誤学習はアブナイオバサンを作る…の段

ASDの誤学習問題はある日突然降ってくる

 

「ご飯食べにおいで~」の私の呼びかけに応じて、ひとりのASDの友人が私のもとを訪ねてきた。
 
夏の夕方だったと思う。

K子「こんにちわ~」
 
と、よくとおる澄んだ声と共に彼女は登場した。
まあ、ここまではまあいつもの調子である。
 
K子「聞いて下さい狸穴猫さん!ひどいんですよ~」

と続く。ま、これもまたいつものことだ。
 

猫「ん、今日は何が起こった?」

と、聞き始める。

彼女は勢いよく語りだす。

K子「めっちゃ危ない目に遭ったんですよ~!!!私もう怖くて怖くて、なんでみんなアブナイ走り方するんでしょう?…」

猫「駅まで自転車ででたの?」

K子「ええ、そうです。もうとっても危なくって…」

どうやら来る途中の道での周囲の自転車に対してご立腹の模様。

時間帯からはまあ道はすいてはいないだろう…と、情報を整理しつつ、彼女の話を聴き続ける。

とうとうと喋ってくれるマシンガンな彼女なので、適当に相槌を打てば話しは続く。

猫「急いでる人がおおかったのかねえ」

K子「もう本当になんなんでしょう!!!交通安全を気にしてない人って多いんですねえ!!!ホント腹が立っちゃって…」

猫「土曜日だからかねえ」

そのうちにこんなセリフが飛び出した。

K子「私が「危ない~!どいて~」って叫んでも誰もどいてくれないんですよ」

ここで私の頭は混乱した。

そこまでするほどのことありうるのか?
とはいえ、彼女がそれほど無茶なスピードを出したりするというのも想像しがたい。

こわいから車の免許取らないってくらいの怖がりさんである。

「そんなんばっかりだったの?」

と、多少の質問めいた相槌を織り込むと…

K子「そうですよ~、もう高校生からおじさんおばさんからみんなそんな感じで、もう私アブナイって何回叫んだか」

彼女はまたとうとうと、いかに周囲に危険な自転車運転者が多かったかを、わき上がる怒りとともに語ってくれる。
 
彼女の言うことは彼女の目からみた真実ではあるのだろう…が、その状況は、私の経験から考えるとほぼあり得ない話である。

30分ほどたっただろうか?

聞いてはいるものの私があまり同意しないものだから、矛先がこっちに向いてきた。

K子「私が危険運転したとおもってるんですか」

猫「いーや、あんたはあんまりスピードだしたりないだろうしなあ」

矛先を失った彼女も気の毒だが、私も途方に暮れそうになる。
 
まさか…いや、まさか…でも一応確認してみるか…だが…ありえない…いや、でも…

意を決して…ではあるが、おずおずと、私は聞いてみた。

猫「ところで、ブレーキかけたりした?」

K子「え?」

彼女は鳩が豆鉄砲を食らったような顔になった。

続けて聞く

猫「自転車のブレーキってどんな時にかける?」

K子「交差点とか道路を渡るときとか、あと目的地に着いた時ですかねえ」

猫「今日みたいにアブナイと思ったときってどうしてたの」

K子「ベルならしながら叫んでましたよ、アブナイですから」

筋はほぼ繋がった。

ひと呼吸おいて、切り出す。
あまり「普通」というセリフを使わない私であるが、さすがに説明するには「普通」を使わざるをえなかった。

「そか…、あのな…自転車乗るとき…普通、他の自転車と近付き過ぎたりしないように、方向変えるだけじゃなくて、自分のスピードコントロールするためにブレーキかけたりもするんだが…交差点でなくてもね…」

「ええええええええええ!!!そうだったんですかあああああ!」

「うん…」

彼女も驚いたが私も驚いた。

そうだ、彼女は知っている範囲で安全には十分気をつけていた。
ただ、「ブレーキをかけるシチュエーションに関する知識」が少し不足していたのだ。

自転車に乗り始めて30年くらいは経っているだろうと…考えると、普通なら事故の一回や二回起こっていても全く不思議はない。

彼女が自転車に乗るエリアはわりと交通量が少なく、坂がなかったことと、スピードを出さないことが幸いして事故に遭っていなかったのだった。
 
「じゃああ、私ってすごくアブナイおばさんじゃないですか!!!わー、恥ずかしい~」

「ま、そだな、かなり怪しいオバサン」
 
周囲がアブナイオバサンだとおもって避けてくれてたというのも幸運だった。

K子「うわー、どうしよう…私ひどいことしてきたんですね~」
 
(いろんな意味で)「アブナイ」のが「周囲」→「自分」に変わってしまったのだから、そのことをどう理解していいのかは困って当然だとも思う。
 
猫「今まで事故らなかったっつーのはすっげー強運だと思うぞ!まあ、叫ばなくてもいい方法わかったんことだし、これからは運頼みでなくても安全に自転車のれるじゃないか、よかったよかった、さ、飯にしよ~!」

一瞬、狐につままれたような顔をした彼女だったが、腹の減る時間帯でもありそのまま食卓についた。

三時間後、帰宅の途につく彼女に

「ブレーキの使い方忘れるなよ~」

と声をかけたら

「はーい!もうアブナイオバサンはやりません~!」
 
と機嫌のいい声が返ってきた。
 
晩御飯と一緒に晩飯前の出来事の咀嚼も進んで腑に落ちるところがあったのかもしれない。  


誤学習に関して

彼女のはじめの「怒り」に安易に同調しなくてよかった…と思った出来事であった。 

発達障害児者の「誤学習・未学習」からくる「怒り」や「傷つき」には、寄り添うだけではなんともならないケースが結構あるのである。

このケースでは、たまたま運よく気が付けたから事なきを得たが、気が付かないままだったら、彼女と私の人間関係にひびが入っていた可能性も高い。

「まさかそれはないだろう」という「先入観」にはしばしば私も足をすくわれそうになる。

    

最後に

これは実話である。このエピソードの記事化について、快く承諾してくれた彼女には感謝している。  

食いものネタの話が楽しい彼女とまた一緒に美味しいものを食べたいな…と思うのではあるが、新型コロナが収まるまでおあずけである。

 


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