<100万円の入ったティッシュペーパー>ショートショート
「ちょっと、起きて」
「ふぇぇ?なに?」
同棲している彼女に急に起こされた。
「急いで車出して」
「え?え?ちょっと事情が分からない。何が起きたの?」
「朝からニュースで騒がれてるのよ。これ」
「ほうほう」
どうやらティッシュペーパー大手のオリエール社が、ティッシュペーパーの中に間違えて100万円の束を幾つか混入させてしまったらしい。
「だからオリエールのティッシュを買い占めに行くの」
「ええ、そんなのみんなやるからどうせ無理でしょ」
「やってみなきゃ分からないでしょ!」
そういって彼女は僕の手を引っ張って車の運転席まで連れて行った。
「はいレッツゴー!」
僕は寝巻きのまま近所のドラッグストア、スーパーを回らされ、車の中はオリエールのティッシュ箱だらけになった。
家に帰ると今度は開封作業である。
予想通りというかなんというか、100万円は入ってなかった。
テレビを見ているとニュースがやっている。
これも予想通りだが、オリエールのティッシュが日本中で完売しているらしい。
オリエールの倉庫まで行ってまとめ買いした人もいたとのことだ。
実際に100万円を入手した人も何人かいるようなので混入は事実ということになる。
オリエールの在庫はすっからかんになり、物凄い売り上げになったと言われている。
謝罪会見でのオリエール社長は混入を謝りながらも終始ニヤけた表情をしていた気がした。
そしてこの事件が契機となり、他の会社でも100万円混入事件が発生するようになった。
オリエール社以外のティッシュペーパー会社から始まり、洗剤、食料品、車など。色んなものに100万円を混入させるのが当たり前の社会になった。
最初は衝動的な消費行動に移った一般市民ではあったが、段々飽きてくる。
買い占めなどせず、いつか当たれば良いやぐらいの気持ちになったみたいだ。
そうなると吊り上げられてくるのが混入される額である。
200万円、500万円、最終的には1000万円とか1億円が混入することもあった。やり過ぎで大手企業が潰れたこともある。
そんなこんなで、市場に出回る商品にはたまにお金が混入される。これが日本の文化になった。世界でもたまに真似される。
普通に買い物をしていてもいきなり大金を手にすることがある、ある意味夢のような生活ではある。
*
「こんな世の中だけど、結局俺たちは何にも貰えてないよなー。無駄にティッシュやらなんやら増えただけで」
「あーうるさいうるさい」
彼女は拗ねた表情でスマホをいじっている。
「ちょっとコーヒーでも飲むか」
「あ、じゃあ私はブラック」
「お前もなかなか渋いよなー。オーケー」
車から降りて自販機でコーヒーを買った。
ゴトンと、いつもより重く鈍い音をしながら缶コーヒーが落ちた気がする。
その後、僕と彼女は婚約指輪を一緒に買いに行った。
分不相応なダイヤが輝く。
完
※貧乏な私にどうかお恵みを(^q^)
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