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月と六文銭・第十九章(14)

 鄭衛桑間ていえいそうかん:鄭と衛は春秋時代の王朝の名。両国の音楽は淫らなものであったため、国が滅んだとされている。桑間は衛の濮水ぼくすいのほとりの地名のこと。いん紂王ちゅうおうの作った淫靡な音楽のことも指す。

 武田は播本優香はりもと・ゆうかとの楽しいひと時の直後に銀座のホステス・喜美香きみかから突然の来訪を受けた。
 窓辺での交わりから一転、静かな時間を迎えたところで、武田は夢の中でスタイル抜群なシングルマザー・上田陶子うえだ・とうことの初めてのデートを思い出していた。

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 上田は離婚して、娘と一緒に東京に移ってきていた。周囲にしてみたら、実家から遠くなって直接の支援がなくなる、物価が高い、知り合いが誰もいない土地で、そして、今まで地元を離れたことがない上田が一人でやっていけるとは思えなかったのだ。

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