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<初見殺しモンスター>ショートショート

ある夏、ギルドからモンスター討伐の依頼を受けた。

ターゲットは初心者向けの峠エリアにおり、そこにはスライム程度のモンスターしかいないはずだが、なぜか何人もの冒険者が帰ってこないらしい。どうにも強力なモンスターでも出没しているのではないかと言われている。

僕は冒険者になったばかりで大した装備も無いが、謎めいたそのクエストに興味があり依頼を受けた。

早速その峠を目指してみる。

「そんな装備で大丈夫か?」

振り返ると人里離れた峠道だというのに防具屋がある。

その店の中から店主らしき人が僕に話し掛けてきた。

「この先にいるモンスターはそんな防具じゃ敵わんぞ」

確かに僕は革がメインの防具。いわゆる初期装備というやつだ。

ちょっとした引っ掻きぐらいは耐えられるが、鋭い歯で思いっきり嚙まれたりしたら容易に貫通するだろう。

店主が続ける。

「ここのモンスターは冒険者にトラウマを与えるぐらいに強い。初見殺しモンスターと言われている」

ギルドで聞いた情報では、確かに何人もの冒険者を亡き者にしているという話だ。

「何人もの冒険者がそいつらにここで殺されている。どうだ、後悔しないようにうちの店でもっと良い防具を買っていかないか」

「なるほど。しかしこの暑さでは革の防具で精一杯。重い防具では辛いよ。」

「ふむ、まだ現実が分かってないみたいだな。ではこれを見せてやろう」

そう言うと店主は来ていたシャツを脱ぎ始めた。

「見ろ、この傷を」

見ると店主の背中を丸ごとえぐったかのような傷跡があった。

「俺も昔は冒険者でな。お前と同じように革の防具でこの先を進んだんだ」
「ほう」
「そこでこの傷を付けられたってわけ。だから同じような被害者を出さないようにここで上半身用の防具屋を開いた。暑いからといって薄い防具じゃ危険だ」

なるほど、店主の言うことは一定の信憑性がありそうではある。
試しにどんな防具を置いているか聞いてみる。

「この先のモンスターに有効な防具は置いてあるのか?」
「ああ、オススメはこれだ」

店主が店内にズラっと並んだ鎧から一つを選んでくれた。
鉄製と思われる上半身鎧である。

「この先のモンスターは大きな爪で上半身を狙って攻撃してくる。でもこの防具なら喰らっても大丈夫だ」
「そうか」

買えない値段ではなかったので買って装備した。ズシリと重く暑苦しいが、確かに頼もしい。そんじょそこらの攻撃になら耐えられそうだ。

「まいど!」

店主はニコニコしながら僕を見送った。

その後、10分ほど峠を歩くとまた声を掛けられた。

「そんな装備で大丈夫か?」

振り向くとまたポツンと防具屋があり、店の中から店主に話し掛けられた。

しかし先ほど鎧を買ったばかりである。

「大丈夫だ。さっきの店で上半身を覆う鎧を買ったからね」

「いやいや、下半身がただの革のズボンじゃないか」

「確かにそうだが」

「この先のモンスターは下半身を執拗に狙ってくる時がある。上半身だけじゃダメだ。見てみろこの傷を」

店主がズボンをめくると、確かにズタズタに切られた傷跡がある。

「俺も昔冒険者でお前と同じように上半身を鉄の防具で包んでこの先のモンスターと戦ったが、下半身を狙われたんだ。」
「ほう、それは怖い」
「それで俺は足防具を売る店を始めたんだ。後悔しないようにこれを買っていけ」

そう言うと店主は鉄製の足防具を店内から出してきた。
これも買えない値段ではないので買って装備してみる。
これまた暑苦しいが、結構な攻撃にも耐えられそうである。

「まいど!」

店主はニコニコしながら僕を見送った。

その後、10分歩くたびに「そんな装備で大丈夫か?」と言う防具屋が現れた。

どの店主も各部位に大きい古傷を負っており、結局同じような流れで頭防具、手防具、指輪などを買うことになった。

全部鉄製でかなり重い。防具だけで50kgぐらいはあるだろうか。

そしてめっちゃくちゃ暑い。

ぜえぜえと息を切らしながら峠を進む。

炎天下の中、半日はこの状態で歩いただろうか。

気温も高く暑苦しいが、いつ店主達の言う恐ろしいモンスターに会ってしまうか分からないから防具は外せない。

体力の限界に近付いてきた時、見てしまった。

あちこちに倒れている、全身甲冑の人間達。

そのうちの一人の兜を外して顔を確認してみる。

完全に息をしていない。死んでいる。

しかし体全体を見ても外傷は無いようだ。

進めば進むほど増える重そうな恰好をした死体。

どれもこれも外傷が無い。しかし、死んでいる。

僕は朦朧とした頭で必死に考えてみた。

・・・・なるほどそういうことか。


敵はモンスターではなく、防具屋であった。


他の冒険者は皆、まだ見ぬ敵と戦うべく、防具屋に言われるがまま必要以上の防具を買い込んで、熱中症で死んでいったのだ。

その事実に気付いたものの、僕は体力の限界、且つ熱中症でその場に倒れこんだ。

少し先にスライムが見える。

あれは革の防具でも十分勝てる・・・・。

この峠は、資本主義の縮図だ・・・・。







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