見出し画像

選手単独で会社訪問!女子サッカークラブ「福岡J・アンクラス」の営業現場をのぞいてみた

「マジびと」を立ち上げるため、私、椎葉洋平は株式会社なかみの大塚たくまさんに相談に乗ってもらっていました。「マジびと」をどんなメディアにするのか、熱い議論を交わした日の夜。大塚さんから、こんな連絡をいただきました。

そこには、福岡J・アンクラスの平坂選手が自ら打ち込んだと見られる、営業メールが……。大塚さんは選手自らが営業メールを送ってこられたことに、すごく驚いている様子でした。

私も選手が営業を行っているという話はうかがっていたものの、実際にどのような活動をされているかは知らず……。訪問当日は、メールを送信した平坂選手だけでなく、藤崎選手もいらっしゃるのだそう。「営業マン+選手」という形態かと思いきや、完全に選手のみでの訪問ということです。

絶好の取材機会だと思った私は大塚さんと福岡J・アンクラスにお願いし、営業の現場を見学させていただくと同時に、2人の選手にインタビューを行うことにしました。

本当に選手だけで会社訪問

「ピーンポーン」

大塚さんと一緒にオフィスで待機していると、呼び鈴が鳴りました。

藤崎選手(左)と平坂選手(右)がユニフォーム姿で!

「お約束しておりました、福岡J・アンクラスの平坂と藤崎です。」

扉を開けると、ユニホーム姿の平坂選手と藤崎選手が。試合中とはまた違う表情です。名刺交換。名刺だけでなく、手づくりの自己紹介シートを渡していました。

自己紹介シート

平坂選手が営業資料を取り出し、福岡J・アンクラスの紹介を始めました。

「福岡J・アンクラスは、福岡県春日市を拠点に活動している、今年で37周年を迎えるチームです。現在、なでしこリーグという女子サッカーの全国リーグに参入して、2部で戦っております」

「チームは朝の9時から11時にトレーニングをして、自分たちは13時から19時にアンクラスの広報活動やスポンサーの営業活動をしております。電話やメールでアポを取り、訪問させてもらっています」

ほんとに選手ですよ

分かりやすい資料を用いた説明は、自己紹介からクラブの紹介、スポンサードの内容に移ります。

「スポンサードの中身ですけれども、来シーズンのユニフォームスポンサーから、練習着や試合のアップのときに着用するウェアのスポンサー。またはホームページに企業様のロゴを貼っていただくスポンサー。チケットを買っていただき会社の福利厚生などに使っていただく、チケットスポンサーなどもあります」

実際の金額も交えながら、その後も流暢な説明は続きました。

2023年よりスタートした選手による営業活動

ピッチとはまた違う真剣な表情

福岡J・アンクラスは2023シーズンから、実質的な運営会社が変更となりました。

新たに担うのが、株式会社グリーンカード。アマチュアスポーツのメディア運用や試合の中継などを手掛ける企業です。

現在は平坂選手と藤崎選手を含む選手5人、スタッフ1人、計6人がグリーンカードに雇用され「ばりキャリ隊」(博多弁でとてもを意味する「ばり」、キャリアを意味する「キャリ」)として広報や営業を担当しています。

彼女たちが営業担当となったのは、今年4月。2021年にアンクラスに加入し、これまで2社で働いてきた2人ですが、営業は未知の世界でした。

藤崎選手「1番初めに聞いたときは『大丈夫かな』と不安で。初めて行った企業ではめちゃくちゃ緊張して、言葉が詰まってしまいました」

苦労はありましたが、グリーンカードで働く先輩社員の手助けもあり、6人で練習を重ねました。営業としての期間は現在でも半年に満たないものの、ある程度コツをつかんだようです。

藤崎選手「4月に始めたときに比べたら、何となくやり方が分かってきました。今はどうやったらアンクラスの魅力を伝えられるのか、工夫しています」

企業を訪れる際の服装は、以前はトレーニングウェアでしたが、アドバイスによって改善し、現在はユニフォーム姿。福岡J・アンクラスのことを知らない企業でもあっても選手が来たとひと目で分かるように、というアイデアです。

選手にしかできない、選手だからこそできる営業活動を行っています。

福岡J・アンクラスの営業を選手たちが行う理由

日本の女子サッカーの最上位に位置する、WEリーグはプロリーグです。しかし、実質的な2部と3部に位置する、なでしこリーグ1部・2部はアマチュアリーグ。福岡J・アンクラスの選手は学生を除いて全員、サッカーと仕事を両立しながら全国を舞台に試合へと挑んでいます。

将来的なWEリーグ昇格を目指しているものの、クラブには資金難に悩まされた経験が何度もありました。

代表的なのは、6年前の出来事です。2017シーズン、チームは残留圏内でシーズンを終えたものの、資金難でなでしこリーグを自主退会。実質5部となる、九州2部リーグからのリスタートを余儀なくされました。

こういった事態が起こるのには、クラブの体制が影響しています。

平坂選手「1つの大きい企業に頼りきりの状態で、そこの運営方針が変わったときにチームごとなくなるということが起こっているのが現状です」

アンクラスの場合は存続できたものの、これを語る平坂選手は以前所属していたクラブで、より近い体験をしました。

平坂選手「実際に、高校を卒業してすぐに加入したバニーズ京都SCというクラブが活動資金難のため、京都からなくなってしまいました」

バニーズ京都SCは消滅ではなく、トップチームが群馬FCホワイトスターへと移管され、現在はバニーズ群馬FCホワイトスターとしてなでしこリーグ1部に所属しています。最悪の事態は免れたものの、京都からクラブがなくなったことは事実です。

福岡に女子サッカーの文化を作り、九州を代表するクラブになる。アンクラスの目標を達成するために経営の安定化は不可欠です。そのための策の1つが、ばりキャリ隊といえます。

藤崎選手「もちろんWEリーグの選手みたいに、四六時中サッカーのことを考えられて、コンディション調整できて、というのが1番いい環境ではあると思います。でも私たちは、スポーツしながら仕事することを理解して、応援していただいている企業があるからこそサッカーができています。そういった企業に、サッカー以外のところでも恩を返せないかと選手1人1人が考えています」

選手自らつながるスポンサー。選手が営業するメリット

アマチュアクラブの場合、選手がクラブで働くケースは珍しくありません。しかし、ほとんどの場合、選手と営業は別の領域にあります。

藤崎選手「これまで、私達をスポンサードしていただいている企業と直接お会いすることはほとんどありませんでした。正直なところ、どんな企業なのかも知りませんでした。現在は広報や営業をしているので調べるし、直接お話させていただき、企業のことも理解できます。とても勉強になっています」

選手自らが営業を担当するメリットは複数あります。

藤崎選手「アンクラスのことを知らない方が多いので、アポ取りの電話ではよく分からないというケースも多いと思います。訪問の了承をいただき、実際に伺うと選手が来たことに1番驚かれます。けれど、親近感を覚えてくださり、応援してみようかなという声を少しずついただいています」

クラブの認知と、スポンサーの獲得。選手自らが営業マンとなることで、重要な2つの要素をともに前進させることが可能になりました。加えて、選手としても好影響が出ています。

平坂選手「営業に行った企業で『応援してるよ』という言葉を頂いたり、実際に観戦のきっかけになったり。応援していただいていることを直に感じられるケースが増加し、選手みんな『頑張ろう、試合で結果を残そう』とモチベーションになっています」

「PVも気にしてます」セカンドキャリアにも役立つ経験

いくら優れた選手でも、いつまでもサッカー選手ではいられません。ほとんどの選手はサッカー選手の期間よりも引退後が長く、近年は現役時代からセカンドキャリアを意識する選手も増えています。

その点、選手をしながらばりキャリ隊としてグリーンカードで働く意義は大きなものがあります。選手としての表の視点はもちろん、営業職としての裏の視点も仕事として経験できるため、クラブ全体の姿を見られるのです。

藤崎選手「月に1回広報ミーティングがあり、グリーンカードの方から深いところまで話していただいています。自分たちの遠征にどれぐらいの費用がかかるのか、ホームページのPV(ページビュー)がどれぐらい、だとか。以前は何も知らなかった部分を選手個人が知ることで、行動と考え方が変わりました。危機感も感じますし、去年・一昨年と比べてより一層チームへの気持ちが強くなっています」

福岡J・アンクラスでは昨年まで1~2人の社員が営業を担っており、人手不足は否めませんでした。現在では6人で、しかも選手・スタッフ。クラブの強みへと、変貌を遂げつつあります。

平坂選手「訪問前は、福岡J・アンクラス自体を知らない方がほとんどです。でも、伺ったときにホームページの自分のページを見てくれていたり、YouTubeで試合のハイライトを見てくれていたりする方もいます。少しでも認知をしてもらえることは大きな一歩かなと感じるので、どんどん広報・営業活動をして、知っていただけたらなと思っています」

ばりキャリ隊が、今後アマチュアクラブのモデルケースとなる可能性も十分にありそうです。

藤崎選手「私達はばりキャリ隊の1年目で、やってみてどういった反応が出るのかを見られている部分もあると思っています。この形でどんどんスポンサー契約が決まったり、どんどんチームを応援していただける方が増えたりすると次に繋がり、このような形でお仕事させてもらえる選手が増えると考えています。まだ始まったばかりですけれど、次の選手たちのためにもいろいろと覚えて頑張っていきます」

今回、2人の新人営業スタッフに説明を受けた大塚さんは、チケットスポンサーを即決。そこで得た福岡J・アンクラスのチケットを「マジびと」と地域サッカーを盛り上げるために活用していただくことになりました。

平坂選手、藤坂選手、契約獲得おめでとうございます!

平坂選手(左)と藤崎選手(右)となかみ大塚代表(中央)

営業に来て説明を受けた人が週末には試合に出ており、応援する対象になる。選手としても、クラブに多面的に関われ、貴重な経験を仕事として積める。

アマチュアクラブの在り方として、ばりキャリ隊はとても興味深い存在だといえるでしょう。

平坂咲希選手への15の質問

1.生年月日:2002年1月27日
2.出身地:長崎県
3.身長:161cm
4.趣味・特技:音楽を聴いたり、YouTubeを見たりすること
5.苦手なこと:なにかを断ること
6.1番好きな食べ物:おばあちゃんが作ったハンバーグ
7.1番嫌いな食べ物:ネバネバしたものと苦いものが全部食べられない
8.好きな音楽・アーティスト:THE RAMPAGE from EXILE TRIBEにハマっている
9.ドラマ・漫画・本・アニメで好きな作品:スポーツ系の漫画が好きで、最近はアオアシとかブルーロックがお気に入り
10.長所:マイペース
11.短所:優柔不断
12.行ってみたい国:英語を喋れないから、日本語でも大丈夫なところ
13.休日の過ごし方:掃除が大好きで、ずっと掃除している
14.尊敬している人:特にいない
15.何でも願いが叶うなら:試合でしか行ったことがないので、東京へ旅行に行きたい。ディズニーランドにも行ってみたい

藤崎愛乃選手への15の質問

1.生年月日:1997年9月21日
2.出身地:東京都
3.身長: 157cm
4.趣味・特技:音楽を聴くこと。父と母も音楽が好きで、影響を受けて昭和の曲から最新曲まで聴く
5.苦手なこと:計画的に行動すること
6.1番好きな食べ物:さつまいも。焼き芋やさつまいものスイーツなど
7.1番嫌いな食べ物:ネギ類。(福岡はネギ文化だが)ラーメンなどに入っているネギも器用に避ける
8.好きな音楽・アーティスト:RADWIMPSとあいみょん
9.ドラマ・漫画・本・アニメで好きな作品:木村拓哉さんが出ていたプライド(テレビドラマ)
10.長所:ポジティブ
11.短所:頑固なところ。歳を重ねて少し減ったけれど、ズバッと言ってしまうことが多い
12.行ってみたい国:ヨーロッパに行ってみたい。ヨーロッパ圏には行ったことがないため、サッカーを観たいし、観光も楽しみたい
13.休日の過ごし方:家具やインテリアが好きで、最近は部屋の模様替えをしている
14.尊敬している人:父と母
15.何でも願いが叶うなら:小学校卒業のタイミングに戻る。クラブチームか部活かで迷い部活(十文字中学校)を選んだけれど、小学校時代に仲が良かったトレセンの子たちはみんなジェフユナイテッド市原・千葉レディースに進んだ。中高一貫校・大学とずっと部活だったため、1度クラブチームを経験してみたい

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?