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J信用金庫 v.s. MBA交流クラブ vol. 13

前回のつづきです。
vol. 12はこちらhttps://note.com/male_childcare/n/ne831325244a3

「今日は災難だったな。お疲れさん」
 グラスをぶつけると、佐伯はぐいっとビールを飲み干した。藤岡はビール瓶を傾け佐伯のグラスに注ぐ。冷蔵庫が古いためか、ビールはぬるく、グラスの半分は泡になってしまった。
「ほら、お前も飲めよ」佐伯はビール瓶を奪い藤岡を促す。藤岡は慌てて目の前のビールを飲み干すと、空になったグラスになみなみとビールが注がれた。
「ここのポテトサラダは絶品だぞ」
 藤岡は小皿に盛られたポテトサラダに箸を伸ばした。何の変哲もないポテトサラダだったが、カリッと焼き上げられたベーコンが混ぜ込まれており、ビールが進む濃い味付けになっている。
「若いんだから、遠慮せずに食えよ」佐伯は焼き鳥に齧り付きながら言った。
 普段、ビールを飲まない藤岡にとって、味付けの濃い居酒屋料理はあまり好きではなかったが、佐伯に勧められるまま、遠慮がちに口をつけた。
 コロナ感染が拡大する中、居酒屋はどこも閑古鳥が鳴いていたが、この店には中高年の男性がちらほら入っていた。カウンターに備え付けられたテレビを見上げ、プロ野球を観戦しながら、ちびちびとお酒を飲んでいる。藤岡たちのいる個室は店の奥まった場所にあり、襖を閉めるとテレビの音声はほとんど聞こえて来ない。
 
 ひとしきり料理を食べ終え、ビールから日本酒に替わったところで、藤岡は話を切り出した。
「海外送金の件ですが」藤岡は佐伯のお猪口に日本酒を注ぐ。「うちの金庫が頑なに海外送金の対応を断るのには、何か理由があるんですか?」
「うちの国際金融部の主な取引先はK産業だということは知っているよな?」
「はい、パチスロ運営でチェーン展開している会社ですよね」
「他にもパチスロ関連事業の多くが、うちの取引先になっている。」
 佐伯がお猪口をぐいっと飲み干すと、藤岡はすかさず継ぎ足した。
「パチスロの市場規模って、お前、いくらか知っているか?」
「いえ、ちょっと分からないですね。かなり大きいことは想像できますが」
「まあ、普通は知らないよな」佐伯は続ける。
「高度経済成長を遂げ、日本は豊かな国になり、娯楽にお金をかけるようになった。こうやって飲みに行ったり、ゴルフや映画、競馬や野球観戦をしたり。そういった娯楽費で一番多くの割合を占めるのが、パチスロだ」
「えっ、パチスロが一番ですか?」藤岡は驚いて聞き返した。ゆとり世代の藤岡はパチスロ店に入ったことすらない。
「パチスロの市場規模は約14兆6,000億円。二番目に市場規模が大きいのが飲食業界で、約14兆2,500億円。パチスロは余暇産業の26.4%を占める。日本人の一番の娯楽はパチスロなんだよ。」佐伯の頭には正確な数字が入っている。
「それほどまでとは・・・」藤岡は驚き、目を丸くした。
 都心を除けばどこの駅前にも必ずパチスロ店がある。コンビニがないような田舎でもパチスロ店はある。盛大な音とチカチカと煌めく光に射幸感を煽られ、今日も多くの日本人がパチスロ店に列をなす。


余暇産業の市場規模 「レジャー白書2021」より


「それだけ市場規模の大きいパチスロ業界が、なぜ銀行ではなく信用金庫と取引するのか。その理由は分かるか?」
「信用の問題ですか?」
「その通り」
 日本の証券取引所は、パチスロ業界の合法性が曖昧であり、投資家保護を果たせないという理由から、パチスロ運営会社の上場を認めていない。同様に多くの銀行は取引先としてパチスロ運営会社を相手にしないという商慣習があり、結果的に信用金庫が独占的にこの取引を扱うことができている。
「そもそも、賭博が禁止されている日本において、なぜパチスロを合法的に営業できるか。お前、知っているか?」
「いわゆる三店方式ですよね」
「そう、三店方式だ。ここからが今夜の話の核心になる。ではなぜ、パチスロ業界を国際金融部が担当しているのか、その理由は分かるか?」

 三店方式とは、パチンコ店、景品交換所、景品問屋の三つの業者の間で、特殊景品を媒介して取引を行う営業形態である。例えばパチンコの場合、パチンコで増やした出玉を直接換金することはできない。遊技者は出玉を特殊景品と交換する。そして、店の外に出ると、特殊景品を買い取ってくれる景品交換所があり、遊技者はその特殊景品を売ることで現金を得ることができる。景品問屋は景品交換所から特殊景品を買い取り、パチンコ店に卸している。パチンコ店と景品交換所は無関係であるということが建前であり、警察庁はその換金行為を未だ認知していない。

つづく

 ※本事件は本人訴訟で裁判中です。応援していただける方は、記事のシェアもしくは”♡”をクリックして下さい。

(参考資料)

※実際の人物・団体などとは関係ありません。

【本件に関する報道関係者からのお問合せ先】
メールアドレス:mba2022.office@gmail.com

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