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38 DJパーティーで飲むお酒

 それまでクラブ遊びなんかしたことのないぼくが、いわゆるDJバーというところへ足を踏みれたのは2014年の9月だった。知人を通じて知り合ったDJフクタケさんが、薬酒バーの原宿店でプレイするというので、聴きに行ったのだ。
 フクタケさんは、一般的なクラブDJが使うブラックミュージックやハウスではなく、80年代あたりの歌謡曲をレアグルーブ的な解釈でつないでいくスタイルの先駆けだ。この年の2月には『ヤバ歌謡』というタイトルでCDデビューし、一気に注目されるようになっていた。
 ぼくはもう初めての酒場にビビるような歳ではなかったけれど、クラブというのは未体験だし、しかも場所は裏原宿。完全にアウェイだ。
 恐る恐るドアを開けると、音の洪水。その時点で誰がプレイしていたかは覚えていないが、フロアにはすでにフクタケさんもいて、店長を紹介してくれた。やがてフクタケさんの出番が来ると、ぼくもお酒の入ったグラスを持ってフロアの中程へ出て、心地よいリズムに身を委ねる。思わず踊りたくなる音楽がお酒をおいしく感じさせるし、お酒の酔いが音楽への感情移入を加速させる。
 それをきっかけにして、無謀にも「ぼくもDJやってみたい!」と思ってしまった。レコードはばっちりある。かれこれ30年以上も歌謡曲を集めてきた。フクタケさんと仲良くなったのも、そんな趣味が一致したからだ。
 でも、DJってどうやるの? なんにもわからないぼくは、DJハンドブックのようなものを買って読み込んだ。ピッチコントロールでテンポを合わせて曲と曲をつなぐ。クロスフェード。カットイン。レコードを聴く楽しみに、かける楽しみが加わった。
 フクタケさん目当ててDJパーティーに通っているうちに、その筋の友人たちが増えていった。彼らのプレイを見て学ぶことも多い。クラブだけでなく、DJの友達と居酒屋へ行く機会も多くなった。
 やがて最初の薬酒バー原宿にいた店主が、高円寺店の権利を買い取って独立した。晴れて独自のハコとなった薬酒バー高円寺で、ぼくは何度もDJをさせてもらった。最初は仲間の企画に誘われていたが、そのうち自分でも企画してパーティーを開催した。
 薬酒バーの他に、渋谷のバーShifty、喫茶SMILE、川崎のクラブチッタや渋谷のオルガンバーなんて有名な場所でもやった。千駄木のバーIssheeでは2年のあいだ毎月1回ひとり会をやらせてもらい、ずいぶん勉強になった。
 ぼくはリズム感が悪いので、DJとしてはずっと素人レベルのままだったと思う。唯一、他のDJに勝てる部分があるとすれば、長いあいだ集めてきた珍らしい歌謡曲ライブラリーくらいだろうというのは自覚していた。秘蔵盤をかけたときにお客さんが「何? この曲!」と駆け寄ってくれるのが最高に嬉しかった。
 ここまでずっと過去形で書いてきたので、もうDJはやめちゃったの? と思われるかもしれないが、そういうつもりはないよ。ただ、寄る年波のせいか体力的にしんどいんだよね。レコードバッグは重いし、朝型の人間なので夜遅くなるのも辛い。
 これから先、ときにはDJすることもあるかもしれないけど、基本的には曲のつなぎとかをあまり考えず、レコードをかけながらバカなトークをして、のんびりお酒を飲むのがいい。

 というわけで宣伝です。
 来月、神保町RRRにて中村保夫さんと一緒に「第2回 レコード居酒屋」というイベントをやります。これは二人が持ち寄ったアレな感じのレコードをかけながら、様々にトークをするというもの。DJではなく、ゆるゆるとお喋りしつつ、レコードを聴きつつ、お酒も飲める。いいねえ。

 ■日時:2023年5月11日(木)、19:00スタート
 ■料金:1,000円で1ドリンク付き
 ■場所:神保町RRR(千代田区神田神保町2-7 芳賀書店ビル5階)

※写真は、まだ自分のターンテーブルを所有する前、DJ機材のあるスタジオを借りて自主練していたとき。

気が向いたらサポートをお願いします。あなたのサポートで酎ハイがうまい。