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<無職と魔法のランプ>ショートショート

大阪・西成区のあいりん地区では日本では珍しく、まだ闇市が開かれている。これはその闇市でランプを買った無職中年の物語。



日が昇って間もない西成の街。
僕は闇市で悩んでいた。

「ランプ、2000円か・・・・」

派手な時計、薬、アダルトグッズなどがずらりと並ぶ市場で、鈍い光を放つ幾つかのランプに釘付けであった。

「なんだか非常にしっくりくるフォルムだ」

おもむろに財布の中身を確認すると5000円ある。
買えない値段ではない。

「おじさん、そのランプ買うわ」
「あいよ」

1泊800円の安宿に帰り、ランプをバッグから取り出す。

「なんとなく、買ってしまったなあ」

貯金を切り崩して生活している僕にとって安くない出費であるが、どこかしら惹かれるものがあった。どうにも人生を悲観しているとこういう物で運気を引き寄せたくなるのかもしれない。

手の平より少し大きいランプをぐるりと見てみる。
やはり心なしか鈍い光を放っている。

子供の頃に見たアニメを思い出す。

「こうやって擦るとランプの魔人が出てきて・・・・」

その瞬間、ランプが強く光った。
目を開けてられないくらいに、部屋が真っ白になる。

「うわ・・・・なんだ・・・・」

気付くと目の前に人がいる。
魔人であろうか。

しかし、思ったより普通。
中肉中背で、なんか頼りない雰囲気がある。

「お、君か、俺をランプから出してくれたのは」
「え、ああ、うん」
「俺はランプの魔人」
「へえ、やっぱり魔人なのか」
「そうだ」

かなりやる気なく淡々と喋る魔人である。

「俺をランプから出してくれたお礼に、悩みを一つ聞いてあげよう」
「マジか」
「おお、良いよ」

まさか闇市で買った2000円のランプでこんなことが起きるとは。
海老で鯛を釣るってやつだ。

早速魔人にお願いをしてみる。

「今僕は無職で貯金が尽きそうなんだ、金持ちにしてくれないか」
「ほう、それは大変だ」
「うん、願いを叶えてくれるか?」
「え?」

魔人はきょとんとしている。

「え、願いを叶えてくれるんじゃないの?」
「いやいや、俺は悩みを聞いてあげるって言っただけ」
「え」
「願いを叶えるなんて言ってないよね」
「え、そういう意味なの」
「そう。だからもう悩み聞いたよね。終わり」
「はい?」

流石に魔人の小学生みたいな言い分に僕も怒った。

「いやそれは無いだろう魔人さん」

魔人は頭を掻きながら、ああいつものアレか、といった調子で言う。

「あのさー、俺ねー、ランプの魔人と言っても結構下の方なのよ」
「下の方・・・・」
「そう、ランプの魔人界隈でも下の下でさ、君の想像した魔人てあれよ。どうせディ○ニーのジー○ーとかでしょ。」
「ああ、確かにジー○ーを想像したかも」
「あの人は人間界でも昔話とかに出ちゃったり、それを元にアニメにも出たでしょ。やっぱ力あるのよ。いわゆるトップオブトップ」
「ふーん」
「俺なんか西成の闇市で2000円で売られてる魔人よ。ああいうインフルエンサー魔人は、アラビアの洞窟とかそれっぽいとこに配置されるの」
「はあ」
「でね、俺って別にスキルとかも無くてさ。まあその代わり悩みの一つでも聞いてあげようってわけ」
「なんじゃそりゃ」

体から力が抜けていく感覚になった。

「もう、せめて2000円は返してよ」
「返せって言われてもなー、俺が2000円もらったわけじゃないし」
「けどランプから出してあげたじゃん」
「あー。まあ嬉しいというかなんというか、まあ久々のシャバの空気は良いと言えば良いけど・・・・」

魔人が説明するには、過去も西成でランプから出たことがあるみたいだが、結局食っていくにも、特にスキルも無いので仕方なく日雇いの肉体労働で過ごして、1か月ぐらいしたら辛くなってまたランプに戻ったらしい。

「・・・・というわけよ。だから微妙なのよ。ランプから出してもらっても」
「そうか。じゃあランプの中にいる間にでも何かスキルを磨いてたら良いじゃん」
「うーん面倒なんだよな。昔から俺ってやる気ないのよ。ランプの中でもずっとゲームしてたし」
「はあ・・・・」
「しかもランプの中だと俺って飯食わなくても生きていけるのよ。ランプの外は食わんとあかんし。キッツって思う」
「魔人でもしょうもないのがいるんだな」
「いや君に言われたくないよ」
「・・・・」
「ま、俺達同類みたいなもんだ。そんじゃ」

そういうと魔人はランプの中に戻っていこうとランプの口に頭を入れ始めた。

「待て待て、魔人待て!」
「お、なんだよ」

魔人のパンツを引っ張って引き止めた。

「僕もランプの中に入ってみたいんだが」
「ふーん。そういう発想、悪くないんじゃない」
「できないのか?」
「できるよ。というか、俺も頼み込んでランプに入ったクチだし」
「え、そうなの」
「そう。もともと俺も人間で、無職になって西成に辿り着いてさ。で、色々あってランプに入って転生手続きして魔人になったのよ」
「そうか・・・・俺も魔人になりたい」
「あー、さっきのランプの中なら飯食わなくても良いってところ、魅力的に映った?」
「まあね。それにランプの中で努力してジー○ーみたいになりたいし」
「まーみんな最初はそう言うんだけどね」
「早速連れて行ってくれ」
「はいはい、オーケーオーケー。まあ仲間が増えるのは嬉しいしな」


こうして僕はランプの中に入り、転生手続きをして魔人になった。




時は経ち


西成の闇市で鈍く光るランプが幾つも売られていた。


1つ2000円。


たまに売れては、1つ増えて店に帰ってくるランプ。


是非、西成の闇市でランプを見かけたら買ってみて欲しい。


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