見出し画像

間野山研究学会が地方・企業との取り組みで生み出せる価値とは?<3/3>

3回にわたり、間野山研究学会の会長を務める山村先生へのロングインタビューをお届けします。聞き手は副会長の佐竹さんと学会誌編集委員長のまつもとが務めました。山村先生が所属されている北海道大学観光学高等研究センターとスポーツアパレルメーカー「ゴールドウイン」との間で結ばれた包括連携協定にはじまり、間野山研究学会が観光分野の産学連携を推進していく可能性についてあれこれとディスカッションすることにもなりました。
前回はこちら
(インタビュー実施日:2023年11月1日)
※カバー画像は2022年学会大会の模様から。

エコビレッジ構想と地域

まつもと:ここまでの佐竹さんの話は地域課題の解決と観光との関係という話だと思うんですけど、それをここでのトピックとするとすれば、南砺市さんにとってこのパークができることがどんな地域課題の解決になるのか、それは今イメージが見えているのか、そうではないのかというとこの確認はしたい、ということになるかなと思います。

山村:そうですね。そこは重要な点として是非、今度、自治体側の関係者にお話をお伺いしたいですね。おそらく、既に考えてはいらっしゃると思うのですが、先ほどの阿蘇のような形でストーリーを見せていきながら、地域社会や関係する人々の賛同を増やしてく、という点がポイントになってきますよね。

まつもと :とはいえ、南砺市もあれだけの場所の、あの規模の開発許可を出してるし、市としては、端的に言うと経済効果は期待しているはずです。かつそこにはP.A.WORKSさんもあって、これまでは「コンテンツと地域」というテーマだったと思うんですけど、そこにスポーツが加わることで、南砺市さんとしてはあの場所を、より経済効果の高い場所にしたいというものすごくプリミティブな欲求欲望はあるという理解でいいんでしょうか?

山村 :あの辺りは元々エコビレッジ構想が進められていた、南砺市でも重点ポイント地区ですよね。そうした流れの中で、桜クリエも立地しました。そして今度はPLAY EARTH PARKさんがそうした地域に入っていくわけですよね。こうした行政の描く地域の方向性と、事業者さんの方向性、そして、その他、既に地域に立地していた事業者さんの考えが、どのように接点を見出して、より良い地域のための動きが生まれてくるのか、この辺りは未だ情報が無いと思うのですが、個人的には非常に関心がある点です。

佐竹 :産業の立場からすると、「そのエコビレッジって俺たちの仕事に何の金になるの?」というところになってくるので、これは仕事になるよ、飯の種になるよってことだったら、頑張って守ろうということにもなるし、自分たちもそれに関わっていこうということになると思います。だからこれまで何もないというところだったのが自然がある、アクティビティができる場所がある、安心して行けるというところでもある、とうようににうまく整備してやると、必要最小限のところで付加価値が高まって経済的に価値が出てくる。いい循環ができると思うんですよね。そこで働ける人がどういう人なのかというところにも関わってくるけど、IRのカジノよりはよっぽど敷居は低くていいと思うんですよね。

山村:あと先ほどおっしゃってたスマートインターの存在というのも大きいですよね。車で名古屋から来て、降りてすぐにPLAY EARTH PARKにアクセスできるというところは、アクセス面でのアドバンテージが非常に大きいですよね。

佐竹:そうですね、また九州の話になるんですけど、熊本の人間からすると、我々は1回も九州新幹線の終着点になったことがないんです。鹿児島は部分開業と全線開業の2回、九州新幹線の終着地になって羨ましいなと熊本の人間は言うんですけど、鹿児島の人から見ると魅力的な熊本でみんな新幹線から降りてしまって、鹿児島では降りないんですよねという言い方をする。これを、名古屋を福岡で、富山を鹿児島として長野あたりを中間地点など考えたときに、その長野のあたりで、人が降りてしまわないか、長野を超えるような魅力をいかに作るかというところだと思うんですよね。

これまでにないアクティビティ、これまでよりも質の高いアクティビティを提供していくのがよさそうかなと。安さで勝負しようとしても長野(でのアクティビティ)が値段を下げたときに負けるかもしれません。長野に降りずに富山県、それも南砺市まで来させるにはどうすればいいかという、やはり人の動きを考えたときに、途中でめげて降りないようにするにはどうすればいいか。九州全体の人の動きで見ると、佐賀県鳥栖市のアウトレットモールができたというのは、南九州の富を福岡で全部吸い取られないように佐賀が途中で関所を作ったみたいな、そういうイメージもあったりします。そういう縦軸の構想で、地域間競争、地域間連携をどうやっていくかというところだと思うんですよね。

山村 :確かに。

まつもと :コンテンツツーリズムの場合、アニメの舞台になったということを起点として、既にトライアングルモデルが一定機能してるところに、リサーチに入って構造を明らかにするというアプローチがよくとられたわけですけど、ポジティブに考えれば今回のパークは欠落してる部分がある。それがどのように構築されていくのかということを、あるいはされないのかということを観察できる――研究者の視点からすると非常に興味深いですね。

シーズ(種)はP.A.WORKSさんも含めて様々あって、エコビレッジというところから今度スポーツなんだというところにどう転換していくのか、そしてそこにコンテンツはどう関わるのかということが、現在進行形で見られるので、研究者としてはすごく嬉しいかな。

山村 :そうですね。

まつもと :ただ佐竹さんの指摘のようにその産業側の立場としては大丈夫なのか? というところは当然あると思うので、そこは大丈夫なの? と言いつつ、こんなこともできるんじゃないかと提案しつつ、こんなこと起こってますよねということを研究していくんだろうなという、うんそんなイメージを私は持ちました。

佐竹 :九州の人間としてアウトドアとの関係で気になってくるのは熊の存在です。九州では熊が絶滅してもういないのでアウトドアのアクティビティで熊からの危害を受けることはないのです。だから朝早く、日が明けない内から山を登って、その頂上で日の出を迎えるということもできます。しかし南砺市では熊の目撃情報がある、そこでどうやっていくのか、という。特に今年は全国的に被害が多く、人的被害も出ているニュースを見たりすると、これまでヒグマの研究をやってきた北海道大学のノウハウってすごく大事ですね。

桜が池を巡る遊歩道にはこんな看板も……

山村 :本当にそうなんですよ。私も今それを言おうと思ったんです。やはり自然環境を資源としたときの危機管理をどうするかというのは北海道では死活問題です。ここ数年アドベンチャーツーリズムをすごく北海道で売ろうとしてるんですけど、やはり危機管理とセットになっていないと絶対にいけない。その辺りは、南砺市さんの今回の取り組みと、共有できる論点があるのではないかと思います。例えばクマなどの野生動物と人間の居住地や農地との関係性という点などは共通の話題になりますよね。

佐竹 :エコビレッジの「エコ」を今後、持続可能性と読み替えた上で、緩衝地帯があるから人間よし熊よしという、全体的な良しを持続可能にする一つのモデルを作るきっかけとしてやっていくってのもありでしょうか?

山村 :そうですよね。冒頭で佐竹さんがおっしゃってたように、やはりあの辺りって1次産業エリアじゃないですか。そのエリアが具体的にいうと農業とPLAY EARTH PARKがどう相乗効果を生むことができるのかという点は、私も非常に関心のある点です。おそらくあのあたりの地権者の農家の皆さんが反対をしちゃうと絶対うまくいかないプロジェクトだと思うので、その辺は結構、皆さん真剣に考えていらっしゃるように思います。

佐竹 :農産物を加工してお土産にして売りますよというのもあんまりパイは大きくないですし、農家に宿泊するオーベルジュなのかというところも……。民泊を広げていくとオーベルジュになりそうだな。

山村
そうですよね。南砺市の可能性のひとつにその方向性もあるように思います。

間野山研究学会のこれから

まつもと :城端も大きく変化する中、間野山研究学会が今後どういうふうに活動していくべきかということも改めて確認しておきたいところです。

山村 :すごい難しいお題かも知れません(笑)。ご指摘の通り、今回のPLAY EARTH PARKさんの取り組みって、スタートから我々が学ばせて頂けるすごくいい事例だと思うんですよね。したがって、どういう展開をしていくのかというのをPLAY EARTH PARKさんの協力をいただきながら、間野山でも情報を共有させていただきながら、何が起こるのかなど、そういったことも、謙虚に聞き、生きた勉強をさせて頂ければと思っています。木村先生(社長)を間野山にお招きして、是非お話を伺ったり、意見交換のお時間を頂いたりできれば良いですね。それこそまさに佐竹さんが地元でやられてる民間の立場から意見交換をするというようなことが、間野山研究学会だからこそできる枠組みだと思うんですよね。関心のある人々がお互いの経験を学び合えるようなプラットフォーム、それが間野山研究学会の設立意義でもありますし。

2023年度学会大会・研究発表の模様

いろんな地域の取り組みをされてるメンバーが学会にはいるので、そういった方々と、情報共有しながら、お互いに学び合うというのが、原点的なところではすごく重要な動きになってくるのかなと思います。間野山研究学会には今後課題はたくさんあるとは思うんですけども、良い点は実務の皆さんと研究の皆さんとのバランスというか、これ数のバランスもそうですし、交流する意味での対等な立場というのもそうだと思いますし、そこが他の学会にはない特徴で、バランスが取れていていいのかなと思います。それはやはり観光という面から言っても、アカデミックと実務のバランスを取るのが――冒頭の話に戻りますけど――すごく難しい。それがしっかりできてるところが、現実に大学を見てもなかなかない、という中で、次の世代の観光学を考える上でも何らかの提言というのがここからできるんじゃないかなと思いますし、規模的にもあまり大きな学会を志向していなくて、皆さんでこう顔が見えてディスカッションできるようなことを志向しているというのはすごく現実的で地に足がついていて良いなと思っています。いろんな学会に――まつもと先生ご経験あると思うんですけど、大きな学会になればなるほど、中での権力闘争、足の引っ張り合い(笑)、はたまた、仕事のなすりつけ合い等々、なかなか思うように研究などができない……間野山研究学会が、何かその辺の自由度が担保された組織であり続けるというのはすごくいいんじゃないかなという気がしています。

あと最後に一つですけど、とりあえず立ち上げのときから私が会長ということでやらせてはいただいてるんですが、その辺もあまり山村色が強くなりすぎるのもよくないと思いますし、なんかもう皆さんが本当にフラットな形で誰が会長になってもいいようなイメージでやっていけるのが一番いいのかなというふうに思っています。

佐竹 :いやいや我々は山村チルドレンですよ(笑)

山村 :なにを仰いますやら(笑)

まつもと :基本的な方向性は私も大変よくわかりました。佐竹さんからどうでしょうね学会と今回のテーマであるパークとの連携みたいなところでもうちょっと突っ込んだお話を聞きたいなど、どうでしょうか?

佐竹 :わかりました。スポーツアクティビティであるなどアパレルであるなどというところが、我々がこれまで扱ってきたコンテンツーリズムとうまく混ざらないんじゃないかと思われるかもしれないんですけど、そこはあえてなんていうか、ざっくりした表現で、リア充取り込んで年会費を頂きたいですよ(笑)

まつもと :言い方!(笑)

佐竹 :なぜかというと、我々はやはり様々な地域にある課題というのを見つけながらその解決のために、コンテンツツーリズムをどう考えていくかというところ、地域課題があるということについては、やはりその企業さんなどスポーツアクティビティなどに関わる人、またその地元の行政などなどには共通認識があるわけです。我々の持ってるツールというのは、向こうの持ってないツールである。ジャンルが違っていても地域課題を解決したいという共通認識があって、違うネットワークにもとづいて成功事例を紹介することができますよ、このネットワークをうまく使ってもらうために自分たち、なんか毛色が違うんじゃないかなど思わずに、そういう違う人同士が交わっていいものを作っていこうとみんなで解決していこうというのが間野山研究学会だよというところを言ってしまえば、非常に間口が広くなると思います。

まつもと :佐竹さんのお話から考えると、今回ゴールドウインさんの取り組みというのが起点にはなってるんですけど、全国各地で、いま観光を次の次元にアップデートしようという動きが起こっていて、そこにはコンテンツであったりスポーツであったり、従来その観光として捉えられ――観光要素として捉えられてなかったものの必要性というものが極めて強く意識されるようになってきた、という状況を考えると、幸い間野山研究学会はコンテンツツーリズムを標榜する学会でもなければ、特定の何かに縛られるというところがないので、何かサミット的なことをやってもいいのかもしれないですね。全国のこういう取り組みまさに牧野もそうだと思うんですけど、関係者に集まっていただいて、ネットワーキング、情報共有を図る場であると改めて定義しても良いかもしれません。
そして、僕らはぶっちゃけオタクであるというところも強みだと思うので(笑)、何か学会員が集まってるということだけではなくて、「当事者」の方が集まってくる場であると。IVSというイベントが一例として挙げられるかなと思います。

佐竹:世界最大級のスタートアップカンファレンス。

まつもと:かなり濃い集まりなんですけど、先駆者・当事者が集まって順番にプレゼンをする。夜は夜で交流会がたくさんセットされていて、ホテルの部屋にスタートアップの成功者の人が特定のテーマを持って待ち構えていると、そこに宿泊者がぞろぞろやってきて、10人ぐらい部屋で――よくホテルもそれを許可するなと思うんですけど――もうまさに膝詰め、物理的に膝詰めで話をするみたいなことがもうプログラムとしてセットされてたりするんですよ。そうするとそこからいろんな次の動きがいろいろ出てくるので、何か単なる発表をして、パネルディスカッションしてということではなくて、何かもうちょっと我々の間野山研究学会も、そういった方向に進化させてもいいのではないかというふうにも思ったりもしました。

山村 :まったくそうですね。

まつもと :そのためにはもう少しお金と人手が必要になりますが(笑)今度の総会に、ゴールドウインのお話を詳しく聞いたり、学会の今後の進化についてご期待頂くことなどを伺うべく、木村社長にお越し頂いたりしても良いかもです。

山村:聞いてみます(笑)包括連携の締結式のときにゴールドウインさんから若手の現場の方も何人かいらっしゃったんですけど、話してても、非常に面白い方が多かったので、何かそういうちょっと若手の現場の方を招いてまさにフリーディスカッションじゃないですけども、そういう我々をリブートさせるような議論ができるといいかもしれないですね。

まつもと:まだまだ各地で、コンテンツ×観光といった領域で頑張っておられる方がいると思うんですよ。そういう人たちが集まってきて、化学反応が生まれる場所です、とにかく毎年ここでやりますと、メディアも集めて、ということになると、いろいろ展望が見えてくるかなとは思いました。

山村:まったく同感ですね。間野山研究学会2.0といったイメージが見えてくるような会になれば良いと思います。

インタビュワー:間野山研究学会理事・学会誌編集委員会委員長 松本淳(まつもとあつし)
ジャーナリスト・コンテンツプロデューサー・研究者
著書に「コンテンツビジネス・デジタルシフト」(NTT出版)、「地域創生DX」(同文舘出版)など。

新潟暮らしで太ってしまったので絞ります……



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?