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「土地と結び直す」〜最も個人的なことが普遍的なことである(ヌエボ葉山丸航海日誌)

この「ヌエボ葉山丸」航海日誌は、2023年1月1日に出港し、2024年秋分に葉山町制100周年(2025.1.1)記念出版を目指す航路おいて、企画者であるまみーた(大澤真美)が記すものです。

2023年1月5日。出港から5日目の朝、初めての航海日誌だ。

当然のことながら、島影は見えず、まだ何も起こってはいないが、「出港する」と決めて言葉にすることは大きなことだ。それだけで何かが変わる。そして、何も起こっていないところから、書き記して行くことが、とても大切なことだと、なんだか感じている。

今日は、ことの発端。なぜ、この航海を始めようと思ったのかを、書いてみようと思う。トム・ニクソンの「1人から始まる」ではないが、どんな企画・事業においても最初の1人の思いがあるからだ。わたしは「ハナシナガ族」として有名なので、少々長くなるかもしれないが。

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わたしは、埼玉県深谷市というネギと”日本資本主義の父”と呼ばれる渋沢栄一生誕の地で1977年に生まれた。折しも高度経済成長真っ盛り。子供の頃は、50円玉を握りしめて駄菓子屋に行ったり、近所の本屋のおばちゃんに発売前の「りぼん」を早めに分けてもらっていたが、だんだん小さな店が、大手スーパーやコンビニにとって代わられるようになった。郊外に新興住宅地やマンションができ、街の中心部がなんとなく寂しくなってきた当時、学校で「ドーナツ化現象」という言葉を知り、「ああ、こういうことか」と思ったものだった。

街に人気がなくなる。小さな通りは、子どもたちの遊び場で、けんけんぱやゴム弾をして駆け回っていたが、自動車の数が増え、通りは社交場の機能を失い、あくまで交通のためのものになった。思えば、少しずつ、地域に生きる人の色が、街から薄まっていった時代だったのではないかと思う。首都圏の地方都市は、どこへ行っても同じような顔になっていった。だから、「田舎」がある人がなんとなく羨ましかったし、地域とのつながり、「ここが故郷だ」という思いを持ちきれないまま大学で京都に出た。

 学生時代を過ごした京都は素晴らしい場所だった。街のそこここに歴史があり、自然があり、人の思いがあり、土地に遊ぶ、ということを存分にしたと思う。でも、自分がそこに「属している」というのは感じ難かった。お邪魔させてもらっている感じだ。その後に住んだ東京の江古田近くも、大阪や、カリブ海のドミニカ共和国も、それぞれに街の色があって、生活を楽しみはしたが「よそ者感」が払拭されることはついぞなかった。「江古田の人間です」「大阪の人間です」とは言い難いのだ。それがなんとなく自分の定まらなさ、根無し草感にもつながっていた。

そして、葉山。土地と人の関係性というのは不思議なものだ。妹に連れられて家族で葉山を初めて訪れたとき、「ここだ、ここに住むんだ!」と明確に思った。それから程なく越してきて13年。今は、「葉山の人間です」と言葉に出してしっくり言える。

葉山に来てから、私は本当に変わった。成長過程で張り付いてきた「社会とはこういうもの」「こうあらねばならない」がどんどん剥がれ落ちて、素の自分に近づいて行っている。それは、葉山の海や山や川に触れたこと、1年中ビーサンと短パンでよくて、「営業時間日没まで」のような緩い感じ、いろんな要素が「これでいいんだ」と思わせてくれたんだと思う。街が好きになり、街に変えられた自分が好きになる。そうなった時に、「私は葉山の人間です」と自然に言えるようになった。

土地と人とはどういう関係にあるのだろうか。葉山が合う人もいれば、合わない人もいる。ずっと住む人もいれば、通過点の人もいるし、時々遊びに来る人もいる。そう思ったとき、「土地と結び直す」という言葉が頭に浮かんだ。ちょうど、映画「すずめの戸締り」を見たこともあったかもしれない。かつては、土地のしがらみが重く、鬱陶しく、関係性を断つようにして経済成長を求めた時代もあったが、その土地との関わり方が限界に来ていることもなんとなく感じている。震災やコロナをきっかけに、意識的に住む場所を選ぶ人も増えてきた。

今こそ、一度立ち止まり、土地と人との関係性を考え直すところに来ているのではないか。経済成長で得たこと、失ったこと、何を閉じて、何を残すか。社会の流れの力は大きいから、過去を踏まえた上で、未来から吹く風を感じて、エッジに立ち続けることが、とても大切な気がする。それが、変化した時代の後に生まれた世代に向けて、私たちがすることなんだと思う。だから、待っている場合じゃないと、兎も角も、錨を上げ、帆を掲げてみたんだ。


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