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田舎古民家に移住し人生再起を図った男「古民家くん」~やべさん編(第12話)~

<概要>
今まで築き上げてきたものを全て捨て去って田舎の古民家に移住し、再起を図る男の物語。待ち受けているのは破滅か何なのか。全15話ぐらいの予定です。

<本編>

―雪は融け、草木が生い茂る季節

文也は、使わないのに延々と放置していたこたつとストーブをやっと押し入れにしまった。

ここ1ヶ月、延々と残置物を仕分け、捨てられるものは捨て、大型家具は解体するという作業をしていた。

譲渡サイトで出会った女性のやべさんは、あれから頻繁に引き取りに来てくれて、割かし綺麗な木材は残り少ない。

やべさんは来るたびに文也の身の上話を興味津々で聞いてくれた。

「へー、それで古民家を買って一人暮らしされてるんですね!」
「そうなんです」
「私だったら、改装して古民家カフェとかやりたいな」
「接客とか苦手なんで、カフェは考えてないですねー」
「えー残念!良い家なのになー」

そんな会話をして、徐々に距離感が縮まっている気がしていた。

最近では

『今から行きまーす('ω')つ。おうちにいますか?』

なんてラフな感じになってきている。

次来た時には、ちょっとお茶でも誘ったらいけそうな気さえしてきた。

そして着々と綺麗になっていく我が家を見ると達成感が出てくる。


ふと庭を見る。

「なんじゃこりゃ」

庭が気付かないうちにジャングルになっていた。

草が人間の背丈ぐらいに伸び、樹木に蔦が縦横無尽に絡まる。

無かったはずの竹がいつの間にか無数に生え、壁のように家を取り囲んでいる。

コンクリートジャングルで育った文也は、この状況は想定外でしかなかった。

「マジで、こんなんなっちゃうの!?」

庭の広さは300坪。そこが全てモジャモジャとした緑に覆われている。

放っておいても良かったが、家の中をよくみると蔦が窓の隙間から侵入している。

あっちも、こっちも。

驚愕した。

文也は家に入ってきている蔦を除去してから、急いで草刈り機を通販で買った。



草刈り機を振り回して2時間は経っただろうか。

慣れない筋肉を使い、手が痛くなっていた。

前の家主がご丁寧に大きな石をあちこちに配置しており、しかもそれが草に覆われて見えない。

草刈り機の刃が木や石に当たると弾き飛ばされるし、刃は欠けるしで、思うように草刈りは進まない。

気が遠くなるような作業だった。

文也は汗を拭きながら玄関の外に座り、草刈り機を置いた。

「もう・・・いいや。雑草は諦めよう」

全く状況が変わっていない庭をしばらく見つめていると、赤い軽自動車が敷地内に入ってきた。

やべさんだ。

「あ、そうだ。今日来るって言ってたな」

草刈りをしている最中、『用事があって近くまで来たので、ついでにまた引き取らせてもらいます('ω')つ』と連絡が来ていた。

文也は立ち上がって自分の顔を平手で叩き、笑顔に切り替える。

赤い軽自動車は慣れた感じで駐車した。
窓からやべさんが挨拶する。

「こんにちはー!」

やべさんはいつも明るい。やべさんから元気を貰えてる気がした。
いつもは無表情な文也だが、この声を聞くとついニヤニヤしてしまう。

「こんにちは」

聞き慣れない低い声がする。
助手席をよく見ると、男性が座っていた。

やべさんがニコニコしながら言う。

「あ、この人は夫です」
「え、ああ、どうも初めまして」
「いつも妻がお世話になってます!」

文也は思わず挙動不審な感じになってしまった。
しかし旦那さんも明るそうな人である。

結婚してたのか・・・・。

文也はやべさんに自分のことを語るばかりで、やべさんのことはあまり知らなかった。

引きつった表情を悟られないように笑顔をつくりながら、夫婦を木材置き場まで案内する。

「俺なにやってんだろうなあ・・・・」

夫婦が仲良く木を選ぶ姿を、少し離れた後ろから見て、ボソっと呟く。

相変わらず香水の匂いがするが何も感じなくなった。今日の引き取りで綺麗な木材はほとんどなくなるし、もうやべさんも来ないだろう。

人妻にうつつを抜かしているわけにはいかない。大体家も片付いてきたし、次はこれからどうやって収入を得ていくか考えなければ。

しかしどうやって。

そんなことがグルグルと頭の中で回っている中、赤い軽自動車を無理やり作った笑顔で見送った。

最近の文也は、考えがまとまらない時は例のコミュニティのボイスチャットに入って人と喋るようにしている。会話することで自分の考えが自然とまとまる時が多い。

「よし、今日も入るか」


続く

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