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尊村攘夷

終わるんじゃあないぞ、そうだ、終わってはならんぞ── そう念じるまま、予期していた通り終幕を迎えてしもうた。全く以てニクい趣向である。作品への没入感は無駄の削ぎ落とされた真実性リアリティによるものだ、そう言うこともできるであろうし、或いは圧倒されるような"生"に満ちた映像、音響によるものだとも言えよう。

作品名は『悪は存在しない』である。何処で、何時、悪は存在しないのか。共に鑑賞した友人と話し合う。"生"に悪は伴わないのでないか、いいや、あの場に悪が存在してはならない´ ´ ´ ´ のだろう、等々。畢竟、例に漏れず議論は終幕場面に終始するのだが、それも愉しい。

羽根を拾う者と用いる者、清き上流の義務として、資本の上流への抵抗として、手負いとなった鹿は── そもそも答えがないのだから、解釈云々で話は行き詰まる。答えが出ぬことが、それ即ち難解ではあるまい。このカンジ、身に覚えがある。思い出す、『君たちは─』だ。ちょうど悪意についての彼是もひとつの主題として存在する。

話が逸れたが、本作の醍醐味はその真実性と生命感のスケールに他ならない。それらは我々の社会に対する問題意識と共鳴し、より大きな揺さぶりを生む。あくまで"自然"に根差した社会の描写。現代に蘇る異人殺し。尊村攘夷譚!

次の観る会は公開日の『関心領域』予定だけれど、『痴人の愛 リバース』と揺れている。「暮らしの思想 佐藤真 RETROSPECTIVE」も宜しい。オタノシミは多いが吉。

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