見出し画像

告発の勇気が社会の希望② 命がけでたたかう若者たち(中)


311子ども甲状腺がん裁判
涙で声を詰まらせながらも、自分の言葉で訴え

繰り返す再発 過酷な闘病 「元の体に戻りたい」
 原発事故が起きたとき、ちひろさんと同じ中学3年生だったあおいさんは、甲状腺がんと診断されたさい、医者に「手術しないと23歳までしか生きられない」と言われた。いまも、手術への不安、術後のおう吐や発熱、声枯れなどの苦痛と恐怖は、悪夢になって現れる。
 がんは再発し、治療に専念するために大学を中退した。リンパ節への転移が多く、大きくなった手術の傷跡に、「自殺未遂でもしたのか」と心ない言葉を投げられ、深くショックを受けたこともある。おしゃれが楽しいはずの年代だが、「常に傷が隠れる服を選んでいます」と話す。
 高濃度の放射性ヨウ素を服用し、甲状腺がんを内部被ばくさせて破壊するというアイソトープ治療も受けた。この治療は、周囲の人が被ばくしないように隔離病棟で受ける。ヨウ素剤を大量に服用し、おう吐しても、医者も看護師も病室に来ることはない。遠隔で指示や薬が出されるだけだ。その心細さ、つらさは想像するにあまりある。
 いまも体調は優れず、肩こり、手足のしびれ、腰痛、疲れやすさや動悸、息の詰まり、首がつるなどの症状に苦しむ。「遠隔転移があり、完治は難しい状態。病気のせいで、家族にどれだけ心配や迷惑をかけてきたかと思うと、とても申し訳ない気持ちです。大学を辞めたくなかった。自分の得意分野で働いてみたかった。元の体に戻りたい。どんなに願っても、戻ることはできません」と声を振り絞り、甲状腺がん患者への補償を求めている。


第8回口頭弁論の日、紅葉した銀杏の葉の輝きが原告の姿と重なった

裁判を通じて、しっかり事実を確認したい

 「甲状腺がんは深刻な病気ではないと言われているが、自分はこれまでに4回の手術を受けている」。そう話するいさんは、大学2年生のときに乳頭がんと診断された。1回目の手術で甲状腺を半分摘出。その後、がんがリンパに散らばり、2回目の手術で全摘した。甲状腺は摘出すると生涯、薬を飲み続けなくてはいけない。
 麻酔が切れると首や腰、臀部に激しい痛みがあり、排尿できずに腹部が膨れあがったが、訴えようにも声が出ない。強い絶望を感じ、「いっそ、死んだほうが楽かもしれない」。そう思った。
 退院の日、列車のボックス席に向かい合って座る父親の心情を推し量り、死にたいと思ったことを、深く後悔した。「自分のことで、父親に負い目を感じさせたくない。いつか死ぬなら、それまで精一杯の人生を送ろう」、そう心に誓った。
 だが、手術はこれで終わらず、就職活動まっただ中に3回目を、就職して2年目には反回神経に隣接したリンパ節に転移が見つかり、4回目の手術を受ける。アイソトープ治療も受けた。
 「もしかすると生まれてくる将来の命にも影響があるかも知れない。再発も、頭の片隅に常にある」と言う。
 意見陳述の最後に、「再発は覚悟しているが、前だけを見たい。自分の病気が放射線による被ばくの影響と認められるのか。この裁判を通じて、最後までしっかり事実を確認したい」と、真っすぐな眼差しを裁判官に向けた。

「死を意識した」 余命宣告受けた青年も

 原発事故が起きたとき、中学1年生だったみつきさんは、甲状腺がんと診断されてから2回の手術を受け、甲状腺は全摘した。リンパ腺も大きく切断した。アイソトープ治療もおこなった。それでも再発が見つかり、3回目は難しい手術と言われている。
 「本当だったら飲まなくて良かった薬を一生、飲み続けなければいけない。私にとってそれが一番の苦痛」と語り、「過剰診断」論に「では、何のために検査をしているのか?」と疑問を投げかける。
  原告最年少の女子高生こはくさんは、幼稚園の年長のときに原発事故が起き、13歳で甲状腺がんと診断された。14歳で手術を受けるも再発。17歳で受けた再手術では、リンパ腺まで摘出した。アイソトープ治療も受けた。これから医療保険に加入できるのか、できなければ医療費はどうなるのか、病気が悪化したら生活はどうなるのか、服薬を続けることも、すべてが不安だ。
 「自分の考え方や性格、将来の夢もまだはっきりしないうちに、すべてが変わってしまいました。健康な人と同じように、安定した生活ができるように補償してほしいです」
 原発事故当時、高校1年だったふゆきさんは、5回目に受けた県の甲状腺検査でがんが見つかった。手術はコロナ禍だったため、入院から退院まで家族に会えず、一人きりだった。術後の激痛や不安に精神的に追い詰められ、そんな自分を責めた。
 ゆうたさんも事故当時、高校1年生だった。大学1年のときに乳頭がんと診断され、「死を意識した」と言う。甲状腺を半分摘出し、いまも定期検査のたびに、再発の不安で頭がいっぱいになる。
 原告のなかには医者に「間違いなく再発する」と、余命宣告された青年もいる。10~20代の若い7人の原告は、それぞれの過酷な闘病、押しつぶされるような不安、裁判にかける思いを法廷で、ときには気持ちがあふれ、涙で声を詰まらせながらも、自分の言葉で語りきった。
 口頭陳述全文は「311甲状腺がん子ども支援ネットワーク」のホームページにアップされている。ぜひ、生の音声を聞いてほしい。【(下)に続く】

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?