ユカ

日記/エッセイ

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  • 【文学フリマ東京38サンプル】エッセイ

    5月の文学フリマに出すエッセイです。

  • 今まで制作した詩の一覧です。

  • おすすめ本紹介・食べ物レポ

    本に出てくる食べ物・飲み物等をレポしていきます。不定期更新。

最近の記事

クッセェ~絵本の英才教育

 昔、うちの本棚に「ギルガメシュ王ものがたり」という、くっせぇ〜絵本があった。キザや気取っているという意味ではない。臭いの話である。その絵本はインクのせいだか紙のせいだかわからんが、もんのすっごく臭かった。  ページを開いた時点でもう臭い。何なら手に取った瞬間からほのかに臭い。もし顔を近付いて嗅いだりなんかしたら、しばらくは鼻の奥に染みついて取れなくなるほどの強烈な臭気だ。しかも何の臭い、と訊かれると返答に困るようなオリジナリティ溢れる独創的なスメルであり、むしろあの絵本が「

    • ぴちょんくんに捧ぐ偏愛

       はじめて物語を書いたときの記憶といえば、私が幼稚園の頃に当時大好きだったダイキンエアコンの宣伝キャラクター「ぴちょんくん」の絵と、まだ覚えたばかりのひらがなを使って、紙芝居的な物語を作ったことである。その頃はまだ長い文章も書けなかったため紙芝居一枚につき書ける文章も二文字くらいで、使った道具も黒一色のボールペンとコピー用紙の裏紙だけという簡素な作りが定番だったが、母や母の友達に見せるとみんな「このページどういうこと?」などと言いながら興味津々で読んでくれて、それが恥ずかしく

      • サイゼリヤ珍事件

         2/25.Sun.  今日も雨が降っているので買い物に行かないと決めた母がこたつに埋まりながら「私は自由!」と叫んでいる。外に出ないと決めたとたん露骨にごきげんだ。  私は一ヶ月くらい前からずっと行こう行こうと思って後回しにしてきた、阿佐ヶ谷の書楽跡地に新オープンした八重洲ブックセンターに行く。書楽の頃とお店の雰囲気や棚の配置や選書が変わっていなくて安心する。でも私は本がギュッと密集しているような情報量の多い場所が苦手なので、お店に入って十分足らずでそそくさと出てきた。パー

        • 母親の虚偽申告

          2/23.Fri.  朝からインスタントラーメンを食べる。チャルメラバリカタの豚骨味。妹にドン引きされたが、私は絶対にこれを食べるんだという強い意志をもって目の前で麺を啜ってやった。  最近、就労支援施設からの帰り道が寒すぎて必ず下顎がガチガチに固まって痛くなるため、今日は白いもふもふのマフラーを首に巻いていったら顎が痛くならなかった。これから寒い日に自転車を使うときは、必ず首にマフラーを巻いていこうと思う。  就労施設から帰って夕食を食べた後、母と妹と一緒にこたつであたたま

        クッセェ~絵本の英才教育

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        記事

          味覚障害になった

           2/18.Sun.  ようやく明日から晴れて自粛期間が明ける、と思っていたら普通に日にちを勘違いしていて、正式な釈放は明後日からだった。途端に全ての気力が消え失せる。 そういえば妹が部屋に戻ってきて(私は妹と同じ部屋を使っている。ちびまる子ちゃんの部屋をイメージしてもらえるとわかりやすい)久しぶりに会話した。今までずっと一緒に寝ていたのに、ここ数日間離れていただけで、まるで今まで一人で入院していた病室に新しい患者が入ってきたような不思議な気分になる。妹はまだ声に覇気がないけ

          味覚障害になった

          急にタメ口になる奴

          2/16.Fri.  ここ二日間ほど三十九度の高熱を出して寝込んでいたため、朝一番に病院に行った。今朝にはもう熱が下がっていたので自転車で向かう。二日ぶりのシャバの空気は美味しかった。しかし私を問診してくれた若い女性の看護師さんに自分が発達障害だと伝えたところ、なぜか急にタメ口混じりに話しかけてくるようになったので、おおお? と思う。たぶんこちらを馬鹿にしてるとかじゃなくて、意思の疎通が困難(かもしれないと思われる)相手にわかりやすく指示を伝えてくれようとした結果なのだと思う

          急にタメ口になる奴

          短歌ビギナー第一歩

          1/12(金)  病院に行く前に、池袋のジュンク堂に寄った。大きな棚にぎっしりと詩集や歌集が並んでいるのを見て嬉しくなる。歌集はきれいな装丁が多くて見ているだけで楽しい。今日は短歌の入門書が欲しかったので色々迷った末に「起きられない朝のための短歌入門」を買う。対談式で読みやすく、「最初の一首の作り方」まで指南されているので、これは良さそう。あんまり入門書の良し悪し(本当に初心者向けに噛み砕かれているかどうか・自分との相性)がわからない私でも読みきれそう(だと毎回思うんだよな)

          短歌ビギナー第一歩

          いずれ忘れるきみへ【詩】

          きみが生まれたのは、錆に覆われた街の、冬のはじまり。 きみの顔は誰も知らない。きみの顔は頭の中でぼんやり霞んで、八重歯だけが柔らかに覗く。 きみに関して知っているのは、きみの声が産毛がざらりと震えるように低いこと。引きずる左足が砂を噛むこと。きみのその背を、硬い骨がまっすぐに貫いていること。 きみはぼくたちの前であらゆる言葉を話し、 (そりゃ今まで色々あったし、) 生きて、 (ずいぶん長いこと生きたけどさ、) 死んだ。 (もう何も言うことなんかないよ。) きみの最後の言葉は今

          いずれ忘れるきみへ【詩】

          混線【詩】

          もうずいぶん長いことぼくは人間ではないようで、生まれたときはたしかみんなと一緒だったはずなのに、今ではもう薄く濁った境界線がみんなとの言葉を隔てているのです。ぼくはずいぶん足りなくて普通のことがよくできないので、映画館のポップコーンが貰いに行けません、化粧の仕方がわかりません、因数分解が解けません、列に並べないのでコーヒーを飲めずに立ち尽くしています。人混みの中で絶叫を飲み込んでばかりいたらみんなもうぼくを置いて流行りの映画を観ていて、ぼくはみんな殺してやりたいのです。この世

          混線【詩】

          井の頭動物園に行ってきた

           先週ぐらいに突然よっしゃ水族館に行こうと思い立ち、井の頭動物園に行ってきた。井の頭動物園は都営の施設なので、たった400円ぽっちで動物園と水生物園の両方に入れるという破格の安さとなっている。常に手持ちのお金が1000円あるかないかの実家住みボンビーガールには嬉しい限りである。  よし行くぞと決めた瞬間からテンションが爆上がりし、前日には旅のしおりまで作った。電車賃と駐輪代はいくらで、昼食代は600円以内に収めて……と自らの衝動的浪費癖にストッパーをかけることも忘れない。入園

          井の頭動物園に行ってきた

          月山【詩】

          月にはひとつ月山があります。 灰色の大地の上にぽつんとひとつ月山があって、死んだらひとりでそこに行きます。 退屈な風景に嫌気が差したら、てっぺんで青い地球を見て、生きてたころを思い出したら、すべり台を滑ります。さみしくなったら、真っ暗なトンネルで眠りましょう。 自分の足音以外に音はなく、悲しくなって泣きじゃくっても、小声で歌をうたっても、誰にも聞かれずいられます。 月にはひとつ月山があります。 ひとりぼっちの、静かな天国。

          月山【詩】

          「紫陽花坂」からヴァージニアスリム

            宮木あや子氏の著書「ヴィオレッタの尖骨」に収録されている短編小説「紫陽花坂」は、一九九三年「まだ地方都市の不良少女のスカート丈が踝まであった時代」のとある女子高を舞台にした小説だ。  この女子高の生徒は約八割が不良と荒み切っており、まだ未成年喫煙に対する規制が緩かった頃という時代背景も相まってか、喫煙率も高い。芥川に心酔している文芸部員はゴールデンバットをカートン買いし、ボヘミアンなヒッピーを夢見る美術部員は、どこからか乾燥大麻とハシシを買い付けて部室に置いているという始

          「紫陽花坂」からヴァージニアスリム