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いったい何人、命を落としているのか (防犯。隙のない旅・その4)


さて、いままで。「気をつけよう」「注意しよう」と散々書いてきた。「命のリスクもある」とも。いたずらに脅すつもりもないし、被害を羅列して旅が怖くなってしまっても嫌だ。でも実際に嫌な思いはして欲しくない。このジレンマ、わかってもらえるだろうか。
だからといって甘い言葉をかけるつもりはない。要はそう、真実だ。実際のところ、犯罪や事故というものはどの程度起こっているのだろうか。

まずは殺人。
外務省発表のデータを読み込んで、「命」を落としてしまった人たちについて調べてみた。
現在のところ、アバウトだが、だいたい年間10人前後の日本人が殺されている。
「そんなに?」と思う数字だが、しかし、この殺された日本人は観光客ばかりではない。というのも、確かに毎年1600〜1700万人前後の日本人が出国しているのだが、そのほかにも「海外在住の日本人」が134万人弱(2016年度)もいる。この10人という死者数には、長年住んでいる日本人が現地でのトラブルにより殺された案件も含まれているのではないだろうか。
だが実際にその割合はわからないので、ここは被害者が全員「観光客」だったと仮定してみる。つまり、年間170万人に1人の日本人が殺されていると考えてみよう。日本の自動車事故の死亡率がざっくり年間3万人に1人ぐらいだ。この交通事故の割合からすると、海外での殺人事件の件数はずっとず〜っと低い。


次に事故死について。
旅行者が関係しそうな事故を見てみると、「レジャーやスポーツ」による死亡があげられる。総じて年間30件前後。
登山による遭難や事故死、ダイビングや遊泳による水難事故、スキーやパラグライダーなどのアクティビティの事故などがあげられる。リスクの高い7000〜8000メートル級の登山なども含まれている。
さらにはこれとは別に、年間30件前後の「交通事故」が起きている。自動車、船舶、飛行機、列車事故などなのだが、中でも一番多いのは自動車事故だ。
このほかにも、地震などの天災や突然のテロに巻き込まれた人も年間数名だが存在する。
この数字は死者だけであり、重度の障害を負ったケースは出てこない。この何倍かの件数があると思ったほうがいいかもしれない。

また同じく数字には出てこないケースでは「旅先で失踪」、いわゆる「行方不明者」になる、というパターンがある。観光名所などで、日本に帰ってこなくなった邦人情報や写真が記載されたポスターなどを、ごくたまに見かけることがある。
これはどんなに数字を読み込んでも、年間で何人いるのだかわからない。訳あって本人の意思で失踪した場合もあるだろうし、不法滞在中で名乗り出ない人もいるかもしれないからだ。

一方、「犯罪被害」についてはどうだろうか。
ここ数年における外務省の、海外における邦人の犯罪被害者の数を見てみると、2015年から遡ること5年間、平均3万1000人に1人といった割合で、窃盗、詐欺、強盗などの犯罪に巻き込まれて大使館や領事館などのお世話になっている。

あれ、意外と少ないね。国内の交通事故死も3万人に1人じゃなかったっけ……といって、もうお気づきかもしれない。犯罪に巻き込まれた全員が全員、大使館に行くわけではないのだから、大なり小なりトラブルの数そのものは未知数なのだ。
パスポートの再発行や入院するような大変な傷を負っただの、有り金全部取られて日本の家族に送金してもらう手段を教えてもらうといったりといった案件以外は、大使館に連絡する人は少ないのではないかと想像する。現地警察に行く人はいたとしても、ね。

さらに、お金を巻き上げられそうになってすごく怖かったとか、ひと気のないところに連れ込まれて奇跡的に脱出したなどの、犯罪が成立せず、ギリギリセーフで免れた場合。たとえ死の寸前のような怖い思いは十二分にしたとしても、被害の数字にはカウントされない。大使館の救援数を、あるいは保険会社の申請数を数えたところで、犯罪に遭う実態はぜんぜん見えてこないのが現実だ。
私は旅行中、何人もの被害者を目にし、彼らの話を聞いた。実際に自分にも、甘い言葉や危険な誘いが眼前にぶら下がったこともある。そう、たくさんトラブルの火種はあるのだ。もちろん、みんながみんなひどい目に遭う訳でもないのだが。
たとえ犯罪が成立しなかったとしても、嫌な思いをしたショックは想像以上に大きい。マジへこむ。旅を楽しむどころではない。その国を呪いたくもなる。せっかくのバケーションを台無しにしたくはないよね。
そして同時に、明確な死者数などの数字が見えたとしても、確率ばかりを追ってみても仕方がない。たとえ殺人の確率が170万分の1人であろうと、気を緩めると自分がその「1」になりうる。油断大敵ということに変わりはない。

実際のところ「世の中そう悪いものではない」と言いたい。本当にそう思う。
いい人、心から優しい人はたくさんいる。むしろ、いい人のほうが圧倒的に多い。根っからの悪人はそうそういない。日本もそうでしょう? 外国も同じだ。ヤバい奴、悪い奴というのはほんの一握りだと。
でも経済や治安のバランスが崩れてくると、悪い奴の割合も多くなる。これもまぁ、日本と同じ。現に、日本も終戦直後だとかバブル崩壊直後だとかは、犯罪件数も多かった。環境が人を狂わせることもあるのだ。
この国の人だから、こんな文化だから犯罪が多い、なんてことは決してない。その時代、その環境が影響していることが往々にしてあるのだ。だから、どうか治安が悪いからといって、その国を嫌いにならないでほしいし、見下すようなこともしないでほしい。その治安の悪い国で、まっとうに曲がらず生きている人たちの誇りをも傷つけないでほしい。

でも、旅をする場合。その犯罪を企んでいるほんの一部の輩が、わらわらと観光客をめがけてやってくるからタチが悪い、と言いたいのだ。しかもアジア人はなんだか狙われやすい。特に日本人や中国人は「お金持ち」と思われている節があるし、さらに日本人は「平和ボケして不用心」という不名誉なレッテルが貼られている。

旅のトラブルの多くは人災だ。天災や乗り物などのトラブルなんかよりも圧倒的に多い。だから、外国では「人の動き」に気を配らなければならない。
しかし朗報もある。天災では、自然は何を考えているのか皆目検討がつかないが、人災は、同じ種、つまりみんなヒューマンなのだからよっぽどわかりやすいのではないだろうか。
回避する方法としては、情報を事前に集めること。数ある手口をシミュレーションしておくことなど。悪者の視点に立って考えること。

また、もらい事故もテロも天災もアクテビティの事故も、気をつけていようが平和な日常に突然降りかかってくる不幸である。「落石注意‼︎︎」と看板を立てたところで「どないしろってーの!」とツッコまれるのに似て、これも吠え返されてしまいそうだが、それでも伝えたい。「どうかくれぐれも注意して行動しよう」と。
特に登山事故や水難事故は中高年に多い傾向がある。無理をしないで。
そしていかなる場面でも何か「説明のできない嫌な予感」がしたら、予感を説明できるようになるまで待つのではなく、損得勘定は捨てて引き返すのが「賢さ」だ。


私が言っていることに矛盾があるのはわかっている。「旅の醍醐味は人との触れ合いだ」と散々前の章で謳ってきたからだ。そして、それが素敵な旅の思い出にもなる。だから話しかけてくる人すべてを完全シャットアウトしなくてもいい。
しかし、他人と触れ合うときはどこかで必ず気を引き締めることを忘れないでほしいのだ。さらにはまだ土地に慣れなくて自信がないうちは、すべてを無視しても構わない。日本の印象を良くするだとか、相手に悪いだとか、最初はあまり考えなくていい。少なくとも行動の最優先事項にしてはならない。

周囲にたくさん人がいて、話の途中でも相手から離れられる場所であるならば、耳を傾けてもいい。しかし隙は与えず。退路は確保。荷物はさりげなく引き寄せる。その人だけに集中せず、仲間が背後にいるかもしれないので周囲も気を配る。そしてなんだか怪しいと思ったら、速攻立ち去ること。
うわ、面倒臭い!と思うかもしれない。でも、だんだんと旅慣れてくれば、意識しないでもそれらの行動が自然とできるようになるから大丈夫だ。




ここまで読んでくれただけで、うれしいです! ありがとうございました❤️