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羅針盤の言葉たち

困ったとき、迷ったとき、なにかを選ばなきゃいけないとき、頭をよぎる言葉があります。今日はそんな言葉をいくつか書き留めておきます。

「誰でもできることをがんばりなさい」

中3のときの保健体育の先生が最後の授業で言った言葉です。それまで「個性とは」「自分らしさとは」みたいなザ内申書チックな言葉を浴びせられてきたのに、最後の最後でこれだったので、当時は「先生、真逆やないかい」と戸惑ったものです。

が、社会に出て、この言葉の意味を身をもって理解するわけです。

わたしが学生から社会人へステージを移ったのは、就職氷河期真っただ中。ただでさえ厳しい社会で、無資格無技能なわたしが入り込める隙間はそう簡単には見つかりませんでした。卒業しても就活を続けて、GW前に非正規で滑り込んだ会社で、わたしに求められたことがまさにこれでした。

遅刻をしない。ワンコールで電話をとる。締切を守る。社内を観察してできそうなことを探す。あの日の先生の言葉……特別な資格や技術がなくてもできることをやりきる。誰でもできることを丁寧にやる。それがあの言葉の真意だったということに、10年経って気づきました。

逆にそこを無視して特別なことをやりたがる正社員の新入社員が、嚙み合わない歯車をガリガリ無理やり回そうとして、上手くいかないと憤ったり、しんどそうにしている姿を見たときに、まずは些細なことをきちんとやる意味をあらためて考えたのでした。

転職して働く場所は変わっても、歳をとっても、この軸は変わりません。特別でなくても生きる術はあると教えてくれた先生に感謝です。

「正義なんて言葉は口に出すな、死ぬまでな。心に秘めておけ」

テレビドラマ「踊る大捜査線」で、いかりや長介さんが演じた和久さんの名台詞です。リアルタイムで見たのは学生の頃だったけど、これも社会で揉まれてからじわじわと沁みました。

自分の性格として、シロクロつけたがるところがあるというか。たとえば、お悩み相談のような話があったとして、相手はただ話を聞いてほしかっただけ、言ってみたかっただけ、だったとしても、わたしは「〇〇したらえぇやん」と言ってしまう。

たぶん自己中で冷酷なんです、わたし。なにか問題が起こったとき、最短ルートで解決するにはどうすればいいか、という思考回路なので、それを他人にも適用してしまいがちなんです。

ただ、そういうことを言ってほしかったわけじゃない、という方が大半だということがだんだんわかってきて、自分の正義は他人の悪かもしれないと。立場が違えばわたしがシロだと思ってたものがクロに見える人もいるということが、30過ぎたくらいでようやくわかってきて(遅いな)。あぁ、和久さんが言ってたのは、こういうことだったのかなと。和久さんの台詞は「疲れるほど働くな」も好きだったな。

自分の正義と他人の正義は違うと心得ることで、自分の中に忍び寄ってくるモヤモヤを、かなり受け流せるようになった。「冷たいな、わたし」と思うけど、そこは自分を守るために、自分の正義を貫くために、正解かどうかわからないけど、黙って距離を置いて、かかわらないことを覚えた。

関西の文化で特に好きなのは「知らんけど」。「~やで」と断言しておいて、自分はこう思ってるけど他の人はどうかは知らないよ、という意味で「知らんけど」とくっつける。人間同士で利害関係が完全に一致しないということがわかっているのだと思う。

日本経済新聞2020年9月2日関西タイムラインより

今回このnoteを書くにあたって初めて読んだけど、自分の中にある「冷たさ」も、この一文にちょっと救われた。気持ちが軽くなった。「自分の損得に敏感な商人気質」とも書いてあったけど、そういう考え方もあるのかと。関西人40年以上やってるけど新たな視点をもらえた。知らんけど。

「人生ってのは、『出会い』だと思うんだよね」

2013年に放送されたテレビドラマ「空飛ぶ広報室」の鷺坂室長の台詞です。原作は先の記事に出ていた有川ひろ先生。

出会いは人だけじゃなくて、こういうエンタメだったり、それこそ一枚の写真だったり。自分の中からは出てこない刺激は、出会いでしか得られない。スイカにかけるひと振りの塩のような、そんな小さくとも幸せな出会いが人生をより味わい深いものにしてくれるのだと、人生折り返し地点に差し掛かってきて、実感が深まっています。

原作本もそうですが、空飛ぶは名言・名台詞の宝庫で、毎週日曜夜、しかも新年度はじまりの4月~6月の放送ということもあって、週明け月曜からまた働くための力をくれるようなドラマでした。今でも時々DVD-BOXを引っ張り出して見ることも。

もういい歳だし、もらうばかりでは申し訳ないので、自分が誰かにとって、そういう出会いのピースになれたらな、そういう価値のある人になれたらな、とも思う。全然足りないので精進します。

空飛ぶのドラマサイトに「なりたいものになれなくても 別の何かになれる」というフレーズがあるけれど、同じ有川先生の作品「図書館戦争」の映画版の台詞「歪んだ世界の中で どう生きるのか」も、一度きりの人生をどう生きるのか、を問われているような気がします。これは今も抱えているわたしの永遠の宿題です。

以上、迷いの大きい小さいにかかわらず、ひと呼吸置いて考えるときに頭をよぎる、羅針盤的言葉トップ3でした。