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休日の昼。小学生にナンパされた。

今から7-8年前の、社会人1年目のある休日。

「あの、すみません。何を観るんですか?」

亀有の商業施設「アリオ」にある、MOVIX亀有で上映されている映画を眺めながらどれを観ようかと考えている時。

右下の方から聞き慣れない声がした。

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視線を下ろすと、小学生くらいの年の可愛らしい女の子だった。

私は映画が趣味というわけではない。
ただ、その日はなんとなく時間があり、
なんとなくそのまま帰ることが勿体なく感じ、
「よし、1人映画でも観るか」と意気込んで映画館にきただけだった。

チケット売り場の上にある「本日の上映作品」というパネルを見ても、なんだかしっくりこなくて、悩んでいたところに突然の右下から女の子の声がしたのだ。

「あの、すみません。何を観るんですか?」と。

真っ直ぐな目で、こちらを見ている。

何故だ。

突然、見知らぬ小学生に何の映画を見るのかを尋ねられるという、予想外の状況にびっくりしつつ

「あの、ふらっと来ただけなんで、まだ決めてないんです」

と正直に今の状況を真顔で伝えた。
顔の表情を作る余裕がなかった。

そう答えると、彼女はさらに予想外のことを私に言った。

「私、『(映画のタイトル忘れた)』というのを観るんですけど、よかったら一緒に観ませんか?」

一緒に観ませんか?

イッショニミマセンカ?

心臓がばくんと鳴った音が聞こえた気がした。

見ず知らずの小学生に、映画に誘われると考えてもいなかった。

正直、その『(映画のタイトル忘れた)』という映画は、中高年の少女漫画が映画化した作品。あまり興味がそそるものでもなかった。
友達から観ようと誘われたら断っていただろう。

しかし、
声をかけてきた彼女自身に対し、興味が湧き出して止まらなかった。

何故、10個年上の女性に、声をかけたのだろうか。
何故、赤の他人と映画を一緒に観たいのだろうか。

気になって気になって仕方がなかった。

私はすぐに「観ます」と答えて、チケットを買った。

彼女の隣の席で予約した。

当たり前だ、「一緒に」観るんだもの。

上映までまだ時間があった。
映画を観ることを考えると、食事は済ませておいた方が良さそうだ。

「お昼ご飯、食べました?」

気づけば、私は彼女を食事に誘っていた。

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食事は、同じアリオ亀有の建物内にあるカフェ「ザ・フレンチトースト ファクトリー」(今はもう閉店)でとることにした。

もう2度と、知らない小学生と突然映画を一緒に観る機会なんてないだろう。店内が明るく、席もゆったりできる場所が良い。彼女としっかり話してみたかった。

「あの、こういうの初めてでちょっと面白かったんで、私払うので好きなもの食べてください」

私はそう話し、彼女と一緒にパンケーキを食べた。
最初彼女は「いえ、払いますよ」と抵抗していたが、「貴重な体験させてもらってるので、払わせてください」と無理やり押し切った。(今考えるとテンション上がりすぎて強引だったかも。申し訳ない)

食事中に何を話したのかは、そこまで鮮明に覚えていない。

うっすらと私の脳内に取り残されている情報としては

・小学生3ー5年生であること(うろ覚え)
・周囲の子とうまく馴染めない
・1人で行動するのが好き
・今日は1人で映画を観ようと思ったが、偶然私を見つけて可愛いと思って声をかけてみた(これ、ナンパだよね?)

そういうような話をした。

なんだか妙に大人びた子だなと思った。
落ち着いていて、小学生の相手をしているような感覚にはならなかった。

ただ、なんとなく小学生独自の仲間意識とか同調圧力などが苦しい子なんだと思った。

「無理やり話を合わせるのが、しんどい」

わかる。

「なんで一緒に行動しなきゃいけないのかがわからない」

わかる。

彼女と共有した時間は、楽しいというよりも、ちょっと苦しかった。

気づけば上演時間になったので、私たちは店を出た。

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映画は正直、面白くなかった。

単に内容が面白くなかったからなのか、彼女のインパクトが強すぎるからなのか、映画の内容は全く覚えていない。

恐らく、イケメン男子高校生と、冴えない女子高生のラブストーリーのような感じだった気がする。
彼女と「映画、面白かったね」というような会話もしなかった。

その後は、なんとなくショッピングモールの2階で、
なんとなく連絡先を交換し、

「じゃあ、また」

と、なんとなくお互い2度目の再会をほのめかして別れを告げた。

連絡先は交換したが、何通かやりとりした後に自然と連絡は途切れ、彼女と私の世界が交わることはなかった。

何故か最近、

ここ数日間の間で、「あの子は今、何をしてるんだろう」

とよく思い出す。

もう私も、あれから携帯を何度か変えて、連絡先もどこに入っているかわからない。

おそらく今、18歳くらいのはず。

今何をしているんだろう。

あの時話した彼女の息苦しさは、今どうなったのか。

妙に思い出して、気になってくる。

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エイプリールフールに嘘みたいな本当の話を書いてみました。

(もし万が一このブログを見て「私だ」という人がいたら連絡ください。
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