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45 豆で飲む

豆で飲むのが好きなんである。が、納豆については、すでに散々語ってきたので、今回は糸を引かない方の豆の話だ。

まずは酒のつまみの定番であるところの「枝豆」から。

うちの地元の町中華では、ビールを頼むと、お通しに枝豆が出てくる。小皿に10莢(さや)ほど乗ってるだろうか。枝豆というのは、だいたいにおいてひと莢に3粒、少なくとも2粒は入っているので、10莢あったらだいたい25~30粒はあることになる。これを多いと思うか、少ないと思うか。

ぼくには十分だ。瓶ビールの大瓶を一人で1本飲んで、枝豆30粒も食ったらもう腹八分目。これで夕飯を済ませたことにするには物足りないが、このあと夕飯を食わなければならいと考えると、ちょいと気が(腹が)重くなる。

さすがに瓶ビールとお通しの枝豆だけで帰ったのでは申し訳ないので、仕方なく餃子なんかを頼んでみたりするのだが、もう気持ちはまるで餃子に向かっていかない。惰性で食べることになるのだ。いつも餃子には本当に申し訳ないことだと感じている。

乾いた豆もいい。かつて神保町のすずらん通りにあった餃子の名店スヰートポーヅでは、ビールを頼むと小皿に「塩豆」のお通しを出してくれた。ぼくはこれが大好きだった。店がなくなっちゃったからはっきり言うが、ぼくはスヰートポーヅの餃子はちっとも好きじゃなくて、でも、あの塩豆&ビールの組み合わせが好きでちょいちょい利用していた。実に罪深い。

乾いていない「塩豆」もある。これはえんどう豆の若いやつを蒸して塩を振ったものだ。町屋のときわ食堂に行くと、ぼくは必ず最初にこれを頼む。しっとりしたほのかな塩味の豆をホクホク食いながら、そのあとのつまみの組み立てを考えるのは至福の時間だ。

日本全国豆総選挙をやったら、必ずベストテン入りするものに「落花生」があるだろう。ポケモン進化的に言うなら、「落花生」のレベルが上がると「南京豆」になり、「南京豆」のレベルが上がると「ピーナッツ」になり、「ピーナッツ」の最終進化が「バタピー」だ。ポケモンの進化は、いわゆる出世魚(しゅっせうお)をヒントに考えたものだが、落花生はさしずめ「出世豆」だ。

誰だったか、会社の自分のデスクの引き出しに「バタピー」を皿にザラザラっと入れたものを仕舞っているという話を聞いたことがある。仕事をしていてちょっと口寂しくなったときに、この引き出しを開け、スプーンでバタピーを掬って食べるというのだ。健康を考えるとあまり人にオススメできる行いとは思えないのだが、でも、なんだかこのバタピーをスプーンで掬うというところに、ちょっと心惹かれるものがあった。ザラザラザラっ。

本エッセイ「マニタ酒房」の初回では「日本全国酒飲み音頭補完計画」というネタを書いた。『日本全国酒飲み音頭』を、より正しく酒が飲みたくなるような歌詞に改造するという試みだ。2月は元の歌詞では「豆まき」であり、しっくりくるものを無理に変える必要はないということで、これはそのまま採用することになったが、その背景にはぼくの豆好き嗜好も少なからず影響しているだろう。節分の季節、スーパーで豆まき用の豆(煎り大豆)を買ってきて、それを撒かずにポリポリ食いながら酒を飲むのが大好きだ。鬼が来たら? ぶつけるようなことをせず、豆を分けてやるから一緒に飲もうじゃないか。

激安居酒屋として有名なさくら水産には、かつて「カレー味の揚げ豆」があった。メニュー上での正式な名前はなんといったかな。もう覚えていない。数種類の豆を油でカラッと揚げ、そこに塩とカレー粉をまぶしてある。このカレー粉が重要だ。実にいいビールのアテになる。一時はさくら水産に行くたびに頼んでいたが、いつのまにかメニューから姿を消してしまった。酒場のつまみは、いつまでもそこにあるとは限らない。とても儚いものなのだ。

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