健康保険の切り替え
「現行の健康保険証への信頼感は絶大なものがある。ときに、医療費が安く済む魔法のカードと錯覚されているようなこともある(実際は、どの保険者に対して保険料を納めているかの証明書なのだが)」
以上は12/21に書いた記事から。
健康保険証への信頼感は絶大。
だから時々、健康保険の切り替え手続が必要になったときに、「心配だから新しい保険証が手に入るまでは」と、もとの(失効した)保険証を手元に保管しておきたがる方がいらっしゃる(説明を尽くして返却していただく)。
本人には全く悪意はないのだ。
保険証が手元になければ、急病のときにも医療機関にかかることができないと、幼い頃からそう意識に刷り込まれているからに過ぎない。
それほどに日本の国民皆保険制度は国民全体に定着しているということだ。
だから、第三者行為(事故とか、暴力とか)なのに保険証を使って受診してしまったり、雇用契約で働いているときの業務上の傷病(労災)でも保険証を使って受診してしまったりということもたまに起きる。
その多くは、『医療機関には保険証がなければかかることはできないのだ』と、強く刷り込まれているから起きる。
第三者行為によるものや労災はともかく(一旦医療機関窓口で、健康保険証を使ったときの領収証を返したり、自己負担していない部分も支払って全額自己負担にしてからあらためて本来医療費を負担するべきところに請求したりと手続は煩雑だが)、失効した健康保険証(退職後とか、同日得喪:60歳以上で定年後再雇用となり賃金の額が大きく変わった場合に認められる特例で、社会保険料の額を決定する標準報酬月額が、賃金額が変わった月から変更されるメリットがある。それまでの健康保険を1度喪失して新たな健康保険被保険者資格を取得するので、保険証番号が変更になる… などにより、それまで持っていた保険証は証明書として使えなくなる)を医療機関に提出して医療を受けてしまうと、『不正利用』となる。
不正利用には悪質なものもあるのだろうが、制度の仕組みの詳細を知らなかったことによるものもかなりあるのではないだろうか。
医療機関では、月の末日でその月に行った医療を締めて、レセプト(診療報酬明細書)を作成し、翌月10日までに、医療費全額のうち患者が窓口で支払った自己負担分を除いた金額を、各保険者ごとに請求する。保険者には、市町村国民健康保険・国民健康保険組合・全国健康保険協会・各種健康保険組合・船員保険・共済組合などさまざまな種類がある。
提出されたレセプトを審査して、そこで初めて、使われた保険証が失効しているとわかることになる。
間違ったレセプトは、「これは間違っているので医療費の支払はできません」と、提出した医療機関に差し戻される。『レセプト返戻』という。
医療機関では、患者が窓口で払っていない分の医療費回収ができないことになる。だから診療のたびに保険証確認したい。
退職した場合は、退職当日までしかその職場でもらった健康保険証は使えない。
このあたりの健康保険制度のしくみをよくは知らない場合に、多くの『不正利用』と呼ばれる使い方が起きるのではないかと考える。
マイナ保険証なら不正利用を防げると盛んに喧伝されている。
しかし、転職で1日も無職の期間がない場合でも、新たに入った職場での健康保険の資格取得手続に数日はかかる。職場がその日に届を出した場合でも、保険者による審査が数日かかり、それを経て保険証番号が振り出されるから。審査が完了するまでは、マイナンバーカードに保険証機能を登録しているからと医療機関窓口でマイナンバーカードを提示しても保険証健康保険の資格確認ができないことになり、一旦は医療費の10割の支払を求められる。
『健康保険証は、医療を受ける為の通行手形・医療費が安くなる魔法のカード』のように誤認識していて、「次のが手に入るまでは手放したくない(返却したくない)」と考えてしまう人達に、そのことが保険証廃止の口実にされたことを知っていただきたいと思う。
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