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「内定が出ない理由」「内定を出せない理由」と情報・珍説の氾濫

エンジニア採用の市況感が変化し、新卒・中途を問わず「応募者は来るが採用に至らない」というご相談を複数頂くようになりました。

当然採用できない理由としては母集団形成や求めるレベル感、スクリーニングの問題などもあるわけですが、採用要件がそこまで高くなくても「マインド」で落とされているようです。

そんな中、下記のような投稿をしたところいくつか論点がありましたので整理していきます。どういった回答が見本であるかは本noteでは触れませんので、候補者として当事者の方々は下記をヒントに各人でお考えいただければと思います。

企業ではどういったマインドが求められているのか

面接官から「マインドが低いためお見送り」というお話はよく耳にしますが、どういったことを指しているのでしょうか。ヒアリングをしていくと下記の3つに大別されます。

  • (新卒や未経験層の場合によく質問される)なぜエンジニアになろうと思ったのか

    • 過去軸

    • ITエンジニアの働き方についてのイメージを含む

  • どういった会社を探しているのか

    • 現在軸

    • 自身の気持ちを整理しきれておらず、グリップが大変

  • この先、何をしたいのか

    • 未来軸

    • 「とりあえずスキルを伸ばしたい」など曖昧

上記の項目について特に考えていない、解像度が荒すぎる、(特に未経験層でITエンジニアの働き方に対して)誤って理解しているということがあり、「マインド」と一括りにされてお見送りされているようです。

企業側のマインド面の優先度が低かった過去の就活、転職シーン

前提となるお話で、これまでは何故こうした「マインド面」でのお話が少なかったのかということについてお話ししていきます。

採用目標人数の達成が目的である企業が多かった

このnoteでもたびたび話題にしていますが、2015年から2022年のエンジニアバブル下では「採用目標人数の達成」が目的である企業が多くありました。

採用し、現場にアサインすればするほど売上が上がるコンサルやSES。投資家に対して採用目標人数を合意していたスタートアップ。こうしたプレイヤーを中心に積極採用が進んでいきました。また、コロナ禍の金余り現象で余裕のあったメガベンチャーやSaaSもこの戦いに参戦していきました。人材紹介会社も「この候補者で決めないと御社での採用は無理です」というハードルを下げることを目的とした謎の強気の交渉をしてくることもありました。

また、採用強化をしていた企業のうち、事業共感を生みにくいコンサル、SIer、SES、toB向けSaaSなどは、採用目標人数を達成するために取り敢えず採用していたところが多く見られました。提示年収が高ければ事業共感などしていなくても入社してしまう人が少なくなかったのも事実です。

下記のクライアントファーストの話なども該当しますが、「入社してからは人事の仕事ではなく事業部の仕事なので、マインド面は事業部側でどうにかしてくれ」という組織も見られました。

市況感の変化により厳選採用に急変したことで採用ハードルが上がり、その一角が「マインド」に象徴されるようになってきたというものです。

企業が候補者を口説く機会の一般化

先の往時の積極採用の背景もありますが、売り手市場も相まって候補者が企業に応募するのではなく、新卒・中途に関わらず企業が候補者を口説いて回るというアプローチがハイレイヤーを中心に一般的になっていきました。

一つはスカウト媒体です。もう一つは新卒の1on1イベント、逆求人イベントです。いずれも企業から「自社にいかに興味を持ってもらうか」と声掛けをするところから始まります。企業からの声掛けの件数が多いこともあり各社についての調査もおざなりになりやすいです。企業研究の時間がない上に、自主的に探した企業でもないので思い入れも少ないことから、志望理由や興味を持った理由が「声を掛けられたから」となりがちです。

加えて新卒からこうした採用のみを経験して入社すると、能動的に企業研究をすることがないまま、企業からの声掛けありきで転職の意思決定をする癖が付いていく方も居ます。各人のスキルに対して需要があるうちは問題がありませんが、需要が下がると「旬が過ぎたお笑い芸人」のように厳しい局面になるでしょう。

意思決定の根拠となるIT業界理解と、情報戦争

候補者が自主的に意思決定するためには情報収集が不可欠です。しかし人材業界、情報商材、アフィリエイトのいずれもメディアをハックしているため、かなり偏った検索結果に対峙することになります。

Google検索からの集客手法としてはSEO記事が定石です。検索結果に表示されるために記事を量産し、コンバージョンするためのリンク誘導に繋げます。特に人材業界などは一見して専門性が高い記事に見えるのですが、多くの場合はフリーランスライターが(格安で)書いていたりするため専門性は怪しいです。コンバージョンしか見ないと(時折Xでも話題になりますが)「のんびり屋さんに向いている職業 フリーランス」「インフラエンジニアは楽」「ググってコピペでイッセンマン」といった珍説が出てきます。チェック機構が働いていない企業も確認することができました。

Xなどでキャリア論や架空の同情話や珍説でインプレッションを集め、リプライ欄に人材紹介会社のリンクがあったりするような、Xからのお小遣いとアフィリエイトの成果報酬という二毛作戦略も注意が必要です。ITエンジニアを名乗っているけれども、ITエンジニアじゃなさそうなアフィリエイターにしか見えないアカウントも居ます。

経験者からしてみたら珍説であっても、人は信じたいものを信じる生き物です。未経験の人達からすると、確からしい情報よりも楽そうな情報や、再現性が高そうな情報になびきやすいものです。

候補者がマインドセットをしていく上でのポイント

ではどのような形でマインドセットをしていくべきか、その具体例について整理していきます。

ファクトベースの業界研究

ITエンジニアに限らず、特定の職種の具体的な働き方について偏った珍説を避けながらニュートラルな実情に辿り着くのは困難です。

ニュートラルな情報を得るという点で、まずは業界地図などを見ながら俯瞰することから始めることをお勧めしたいところです。当該業界の代表企業についての情報は揃うでしょう。

特にスタートアップのような伸びるか否か賭けの要素が強い会社を見る場合、雰囲気や各社の会社説明資料だけで意思決定をするのはリスクがあります。経済動向やトレンドなども合わせて調べ、意思決定することをお勧めします。

確からしい人を頼る(可能であれば複数名)

理想としては信頼のおける友人がキャリアアドバイザーをしていたりするものですが、都合よくそうなることもないでしょう。

できれば採用経路についてもリファラル採用を狙うのが望ましいため、友人知人の輪をオフラインを中心に拡げつつ、フラットに相談できる相手を見つけることをお勧めします。新卒であれば(妙な下心のない)OBOG訪問も有効でしょう。普段から確からしい人脈を意識して構築しておくことは、珍説が溢れる現在において重要になっていくと考えられます。

3年後にどうなりたいのかを言語化し、そのポイントと応募先企業が一致しているかを考える

今後どうなりたいかを質問した際、「取り敢えずスキルを高めたい」「技術力を上げたい」という方が居られます。専門職としては基本的なお話しではありますが、採用する企業からすると正社員採用しなければならない理由に繋がらず、もう一声欲しいというのが実情です。

私がこうしたキャリア相談を頂く場合、3年先を目安に「どうなりたいのか」を言語化して頂くようにしています。

ITエンジニアの場合は生成AIのような急なパラダイムシフトに遭遇しやすいので難しいところではありますが、それでも多少なりとも中期的な方向性は考えて頂きたいところです。5年以上になると未来予想が加わってくるので候補者にも企業にも求めるのは酷だと考えています。

いずれかのスペシャリスト、ジェネラリスト、マネージャーなど、なぜそう思ったのかも含めて出していただけると一歩目として良いでしょう。その上で個人の成長の方向性と、企業の求める人物像が一致していれば理想です。就活にせよ転職活動にせよ、こうした方向性のすり合わせを行う場となれば、合否に関わらず建設的な時間になるでしょう。

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