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48 おやじ様ランチ

お子様ランチで飲めたら最高なのではないか? と思うことがある。

一般的なお子様ランチといったら、まず中央に円錐台のチキンライスがあり、てっぺんには旗が立っている。その周りをハンバーグ、玉子焼き、エビフライ、タコさんウインナーといったあれこれが取り囲んでいる。まるで食える盆踊り。

その舞台となるのは、男の子用だったら自動車や機関車、女の子用はクマさんやパンダさんなど可愛い動物の形をしたプレートだ。オマケにおもちゃを付ててくれる店もあったりして、もうなんだか夢がいっぱいである。

この楽しい感じは何に似ているかというと、高知県の皿鉢(さわち)料理だ。

皿鉢料理というのは、大皿の上に鰹のタタキだの海老だの蟹だのといった魚介類をはじめとして、焼き物、煮物、揚げ物なんでもかんでも盛ってある。デザートのみかんはもちろん、羊羹まで一緒にしてしまうという、宴会用の料理の様式である。これがテーブルの中央にどんとあれば、延々と飲んでいられる。

そんな皿鉢料理で飲めるなら、お子様ランチでも飲めるんじゃないかと思うのだ。

ただ、デパートの大食堂で、注文を取りに来たウェイトレスさんに「えーと、お子様ランチに……瓶ビール」と頼むのはかなり勇気がいる。大人がお子様ランチを頼んで悪いという法律はないが、周囲に対して明白に不穏な空気を発散してしまうだろう。

そもそも、お子様ランチは「お子様」というだけあって、基本的に味付けがお子様向けだ。玉子焼きなんかきっと甘いに違いないはずで、酒のつまみには不向きかもしれない。

そこで、飲めるお子様ランチ──おやじ様ランチというのを考案してみた。

「ハンバーグ」は、そのままでも十分に酒の肴として通用するが、もう少し酒飲みの気分に寄せるなら、同じひき肉料理の「鳥つくね」だろう。彩りに卵黄もついていたら尚よろしい。

玉子焼きは、砂糖入りの甘い方ではなく、塩を入れたしょっぱいのにすればいいのだが、ここはどうせなら「だし巻き玉子」にしてほしい。賑やかしに大根おろしも添えてあったりすると、さらに嬉しい気持ちになる。

「エビフライ」もそのままでイケると思うが、同じ揚げ物なら酒飲み的にはちくわの磯辺揚げがいいかもしれない。ただ、もう少しエビフライに近いものがいい。ポイントは何かと考えて、衣からはみ出す尻尾だと気がついた。ならば、ここはもう「アジフライ」しかない。

「タコさんウインナー」はどうしようか。赤いウインナーのチープ感は捨てがたいが、いまいち刺激が足りないのではないか。同じウインナー系で行くならチョリソはどうだろう。タコ足状に切って焼いたら「チョリさんウインナー」だ。これはビールが進むぞ。

ひと通りつまみを食い、酒を飲み終わったら、中央のご飯ものに手をつける。ここは「チキンライス」のかわりに、同じ形に握った焼きおにぎりがほしいところだ。もちろんてっぺんには旗が立っている。酒飲みにとって何よりも嬉しい旗と言ったらアレに決まってる。

稲田堤「たぬきや」の営業中を示す赤い幟である。これのミニチュアが立っていたら最高じゃないか。

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