晴らしにもなるし。
『ウオーッ!ブッダ!頼りにしてるぜ!』
ゲラゲラ笑い転げるニュービー三人。
その光景を見つめながら
(ソニックブーム=サンはいつもこんなことをしてるのか…)
スカウト担当ニンジャの評価を心の中でウナギライジングさせるバンディットであった。
「…。説明するぞ」
咳払いをし、三人を黙らせると説明を再開した。
「アンゼン・イッパンテキ薬品社は特許の切れたジェネリック薬品を高品質、低価格で市井に提供している会社だ。しかも、経済の自主性を謳ってソウカイヤの庇護を断り独自戦力を持っている。これがどういうことか分かるな?」
「邪魔ってことでしょ」
『ソウカイヤ殴りこんでもいい。だな。』
流石にパラノイアとワイルドファングは即答した。なぜかワイルドファングはインカムのスイッチ入れっぱなしではあったが。
「よく解ってるじゃないか。そう、クズってことだ」
そう自分たちに従わないものはクズ。ヤクザの理屈だ。
「.....つまり、ドラッグの掴み取り放題な」
「アンゼン・イッパンテキ社はドラックは扱ってないぞ。『安全・安心・あんまり毒性なし』が売りらしい」
「そんな!それでは俺のこの気持ちの高ぶりはどうすれば!」
騒ぐサイケデリックメデューサを無視しパラノイアはぼやく。
「実際いいカイシャじゃん」
間違いなくその辺のモータルにとってはヨロシサンなんかよりはよほどいいカイシャだろう。
『しかし、シンジケートのビジネスとやらから見たら敵ということだ』
相変わらずスイッチ入れっぱなしのままワイルドファングが答えた。
「ソウカイヤに与するもの以外はクズだ。覚えておけ」
パラノイアがヤクザの倫理観に疑問を持ったと懸念したのかバンディットはそう念を押した。
パラノイアは口を尖らしながら答えた。
「ハーイ」
「ドラッグの取扱がない?ウオーッ邪悪だ!小市民の心を弄ぶクズめ.....!」
サイケデリックメデューサの叫びは全員がスルーした。

「今回のターゲットは『シャナイヒ級機密情報の書かれたマキモノ』だ。ターゲットは会社の奥、社長オフィスにある」
「物理データかよ」
思わずつぶやいてしまう。電子データならセキュリティが甘いカイシャならUNIXを一つ見つけ、ハッキングしたら終わりなのだが、物理データだとそこまで潜入しなければならない。
難易度は(パラノイアにとっては)格段にあがるだろう。
『なるほど。斥候部隊らしい仕事のようだ』
ワイルドファングがまとめる。インカムについてはもうだれも気にしないことにしたようだ。
「現在会社は一部社員を除きおらぬ。貴様らなら余裕なのだろう?物理データなのはハッカー対策だろうな」
「ウハハハハ!残念だったな女子高生!」
パラノイアの表情が面白かったのだろう。サイケデリックメデューサが笑いながら慰める。
それをスルーしながらバンディットの言葉を反芻する。
(どーせその一部社員ってのがめんどくさいやつじゃん…)
残業してるサラリマンだけではないはずだ。警備員ぐらいは当然いるだろうし、場合によっては傭兵がいるかもしれない。
『そこで我々の登場ってことか。やはり考えられた配属だったようだ』
「そうだな。今回は貴様らの実力テストも兼ねている。マキモノを最初に手にした奴には褒美をやろう。精々励むんだな」
「結局ハクラってことでしょー」
ハクラとはハック&スラッシュの略である。結局のところ乗り込んで、殺して、奪う仕事なのだ。
『内部の地図とは手に入れないといけないのか。ハッキングは向かないのでパラノイア=サンの領域になりそうだが。』
「これはサービスだ」
IRC端末に建物内部の図面が転送されてきた。
(はじめてのおつかいかよ)
あまりにもお膳立てがすぎる。全く信頼されていないのか、あるいは…
『さすがバンディット=サン。仕事が早い。』
他の二人はそういったことを気にしていないらしい。これだから男は…。
などと考え込んでいたところにバンディットが声をかけてきた。
「さて、正直貴様らには勿体無い様な気もするが、ここまで着くのに一番遅かったパラノイア=サンにはこれをやろう」
そう言いながら路地からバンディットはあるものを取り出した…。

#1終わり。#2に続く


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