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アルムナイ採用:退職者・古巣との関係性構築と維持 - 採用チャネルとしての「出戻り」

 以前採用を要素分解した際、Twitterにて「出戻りがない」とご指摘いただきました。今回は退職者との関係性構築と採用チャネルとしての出戻りについてメリットや問題点をお話します。

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退職者の一団を指してのアルムナイ

 元々は卒業生・同窓生を指してのalumniですが、ここ数年は退職していった人たちを指して人事用語になっています。海外だとConenza、日本だとアルムナビなどがサービス化しています。後者は2018年にWBSにも退職者ネットワークや業務委託、採用チャネルとして取り上げられました。

 元鞘というか出戻りというかアルムナイでの採用は、個人的な観測範囲で言うと営業職やマーケティング職では見たことがあります。エンジニアでは少なめな印象です。恐らく業界大手企業になるほど珍しくないのではと推測しています。

 私が初めてアルムナイを制度として耳にしたのは2015年くらいです。当時Googleから転職してきた同僚から「Googleには離職して半年以内であれば同じ待遇、ポジションに戻れるんだ」と聞いたことでした。今はどうか分かりませんが、シンプルに「後任の人の立場は…?」と思った私の器はきっと小さいのでしょう。

アルムナイによる再入社のメリット

 1つは即戦力。教育コスト低いということは挙げられます。出戻りの間隔が短ければ短いほど即戦力と言えます。

 2つ目は他社のやり方を持ち込める。これもあるでしょう。転職先に良い点が多ければ辞めてない説はありますが。

 3つ目は既存社員に「お外は怖いところだ」と暗に示すことができる。特に新卒。身も蓋もありませんが、これは実際に観察しているとじわじわと効いているように思います。特に社内に憧れがある企業やキャリアパスから出戻りがあると大きいです。

アルムナイによる再入社のここが問題

 元の会社をA社、転職先をB社とします。A→B→A'、もしくは A→B→(任意の複数社)→A'とした場合、アルムナイによるAへの再入社とここでは呼びます。大きく3点の問題があると考えています。

 まずはB社から見た場合。A社に元に戻った人を見て「産業スパイだったのでは?」とB社の役員が呟いているのを見ることがあります。B社への在籍が短期で、かつB社への退職時の挨拶が「勉強になりました」とかだと否定はしかねるなと感じなくはないです。A→B→A→Bという方には個人的にはお会いしたことがないですが、周囲込みでお話をお聞きしてみたいところです。

 次にA社から見た場合。A→B→A'→Cとなった際の現実をどう捉えられるのか、社内への主に心理的な影響をどう受け止めるのかということです。そこまで日本の転職市場は流動的ではなく、企業の転職観もこの事実を受け入れられるほど習熟していないのではと感じます。

 3点目としてはアルムナイネットワーク構築に予算承認を得にくいという点です。先にお話したようにサービスはいくつかあるものの、アルムナイネットワーク構築に対する意義を社内プレゼンしなければ、一般的な企業の場合は会社を去った人に対してコストをかけるということについての承認は得にくいものです。

アルムナイを採用チャネルとして期待できる企業

 アルムナイを採用チャネルとして全く期待できないかというと、期待して良い企業もあるのではないかと考えています。

 まずは当該分野での(国内の)王者。裁量を求めたり挑戦要素を自社よりも小さな他社に求めて転職した結果、やはり(前職である)王者は良かったと思う例です。先のGoogleの話はこれに該当しますし、私がこれまで居た広告や人材界隈でもよく耳にします。福利厚生や制度、待遇、バックオフィススタッフも規模が違いますからね。

 次に新卒中心の文化形成をしている企業。社会人としての価値観が強く培われる新卒採用において、文化形成ができている企業の方が「帰る場所」としては優位です。文化が濃いほど、在籍日数が長いほどこの傾向は強く、最初に覚えた仕事の仕方や雰囲気、社内用語がやりやすく感じられます。

 最後にとにかく人間関係が良い企業。業界大手に行ったものの殺伐として辛かった場合など、「あの時は働きやすかった」と戻ってくる傾向にあります。この要素については前提と言って良いでしょう。

アルムナイはネットワーク構築と思うのが良い

 以前書いたテックブログについての記事もそうですが、社内施策にしてみても何かしらの金銭が発生する場合は分かりやすく共有されるコストとして勘案されますが、人的コストは気にされにくい企業は多いのではないでしょうか。

 アルムナイの仕組みを導入・維持する場合は更に問題が複雑化する可能性があります。このアルムナイネットワークはどこの予算につけるべきでしょう?

 福利厚生?社内制度?・・・退職者なのに?

 人事採用?・・・退職者の出戻りは採用かも知れないけどもKPIとか立てられるの?そもそも辞めさせない方が健全なのでは?アルムナイからの採用については離職者本人の出戻りを期待するのではなく、離職者からのリファラルを期待するのが健全な運用に繋がるでしょう。ただコスト設定をして回収するまでの時間と、関係値を作るまでのコスト・時間を鑑みると難しいように思います。

 最も現実的なことは営業チャネルかと思います。私自身、現在の業務でエンジニア採用に困っている取引先が出てくると古巣を紹介しますし、独り身で困っている同僚には前前職のマッチングサービスをHow to付きで紹介しています。気持ちよく古巣を紹介できるような関係値を構築し、そこから売上に繋げるという目算が妥当なのではと考えています。

 運営はボランティア?有志?・・・これは私も少し関わったことがありますが、本腰を入れないと発信する仕組みもコンテンツもないので直ぐにネットワークが硬化します。プレスリリースと同じもの出しても響きにくいですからね。アルムナイの皆様へ、と発信をそれようにする必要があります。

転職者は意図しないアルムナイに注意

 私自身、学術から転身してきて広告代理店、人材紹介と渡ってきたので身に沁みて感じたことですが世間は非常に狭いです。悪い印象で転職して良いことは一つもありません。取引先になる可能性は十分にありますし、風評を元居た職場に聞くことだってあるかも知れません。

 1年前には「ZOZOに転職してもLINEに転職してもYahooに戻ってしまう」というZホールディングスに纏わる話が話題でした。喧嘩別れした後に、M&Aで顔を合わせるパターンもあります。

 また、2019年までは特に調子のいい企業を渡り歩いた結果、同じビルに集合してエレベーターホールで再会するということもよく耳にしました。例、スクランブルスクエア。悪いことはできないです。

 気持ちの良い人間関係を構築・維持することを転職時にも意識しましょう。退職エントリで波風立てるのは百害あってPVだけあります。そうしたことを勘案したのが私の退職エントリです。

まとめ:アルムナイの前提

 アルムナイのサービスや制度を整える以前の前提として、人間関係のお話なので、気持ちよく関係性を構築し、維持するということが求められます。仕組みだけ入れても「辞めても尚、貢献しても良い」と思ってもらえるかどうかがハードルとなります。最後に自社が退職者にどう思われているかの簡単なチェックポイントについてのTweetを貼って、締めさせていただきます。 


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