<死後の世界>ショートショート
私は80歳を迎え、病室にいた。
老衰というやつで、もうすぐ死ぬ運命にある。
これまで家族や友人というものを持たなかったので、誰も見舞いには来ない。
定年まで仕事をし、その後はボケーっとしながら生きて、今に至る。
何か歴史に残ることを成し遂げたわけでもなく、子孫を残しもせず、この人生は何だったんだろうとしみじみ思う。
そんなことを考えていたら段々と意識が朦朧としてくる。
私の様子を見た看護師が何やら慌てて医師を呼んできた。
心臓マッサージをされる。
痛みも何も感じない。
どんどん眠くなる。
世界が真っ暗になった。
これが死というものなのだろうか。
*
「お疲れ様でしたー」
誰かに声を掛けられた。
「カプセル開けますね」
プシューっと音がして目の前の蓋のようなものが取り除かれた。
そして眩しい。
「80歳で老衰、まあまあ生きられましたね」
「はあ・・・・」
起き上がると、そこは何かの研究所のようであった。
人間が入れるサイズのカプセルが地平線の先までズラッと並んでいる。
傍には奇抜な恰好をした男とも女とも言えない人間、というか生物が立っている。
「ここは・・・どこ・・・・?」
私が話し掛けると、その男女生物は思い出したかのように言った。
「ああ、記憶戻し作業を忘れてました。少々お待ちください」
パチンと指を鳴らすと、カプセルからケーブルが数本伸びて私の頭に刺さった。
「では記憶を戻します。少し電気が走って痛みがありますが我慢してください」
「はい・・・・うおっ!」
頭が小刻みに震えるぐらいの電流が流れた。
と、同時に過去の記憶が蘇る。
「記憶が戻った感じはありますか?」
男女生物が確認してきた。
「ああ、全部思い出した」
私は暇つぶしのために仮想世界『地球』に入っていたのだった。
『地球』はこの世界の大手ゲーム団体『神様』が作った仮想世界である。
かなり細かくプログラムされておりゲーマーの間では人気だ。
私は仮想世界『地球』に入るため『神様』を訪れていたのだった。
「『地球』での人生はどうでしたか?」
「日本というところに生まれたけど、初期能力値が低くて大した人生にならなかったな」
「そうですか。やはり課金しないと難しいですね。以前入られた方は課金多めだったので、環境や能力値にも恵まれてそれなりの資産家になったらしいですよ」
「いやー資産家とは、良い人生だったんだろうな。やっぱり課金しないとダメだな。」
「今度は課金してから『地球』に入られますか?」
「よし、そうしよう。」
男女生物にそれなりの通貨を渡してカプセルに入った。
「日本の総理大臣級の能力値で生まれさせてくれよ。あれが日本のトップなんだ」
「若干の運はありますが、分かりました。では起動します」
低い風のような音が鳴り、カプセルの蓋が閉まる。
「記憶を抜きますよ」
「分かった」
次第に意識が遠のき、また暗い世界に入っていく。
*
―1923年 日本 新潟県
私は田中角栄という名で生まれ、現在小学生である。
完
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