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49 落語と駅弁

助六寿司というものがある。いなり寿司と巻き寿司がセットになったやつで、駅はもちろんコンビニでも買えるから、おそらく日本でもっとも見覚えのある寿司ではないかと思う(関東だけかな?)。

なぜあれを「助六」と呼ぶかというと、歌舞伎の演目「助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)」に由来する。

検索すれば解説ページがいくつも出てくるので、詳しくはそちらを参照してほしいが、簡単に言えば、この話に登場する侠客・助六が恋仲になる花魁・揚巻から、揚げ(いなり寿司)と巻き(巻き寿司)を折り詰めにした弁当を「助六」と呼ぶようになったというわけだ。

ぼくは歌舞伎は過去に一度しか見に行ったことはないが、寄席には年に数回は足を運ぶ。いまはどこの寄席もコロナ禍で場内での飲食を禁止したり、酒類の販売を中止していたりするが、以前は普通にビールや酒などが買えた。売店で助六とビールを買い、一杯やりながら落語を聞く。最高の娯楽である。

手でつまんで食える助六寿司が観劇のお供に適しているのは間違いないが、これを弁当として考えると、もっと工夫の余地があるような気がしてくる。なにしろ助六の中には米と海苔と干瓢と油揚げしか入ってないのだ。漬け物なんかも添えてあるパターンはあるだろうけれど、基本的には上記の4つだけで構成されている。

酒のつまみとして考えたときに、やはり魚が欲しくなる。なんなら肉も欲しくなる。煮物なんかもあればいい。でもそれって普通に弁当だよね。じゃあ、幕の内弁当でも買えばいいのか、ということになるんだが、ここでハタと気がつく。この世には新宿京王百貨店での「元祖有名駅弁と全国うまいもの大会」という素晴らしいものがあるじゃないか、と。

1月になり、駅弁大会が始まったら酒のつまみとしてポテンシャルの高い弁当をチョイスし、それを持って寄席に行き、落語を見ながら飲み、食べる。こんなおめでたい新年の過ごし方はないだろう。

これね、4年前にやりました。

駅弁大会は、例年いつも1月の上旬に2週間に渡って開催される。大会が始まったら欲望のままに駆け込んで、その足で寄席へ向かってもいいのだけど、寄席というのは1月の上席の番組は新春興行で、人気芸人が集中的に出演し、それ目当ての客も殺到する。となると、席を確保するのもままならない。

こちとら、人気の落語家の高座を聞きたいわけではないのだ。寄席で落語を聞きながら、うまい弁当を肴に酒を飲む、という“体験”をしたいだけなのだ。だから狙い目は正月休みの客足が落ち着くであろう中席。

行くべき寄席は、本来なら京王百貨店からも歩いていける新宿三丁目の末広亭が都合いいのだけど、あそこはコロナと関係なく飲酒禁止なので(前からそうだったっけ?)、館内でビールを売ってる上野の鈴本演芸場へと狙いを定めた。

当日、あらかじめネットで呼びかけておいたパリッコ夫妻と、スズキナオさんも誘っての決行となった。結果は大変結構で、最高の正月となったのは言うまでもない。

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