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匂いフェチなだけ

競泳で優勝した。
県インターハイ競泳女子自由形100mに、バタフライで勝った。
それも圧倒的な差をつけて勝った。

表彰台に立った私を、競泳の先輩達、同級生達がすごい目で睨んでいる。

水泳部に入部してから、プールに入らなかった日はない。
私の高校生活は、学校に通っているのではなく、プールに飛び込みに通っているようなものだ。
土日だって夏休みだってプールに通った。
学校が無ければ、隣町のスイミングスクールのプールに行った。
バレンタインでもクリスマスでも正月でも私はプールにいた。

私は誰よりもよく練習をしたと言える。
教え子の中で、私ほど練習をする選手は過去にいなかったと顧問の森田は言う。
私は森田の自慢の教え子だそうだ。

でも、森田から教わったことは実は何もない。
森田の言うことは「気合」、「リズム」、「集中」だけ。
それで上達するなら、誰でもすごい選手になれる。

違うんだよ、森田。

私はプールのつんとした塩素臭が死ぬほど好きなだけ。
私は大好きな塩素の匂いにまみれるために、毎日プールの水の中に入っているだけ。
飛び込んだ時の塩素まみれになる感覚がたまらないぐらい好き。

そして競泳種目の中で全身が塩素まみれになれる感覚が一番強いのがバタフライ。水の中で身体をうねらせながら、全身塩素まみれになって、私は強烈なエクスタシーを感じる。
だから私は泳ぎはバタフライしかやらない。やりたくない。


次のインターハイは福岡だ。
私は競泳と飛び込みに出る。
私の本業は飛び込みだ。
自由形200mは競泳の先輩のピンチヒッターだったけど、優勝してしまったのだから仕方がない。

会場となる福岡県立総合プールにはうちの県にはない10メートルの飛び込み台がある。
10メートルの飛び込み台から飛び込んだら、どんなに素敵なことだろう。
全身を塩素の泡に包まれながら深い水底へ飲み込まれていく私。
想像しただけでうっとりしてしまう。

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