畑中麻紀

翻訳者 【新版】ムーミン全集1巻~8巻(講談社)改訂翻訳 評伝『トーベ・ヤンソン 人生…

畑中麻紀

翻訳者 【新版】ムーミン全集1巻~8巻(講談社)改訂翻訳 評伝『トーベ・ヤンソン 人生、芸術、言葉』(フィルムアート社)共訳 まずは↓からお読みくださいませ。 https://note.com/makimumin/n/n0cb44c1f6d0d

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『たのしいムーミン一家』旧版・新版比較_第1章③

旧版と新版との違いを解説してみよう、の 『たのしいムーミン一家』の比較 第1章②はこちら↓ ヘムレンさんのコレクションアイテム候補を めぐる会話のつづき。 旧版の元になっているであろう 英語版を見てみるとここは "What about shells?" the Snork Maiden proposed. "Or rarey buttons," said Moomintroll. となっているため、日本語訳は 「めずらしい」ボタンとなっているのだろう。 では原書はどうな

    • 『たのしいムーミン一家』旧版・新版比較_第1章②

      旧版と新版とでは大きく改訂されている 『たのしいムーミン一家』の比較 第1章①はこちら↓ では、つづきをば。 「わけがわからなかった」と 「よくわからなかった」との違いは 原書表現による違いだ。 1948年版原書はförstod inteなので 「理解できなかった」であり、 英語版もここは "Now you've got a new piece of furniture again," he said, grinning, for Snufkin could never

      • 『たのしいムーミン一家』旧版・新版比較_第1章①

        『たのしいムーミン一家』の原書 TROLLKARLENS HATTは1948年版・ 1956年版・1968年版があり、 旧版日本語版は1948年版(の英語版)を 新版日本語版は1968年版を原書としている。 そして、英語版は意訳が結構多いことが Tove評伝でも言及されている。 旧版から大きく改訂している新版ムーミン全集 1巻~8巻の中でも、『たのしいムーミン一家』は 語句の表現だけでなくプロットも一部異なるが その理由は: ・原書の改訂によるもの ・英語版の意訳によるもの

        • 怒濤の半年間

          2014年5月、トーベ評伝をひたすら 翻訳する日々が始まった。 出版翻訳の経験はゼロ。 しかし、初めてだから…という言い訳は 通用しない。そんな言い訳がついた本が 読みたい・買いたいと思われるはずもない。 冷静に考えると恐ろしくなったが、私には 実績がない分、失うものもなかった。 遡ること数年前。 精神的に追い詰められて 抗不安剤や抗鬱剤を服用しながら その日一日を何とか生き延びていた頃は 世の中というキラキラした(ように見えた) 世界の中にはどこにも居場所がなく 深く

        『たのしいムーミン一家』旧版・新版比較_第1章③

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        記事

          その日は突然やってきた

          Boel Westin著のトーベ・ヤンソン評伝は 2014年11月に講談社から、そして 2021年10月にフィルムアート社から 日本語翻訳版が出版されている。 今回は2014年出版の講談社版の 共訳を担うことになった経緯について。 GW明けの5月某日の朝 その日は突然やってきた。 数日前にSNSにあげた トーベ100周年関連記事の翻訳を たまたまご覧になった編集者さんから 評伝共訳のオファーが来たのだ。 当時、トーベの生誕百年の日に 出版を予定していた評伝翻訳本の制作が

          その日は突然やってきた

          本は売れないと絶版になっちゃう……!

          Boel Westin著のトーベ・ヤンソン評伝 "Tove Jansson : ord, bild, liv" は 2014年のトーベ・ヤンソン生誕100周年に 日本語版が刊行された。 数々の偶然とご縁によりこの本の 共訳者として関わらせていただいた。 評伝制作チームのムーミン愛を燃料に 超タイトなスケジュールをクリアして 刊行された 『トーベ・ヤンソン 仕事、愛、ムーミン』 制作者一同、自信を持っておすすめ!の 1冊で、1回重版もかかったのだが 2020年12月に絶版と

          本は売れないと絶版になっちゃう……!

          Tove評伝翻訳・エピソード0(zero)

          トーベ評伝翻訳のきっかけとなった 新聞記事の翻訳がひょっこり出てきた。 2014年の年明け間もない頃、 Thomas先生が送ってくれた SVENSKA DAGBLADETの記事を 特に何の当てもなく翻訳したもので、 これがトーベ評伝共訳者を探していた 編集者さんの目に偶然、とまったのでした。 10年前の翻訳で、拙訳も拙訳ですが。 最晩年のトーベの様子も言及されている 記事はめずらしいかもしれません。 ※2014年の記事なので「生誕100周年」 となっています。 『時代の先

          Tove評伝翻訳・エピソード0(zero)

          ヘクサメーター?

          「ヘクサメーター」は瑞語でも英語でも hexameterというのだが hexはギリシア語の数詞「6」の意味 meterは「韻律・歩格」の意味なので hexameterは「六歩格の韻律」 一つの長音節と二つの短音節が 一組の「歩格」となり、その歩格が 六組つながって一行を形成する詩型、 それがhexameterだ。 ホメロスの叙事詩 『イリアス』と『オデュッセイア』が hexameterで書かれているそうなのだが そもそもこれらの叙事詩はギリシア語で 書かれている。 ギリシア

          ヘクサメーター?

          ニョロニョロの目って…?

          「ベランダパパ」から脱却すべく 突然、出奔したパパ。 ふらふらと歩いて辿り着いた殺風景な浜辺で ニョロニョロたちと出会う。 ボートに乗っていたニョロニョロたちの 目の描写は旧版では「青白い目」となっている。 英語版のpale eyesを訳したものと思われ、 原書表現のblekaを瑞英辞典で引くと paleが一番最初に出てくる。 ニョロニョロの目については 新版『たのしいムーミン一家』で 旧版の「青白い小さな目」を 「白目がちの小さな瞳」と 既に改訳していたが、ここでもう一

          ニョロニョロの目って…?

          昔々あるところに…?

          『ムーミン谷の仲間たち』は 9つの物語を集めた短篇集。 このうち2篇の冒頭の一文は ”Det var en gång" で始まっている。 Det var en gång en filifjonka som tvättade sin stora trasmatta i havet. (Filifjonkan som trodde på katastrofer) 『この世のおわりにおびえるフィリフヨンカ』 Det var en gång en hemul som arbet

          昔々あるところに…?

          har(=have)をどう訳す?

          長かった冬からようやく季節が動きはじめ 雪と氷に閉ざされていたムーミン屋敷のドアが 開かれたシーンでムーミントロールが つぶやいた言葉が旧版では: 「いまこそ、ぼくは残らず知ったわけだ。」 と、ムーミントロールは、ひとりでつぶやきました。 「ぼくは、一年じゅうを知ってるんだ。冬だって知ってるんだもの。一年じゅうを生きぬいた、さいしょのムーミントロールなんだぞ、ぼくは。」 となっている。原文は Nu har jag allting, sa Mumintrollet för

          har(=have)をどう訳す?

          トゥーティッキの帽子は……

          春の匂いを感じたトゥーティッキが 帽子を裏返して歌う場面。 「するとトゥーティッキは、赤いぼうしを 裏返しました。内側は、空色でした。」が 旧版では 「けれども、おしゃまさんは、もう赤いぼうしを、 いじくりまわしていました。内側は、うすい青色でした。」 となっている。 「もう(赤い帽子を)いじくりまわしていた」 というのなら、何かにつけ普段から帽子を いじくりまわす癖があって、その癖がもう出た、 ということ?と、何だかわかりにくい。 原書を参照するとここは Men Too

          トゥーティッキの帽子は……

          虫眼鏡でフィルムを……?!

          新版『ムーミン谷の冬』 で春になり ムーミンママが虫眼鏡で集光して フィルムを燃やす場面だ。 この虫眼鏡とフィルムは物語の冒頭、 ムーミントロールが冬眠から目覚めてしまう 前の描写でも登場している。 春になったら、太陽の光で フィルムを燃やすというのは 一般的なことなのだろうか? スウェーデン語系フィンランド人の 言語コミュニティで訊いてみたところ、 セルロイドフィルムが全盛だった1950~60年代の 「あるある」だったそう。 「子どもの頃よくやった」 「あの臭いを思い

          虫眼鏡でフィルムを……?!

          「こんにちは」にどう返す?

          ミムラの登場から始まる9章は 映像の立ち上がり度が群を抜いている。 ばらばらにムーミン谷にやってきた (つまりそれまでは、ひとりずつに スポットを当てて描かれていた) 6人が全員揃うのがこの章だから、 というのもあるが、 この章を読んでいると、各シーンの色合い・音・ 空気感があざやかに思い浮かび、まるで 映画を観ているかのようなのだ。 真っ赤なロングブーツを穿き、 つやつやした薄オレンジ色の髪の ミムラの華やかさと軽やかさ。 橋の上に座りこみ、仕掛け網で 魚獲りに勤しむス

          「こんにちは」にどう返す?

          スナフキンの帽子の行方

          『ムーミン谷の仲間たち』所収 『世界でいちばん最後の竜』は アニメ版でもエピソードが登場しているので 短篇集の中でも割とメジャーかもしれない。 こちらは(たぶん平成版アニメを元に制作された) スウェーデン語版のミニブック(タイトルは『小さなドラゴン』) 偶然、竜を捕まえたムーミントロールは 竜が懐いてからお披露目しようとしたが 何を隠してるのよと早々にミイに怪しまれ、 結局、スナフキンにだけ懐いた状態での 状態での御開帳となってしまう。 竜は怒ると小さな煙の雲を吐き、

          スナフキンの帽子の行方

          天窓から転げ落ちたヘムルは……

          短篇集『ムーミン谷の仲間たち』最終話の 『もみの木』で、冬眠していたムーミン一家を 起こそうと、ヘムレンはムーミン屋敷の天窓から 突入する(玄関は雪で埋もれているからだろうな)。 ヘムルが天窓に足をかけた途端、 窓は内側に開いたから、さあ大変!な この場面。旧版では 「ヘムルはもろに雪と暗がりと、ムーミン一家が 屋根うらにつめこんでおいたがらくたをつき ぬけて、ころがり落ちてしまったのです」 とあるのだが、よく読むと何か違和感が。 原書を参照してみるとここは: hemul

          天窓から転げ落ちたヘムルは……