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デヴィッドフィンチャー特集だ!モノクロ作品ではヴォーグ以外にもイイのがあるよ(オススメMV #72)

こんにちは、吉田です。
オススメMVを紹介する連載の72回目です。(連載のマガジンはこちら)

今回はデヴィッド・フィンチャーというMV監督の特集です。
本連載での洋楽MV監督の特集は4回目で、過去の3回は以下となります。
・アニメMVの鬼才、ジムブラッシュフィールド(46回)
・ちょうどいいセクシーのMV職人、ディレクターX(57回)
・芸術的MVに到達した大御所、ハイプ・ウィリアムス(65回)

今回の特集は、以前の「マドンナのヴォーグは古典にして名作」で、ヴォーグ完成に至った経緯やその後もお伝えしたい!と思ったことがキッカケです。

まずは、そのきっかけとなった名作MVをご覧ください。
マドンナの「Vogue」です。どうぞ!

やっぱり、イイものは何回観てもイイですね。
ずっと家の壁面にプロジェクターで投影しておきたいほどです。

今回の特集のテーマでもあるこの「Vogue」のMV監督は「デヴィッド・フィンチャー」(David Fincher)といい、幼いころより映画監督を目指しながら、アニメーターを経てMV制作会社を立ち上げ、その中でこの「Vogue」が生まれました。
そして数々の良質なMVを制作したのち念願である映画監督になり、初作品は超メジャーである「エイリアン3」というから驚きです。
それだけMV制作で実績を積み認められていたということですね。
しかし、「エイリアン3」はご本人の思い通りには制作できず不本意な内容となっていたようですが、2作目の「セブン」が大当たりし一流の映画監督としての地位を獲得しました。

映画監督になったMV監督というのはたくさんいそうですが、実はそれほど多くなく、「映画監督がMVも制作した」というパターンがほとんどです。
そんな中、デヴィッド・フィンチャーは押しも押されぬ映画監督になったのですからあっぱれですね。

さて、デヴィッド・フィンチャーのMV監督デビュー作は1984年のリック・スプリングフィールドのMVですが、その翌年の1985年から怒涛のリリースが始まります。
1985年は6作品、1986年は一度2作品と落ち込みますがその翌年の1987年にはなんと12作品も手掛けます。
そして1988年と1989年は9本と、この頃のデヴィッド・フィンチャーは最もノリにノッているときで、そこで手掛けるのが「Vogue」へとつながる最初の作品となります。

それが、スティングの「Englishman In New York」です。

シブい!シブすぎる!
強い押し出しや印象付けが全くないのですが、この染み入るような、そして一度見たら忘れることのできない映像と音楽。
楽曲と映像がこれほどマッチングしているMVはなかなかありません。
これこそMVのひとつの完成系とすら思わせられます。

スティング(Sting)はイギリスのロックバンド「ポリス」(The Police)のメンバーとしてもソロアーティストとしても超有名で、ポリスとしてロックの殿堂入りも果たしています。
実は、スティングもポリスもあまり聴かないのですが、この「Englishman In New York」だけは違います。
たまーに落ち着きたいときに観ると効果抜群なので、私の中では鎮静剤的な役割をはたす貴重なMVとなっています。

スティングの楽曲にはモノクロのMVも多いのですが、その中でもこのMVだけはダントツに素晴らしく、他のMVの追随を許しません。
デヴィッド・フィンチャーはこのMVでモノクロMV制作の「コツ」をつかんだのではないかと推測しています。
というのも、これ以降のモノクロMVには良作が多く、その集大成が「Vogue」とも言えます。

この「Englishman In New York」のリリースは1988年で、「Vogue」のリリースは1990年ですが、その間の1989年にリリースされた隠れたモノクロMVの良作があります。
それがこちら、マドンナの「Oh Father」です。

美しい童話を見ているようなMVですね。
しかし、切なさや悲しさが心に沁み通ってくるような不思議なMVです。
このMVもまた楽曲と映像のマッチングが素晴らしく、この楽曲にはこの映像しかない!と思わせられます。

童話のようなこの「Oh Father」のMVは、実はマドンナの生い立ちと深く関連しています。
マドンナは実母と幼くして死別し、その2年後に再婚した父親との関係が悪化したようですが、その時の心の葛藤の表現だけではなく、ある種のトラウマからの脱却をこのMVに託したのではないかとも考えられます。

このMVの制作の過程でマドンナとデヴィッド・フィンチャーは相当な会話を重ねたのではないでしょうか。
そうでなければ、これほどの深みのあるMVを作ることはできないでしょう。
そして、この「Oh Father」の制作過程でのマドンナとの意思疎通が、のちに生まれる名作MV「Vogue」につながっていると確信しています。
つまり、「Vogue」は、デヴィッド・フィンチャーのMV監督としての技術的な集大成であり、かつマドンナというアーティストとの深い関係性の上で生まれた奇跡的な作品ではないかと考えています。

さて、1990年に「Vogue」をリリースしたデヴィッド・フィンチャーは、「Vogue」を超える作品を制作することは難しいとでも思ったのでしょうか、それを最後にMV制作を一旦中止します。
次のリリースは3年後の1993年に2本制作しますが、それ以降は数年に1~2本というペースになってしまいます。そして、2013年に1本のMVを制作したあと、今に至るまでMVの制作から手を引いてしまっています。

その最後のMVがこちらです。
ジャスティン・ティンバーレイクの「Suit & Tie」です。

これまたオシャレなモノクロMVですね。
ノーストレスで見ることが出来ますが、うまく作りすぎているので若干面白みに欠けるようにも思います。贅沢な悩みですが...

ジャスティン・ティンバーレイク(Justin Timberlake)は、アメリカのオーディション番組をきっかけに業界入りし、バックストリートボーイズのライバルグループである「イン・シンク」を経てソロデビューしたシンガーソングライターです。
2002年にリリースした1stアルバムはトリプルプラチナで、2006年にリリースした2ndアルバムはUSで1位というからすごいですね。
そして、2013年にリリースした3rdアルバム「The 20/20 Experience」に収録されているのが、この「Suit & Tie」となります。

さて、MVの話に移りましょう。
この「Suit & Tie」のMVはある出会いから生まれた特殊なMVなのです。
というのも、デヴィッド・フィンチャーはフツーのオファーではMV制作には携わることはなく、デヴィッド・フィンチャーが監督を務めた「ソーシャルネットワーク」にジャスティン・ティンバーレイクが出演したことがキッカケで生まれた作品となります。
そう考えると、この「Suit & Tie」も奇跡的なMVとも言えますね。

今回のデヴィッド・フィンチャー特集はいかがでしたでしょうか?
次にデヴィッド・フィンチャーが監督を務めるMVを観れる日が来るのかどうか分かりませんが、もし制作されるのであればぜひモノクロのMVを作ってもらいたいと心の底から願っています。

ではまた次回に。

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