「深い森」 所感

「深い森」という曲が好み。霧立ち上る静かな森に銀色の雨が降る。私は鷹のように雨の中を鳴きながら翔けぬける。周囲には私の声と羽ばたきの音が。木霊以外になにも聞こえず、その木霊もいつしか雨に吸い込まれて消えていく、といった風情の曲調。歌詞には彷徨いながら生きていく虚しさとかそれでも生きていくことの強さを感じる。不思議な曲である。「歩きだす君と今」とか「時のリズムを知ればもう一度飛べるだろう」、「青い青い空の色も気づかないまま」という歌詞なのに雨の中を一人で飛んでいるように聞こえるのだ。大分を占める生きていくことで失っていくこと、その虚しさ、幽霊のようになりながらそれでも生きていくことの哀しさと強さが強く現れているからなのかもしれない。歌詞だけ見れば、儚く見えるのだが、曲調と、歌い手の力強い声がこの曲を儚いままにしておかないというのはあるのだろうなと思う。文字だけでなく、音も入ってきて解釈の幅を広げるというのは音楽の一つ優れたところだと思う。本であれば、また別のアプローチができるだろうから一長一短ではあると思う。


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