見出し画像

一生ボロアパートでよかった⑧

 マナちゃんは、小学校卒業と同時に引っ越していきました。お父さんが転勤になったと言っていました。たしか東京に行ったはずです。

 最後にマナちゃんにバイバイした日、アオイちゃんと3人で一緒に泣きました。マナちゃんが泣きながら「手紙書くね」って言ってくれて、「私も絶対書くよ」って泣きながら答えました。でも結局、手紙は一通も来ませんでした。私も、一通も送りませんでした。

 マナちゃんが実は、中学受験をしていたなんて知りませんでした。なぜかアオイちゃんは知っていて、中学に入学後しばらくして、私に教えてくれました。制服が可愛い学校らしい、とアオイちゃんが羨ましがっていました。マナちゃん、きっとアオイちゃんに手紙を送っていたんでしょうね。私には送らなかったのに。

 アオイちゃんは、小学5年生の中頃から塾に行っていました。中学受験も考えていたそうですが、やめたそうです。マナちゃんと私がいるから、中学は3人同じ学校で、と思っていたそうです。高校受験で頑張る約束をして、中学受験を勧めるお母さんを説得したんだとか。それなのに、マナちゃんはちゃっかり中学受験をして、東京に行っちゃうんですもん。
 マナちゃんが引っ越してからしばらく、アオイちゃんはマナちゃんの悪口ばかり言っていました。「黙ってるなんてズルいよね」とか、「私も受験すれば良かった」とか、"抜け駆けされた"みたいなことばかり。私は中学受験なんて一度も考えたことがなかったので、全く共感できませんでした。いつも適当に「そうだよね」って答えていました。

 友達なんて、そんなものですよね。
 それに、アオイちゃんも人のことなんて言えないんです。

 私は、小学6年生の時の修学旅行に行けませんでした。修学旅行の為の積立貯金ができていなかったからです。
 修学旅行1週間前になって行けないことが発覚して、ショックなんてモノではありませんでした。修学旅行のグループ分けもされて、どこをまわるかもグループで決めた後でしたから、居た堪れませんでした。お金がないなら、ないって父も母も早く言ってくれれば良かったのに。

 経緯を話すと、アオイちゃんもマナちゃんも「可哀想」と同情してくれました。アオイちゃんが「お土産買ってくるよ」って言ってくれたんですけど、結局買ってきてくれませんでした。そのくせマナちゃんと2人で、どこに行って何が面白かったとか、バスの中でこんなことがあったとか、楽しそうに話すんです。私にはわからないから、私の前でそういう話をするのはやめて欲しかったです。女子の3人グループって、こういう事よくありますよね。

 中学生になって一番最初のマラソン大会の時もそうです。練習の時に、本番も一緒に走ろうって約束したのに、アオイちゃんは6位入賞でした。私は68人中の38位。まさに"抜け駆け"ってこの事だなって思いました。

 アオイちゃんは私と違って、中学でも優等生でした。塾も行き続けて、成績はどの教科も学年上位でした。学級委員長をやったり、部活も吹奏楽部で頑張っていました。そしてだんだんと、アオイちゃんとも距離ができるようになりました。

 小学生の頃は放課後、アオイちゃんとマナちゃんと色んなところに遊びに行きましたけど、中学生になってからは、すっかり遊ばなくなってしまいました。アオイちゃんは習い事や塾、部活と大忙し。放課後に遊ぶ暇なんてありませんでした。マナちゃんはそもそも、東京に行ってしまっていないし。他のクラスメイトも部活で忙しそうでした。

 私は、部活には入りませんでした。本当は運動部にも興味があったし、アオイちゃんと吹奏楽部に入るのもいいかなって思ったんですけど、どれもお金がかかるんですよね。
 中学生にもなると、我が家が貧乏であるという実感が、くつくつと全身を茹で上げるように沸きました。中学校入学と同時に必要な、制服、体育着、カバン、上履き、教科書やらにずいぶんお金が消えたらしく、その頃の母のご機嫌は最悪でした。そんな状況で、部活に入りたい、あれもこれも必要だなんて、言えませんでした。父にこっそり部活に入りたいと相談をしましたが、酔っ払いながら、500円玉を差し出してきて「これで足りるか?」って言ってきたので、話になりませんでした。

 私からしたら、アオイちゃんもマナちゃんも、ずっとずっと、"抜け駆け"していました。マラソン大会の時、アオイちゃんの背中がどんどん遠くなるのを見て、なんとなく既視感を覚えたんです。もう何年も、私は2人の背中を見ていたんだと思います。対等に横に並ぶなんて、おこがましかったんです。どんなに頑張って走っても、追いつけるわけがなかったんです。

 だって、私はもう生まれた時から、親ガチャにはずれていましたから。

つづく 


この記事が参加している募集

眠れない夜に

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?