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<私が神になれる仕事>ショートショート

昔から私は目立ちたがり屋だった。

そして称賛されたいという欲も人一倍強い。

私に皆付いてきて欲しいし、感謝される存在でありたい。

そんなことを考えながら大学を卒業し、望み通りの職に就いた。

今では私が職場に現れると皆が振り向き、近付いてくる。

私の一挙手一投足がその場にいる者の最大の関心事となるのだ。

私が歩けばその後ろには行列ができる。

そしてほとんどの人は私に感謝をしていく。

私はその時だけは神になれる。


そう、地元スーパーの半額シール貼りの仕事は私にとって天職であった。


特に700円の寿司パックを半額にする瞬間がたまらない。

普段寿司なんか食えない層が目をぎらつかせ、涎を垂らしながら私のシール貼りを待っている。

さながらビーフジャーキーを目の前に置かれて待てと言われている犬のようだ。

今勤めているスーパーでは半額どころか100円のシールを貼る時もある。

なんと700円の寿司パックが100円になってしまう。

店長も悪いやつで、私の100円のシール貼り作業を遠巻きに見ているのが趣味らしい。

売れ残った寿司に100円シールを貼っていくと後ろで戦争が始まっていく。

食うか食えないかの取り合い合戦。

「ちょっとお前!何個も取るなよ!」
「うるさい!家族の分なんだよ!」
「こっちは寿司なんか1年食ってないんだよ!ふざけんな!」
「ハゲ!」
「ブス!」
「低収入!」
「お前もだろ!」

もう阿鼻叫喚である。

たまに殴り合いの喧嘩になったりして、仲裁に入るのも私の仕事だ。

「今日も良いものが見れそうだな」

店長はニヤニヤしながら100円シールを渡してくる。

本当に悪い店長だ。

さて、こんな話もここまでにしておいて、今は午後8時、仕事の時間だ。

風を切りながら寿司コーナーに向かう。

今スーパーにいる人間達は私の手の平で転がされることになる。

しかも今日は100円シールという最強のゴッドアイテムを持っている。

皆私にひれ伏すがいい。



しかし、どうにも店内の様子がおかしい。

誰も私に注目しない。

こんなに大量の100円シールを携えているというのに。

この時間だけは私は神のような存在のはずなのに。

「な・・・・何が起こっている!?」

胸になんとも言えぬモヤモヤを抱えながら現場に向かう。

乳製品コーナーを抜け、揚げ物コーナーを過ぎ去り、到着した。


そこにあったのは、完売してスッカラカンになった寿司コーナー。


「ど、どういうことだ!」

立ち尽くすしかなかった。

少なくとも私がこの仕事を始めてから4か月間、700円の寿司がこの時間に売り切れることなど無かった。

頭が真っ白になる。

「考えろ!考えろ俺!」

必死に現状を把握しようとした。

資産家が大挙して押し寄せたのか。いや、それはない。ここは地元でも一番低所得者層の多い地域だ。

そもそも今日は寿司を出してなかったか。いや、それもない。確かに昼には品出しをしていた。

昨日寿司関係の特番でも放映されたのか?いや、そういった情報は入ってない。

私の謎は解けないまま、その場に居続けてもサボっていると思われるので仕方なく別の作業に入った。



―終業後


私は寿司の売り切れの件について、モヤモヤが晴れず、このまま一人で抱えてはうつ病にでもなると思い店長と話した。

店長も思い当たる節が無く、首をかしげる。

「うーん、なんでだろうな」
「私も色々考えたのですが、結局謎のままです」
「まあ原因は分からんけど、そういう時もあるだろうな。今日はちょっと地獄絵図が見れなくて残念だったけど」
「ええ、不思議なことがあるもんです。あのボッタクリ寿司が定額で売り切れるなんて」
「まあそう言うなよ。どうせほとんど半額で売ることになるからそういう価格にしてるんだ。二重価格ってやつだ。」
「へえ、そんな言葉があるんですね」
「そういえば今日はボーナス支給日だな。お前いつも頑張ってるし、寿司でも奢ってやるよ」
「え、マジっすか!ありがとうございます!」


やっぱボーナス支給日は寿司っすね!!


「あっ」



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