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大人になった子供の話『パスト ライブス/再会』

『パスト ライブス/再会』観て来ました。

ストーリーも単純みたいだし、特にどんでん返しがあるようなものでも無さげだし、どうしようかな?とちょっと考えてたのですが次男が絶賛していたので、じゃあ観とくかと。

観たのは近所のシネコン、GW後半初日前夜の20時前の回だったのでやはり入りは少なかったです。
全部で10人いないくらい。
やはり、洋画には人が入らないのか。
ポップコーン持ち帰りが安いよ、という割引券も配っているくらいだから物販の売上も悪いのだろう。
こんなのでやっていけるのか?と心配になる。

さて、映画は想像通り、いや想像以上に何も特別なことは起きませんでした。
しかし、なのにも関わらず、とても上品で丁寧で静かな感動を残す映画でした。

ソウルに住む12歳の少年ヘソンと少女ナヨン。
2人は幼なじみ。
ヘソンはナヨンのことが大好きなのだけど、この年代の男の子らしく気持ちを素直に表せない。
ナヨンもどうやらヘソンのことは好きなようだ。
ある日、ナヨンは家族とカナダのトロントへ移住することになるが、ヘソンはきちんと別れの挨拶をしないまま2人は離れ離れになる。

12年後、24歳になった2人はそれぞれの道を探してソウルとNYで暮らしいてる。
ヘソンはSNSでナヨンのことを探している。
ソウルを離れノラとして暮らしているナヨンはその事を偶然知り、懐かしさからヘソンへ連絡し、オンライン越しで2人は関係を深めていく。

ヘソンにNYへ来いとしきりに誘うノラ。
しかし、ヘソンは語学留学で中国へ旅立つことになっていて、結局2人は一度も会わないまま別れる。

さらに12年後、ノラがソウルを出てから24年経っている。
ノラは脚本家として同じく作家の夫とマンハッタンで暮らしている。
そして、ヘソンがノラに会うためにニューヨークにやって来る。
そしてノラとヘソンは2日間、ノラとヘソンは

ストーリーはこれだけ。
主な登場人物もヘソン、ノラ、そしてノラの夫アーサーの3人だけ。

子供時代は坂の上に住む子役の2人とソウルの街並み。
12年後、24歳の2人のシーンは主にSkypeのビデオ通話。
24年後、大人になった2人の舞台はマンハッタンの街並み。

超ミニマル。
それでも1時間46分を飽きさせずに観せてくれる。

12年前のシーンは時代を感じて、何だか懐かしくてよかった。
12年前はSkype全盛だったんだなとか、
ノラが使っていたのは初期のMacbook Airだし、
FBなどのSNSがあったから、幼馴染も探せたんだな、
時代が2人を再会させたんだな、とか。

ストーリーも舞台も派手さはない代わりに、2人の表情と目線がとても重要でした。

特にヘソン役のユナ・テオのナイーブな感じがとてもよかった。
韓国映画に出てくる韓国男性は比較的マッチョなイメージの役柄が多いイメージがあり、日本人男性とはちょっと違うなと思っていたけれど、
(それはおそらく、今作でも出て来たけれど韓国では兵役があるからなのかもしれない)
ヘソンは素直に気持ちを外に出せないアジア人男性の内気でナイーブなところがとてもよく出ていて、これは日本人にも通じるところだなと思って見ていた。

そして、ナヨン=ノラは韓国語でヘソンと話をしている時と、夫と英語で話している時ではキャラが違うんだな、と思った。

それは、自分を必要以上に表現していかないといけないアメリカ社会で生きる移民者という立場の英語を話すノラと
ノラがまだナヨンだった少女時代の言語である韓国語という違いもあるのかもしれないと思った。

それにしてもヘソンよ。
ノラのことが忘れられなくて、しかも子供時代だけでなく、大人の入口に立っている時代のノラの姿をオンライン越しでも見ていたから余計に、
また会いたい、というお前の気持ちはよく分かるけれど、

12年前に会いに行っとけ

ほんと、そう。
結婚したノラにわざわざ会いに行ってどうするんだ、と。
なんなら、どうにかなるかもとでも思ったのか、と。
こういうところが国籍が違っても男ってやつは、、、引っ張るんだなぁとその情けなさが身につまされる。

分かるよ、分かる。
そうでもしないと踏ん切り付かなかったんだよな。
だけどな、
いや、もういいか。

ノラの夫のアーサーもいい奴なんだな。

母国語が異なる妻と暮らしていて、寝言が自分の知らない韓国語だと不安になり、
自分も韓国語を勉強しようという、
幼馴染の、そしておそらく妻の初恋の男性が母国からわざわざ会いに来ると知って、
夫として余裕を見せて気にしてないよ、という風に強がっているけれど、怒るに怒れないし、すごく複雑な感情を持て余している、
そんなアーサーもとてもナイーブな奴だ。

男ってなぁ、そうだよな。

ノラ役のグレタ・リーは、Apple TV+オリジナルドラマ『ザ・モーニングショー』の気丈なステラ役の印象が強かったんだけど、
韓国語でヘソンと話をする時は少女に戻って可愛く優しい感じになっているのがとてもよかったよ。
ファッションも素敵でした。

だけど、もう40過ぎですよ。
それを24歳の役は。。。
欧米人から見たらアジア人は若く見えるからOKだったんだろうか。
同じアジア人から見たら、ちょっと無理あるぞと思って見てたよ。

あとタイトルの事ですが、個人的にはパストライブスの意味する前世については、あまり感じなかったし、
韓国語のイニョン=縁の真意は分からないけれど、2人はやはり出会ったけれど結ばれない縁だったんだと思った。

それにしても、誰にでも一つや二つはありそうな、子供時代の気持ちを大人になって振り返る。
良かったなぁ。

まさに大人になった子供の話。

〈了〉

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