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サーキュラーエコノミーの実践者に学ぶ「押し付けではなく人と実践していく」方法

この記事は、"武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース"というやたら長い名前の大学院での "クリエイティブリーダーシップ特論I" というこれまた長い名前の授業での学びを紹介する記事のシリーズ第12弾です。

この授業では、クリエイティブとビジネスを活用して実際に活躍されている方々をゲスト講師として、60分講義・30分ディスカッションというセットで学びを得ています。

第12回 (2021年9月27日)は、大山 貴子さんからお話を伺いました。

自己紹介

記事の本題に入る前に、簡単に自己紹介をさせてください。

私は、社会人として働きながら武蔵野美術大学の大学院に今月2021年4月に入学しました。仕事ではUXデザイナーとして働いており、大学院ではUXデザイナーの仕事に活かせる生きた知識を、体験も通して身に付けたいと思っています。

ゲスト講師のご紹介

大山 貴子

株式会社fog 代表取締役/一般社団法人530 理事

米ボストンサフォーク大にて中南米でのゲリラ農村留学やウ ガンダの人道支援&平和構築に従事、卒業。ニューヨークに て新聞社、EdTechでの海外戦略、編集&ライティング業を経 て、2014年に帰国。日本における食の安全や環境面での取組 みの必要性を感じ、100BANCH入居プロジェクトとしてフー ドウェイストを考える各種企画やワークショップ開発を実施後、株式会社fogを創設。循環型社会の実現をテーマにしたプ ロセス設計を食や行動分析、コレクティブインパクトを起こすコミュニティ形成などから行う。
株式会社fog メンバー紹介ページより)

ゲスト講師の活動内容

大山さんは、「自然と社会とコミュニティの循環と再生を耕す
デザインファーム」である株式会社fogを創設され、活動されています。

その中での活動から2つ、取り上げてご紹介します。

élab(えらぼ)

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循環する日常をえらび実践する新たな拠点として、「élab(えらぼ)」を台東区鳥越にオープンされました。レストラン、ショップ、ラボの3つの機能をもちます。

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「レストラン」「ティー&フードスタンド」では、「一口から考える循環」をテーマにした料理や薬草茶の茶房、日常で使える食材の量り売りを展開。ここで使う食材の生産工程からお店での調理・提供後にいたるまで、生産者、輸送パッケージ、調理方法、コンポストなどを通じて、なるべくフードロスと二酸化炭素排出量を減らし、循環を促す食の体験を提供するそうです。

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マテリアルラボでは、上記のような循環を起こすことを考え、台東区蔵前周辺の循環マテリアルや、全国津々浦々の生産者や職人が生み出す石材や木材といった自然素材やそれを使った商品、ランドスケープデザイナーが選ぶ観葉植物、環境活動家が選書した本などの展示販売や、マテリアルラボで販売するアイテムを使ったワークショップや服やモノのリペアなど、循環を体験できるイベントを企画されるそうです。

詳しくはこちら


うんなんローカルマニフェスト

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もう1つご紹介する取り組みは「うんなんローカルマニフェスト」です。

島根県雲南市の公益財団法人うんなんコミュニティ財団が、2020年度の環境省主催「地域循環共生圏プラットフォーム構築事業」に採択され、その一環として、株式会社fogのローカルマニフェスト策定事業として実施されました。

ローカルマニフェストとは、循環する自律分散型の地域のエコシステムつくる地域の共通言語です。
「地域内で資源が循環し、持続的かつ誰もがまちづくりに参加出来る雲南を作るため」ことを目的とし、その第一歩として、市民の本音から生まれた「雲南で活動を行う際に大切にしたい価値観」を示すことで、市民全体が同じ方向へ進める状態を目指されたそうです。

雲南市の方々の声を丁寧に拾い、その言葉をもとにマニュフェストをつくられていました。デザインでいうバウンダリーオブジェクトだと思うのですが、外から来た人が勝手につくったり、一部の人が勝手につくったものではなく、自分たちの言葉でつくられたものだからこそ、地域の共通言語になり得るのだと思いました。

くわしくはこちら


授業から学んだこと

■ 体験的に学んだことを、実践につなげていく

特に、心に残ったのが、「自分が実践していることや考えについて、教授と話して、こういう言葉でいうんだなとわかったりする」という言葉でした。

大山さんは、自己の体験を抽象化して、それを実践につなげていくところにすごく力があるなと思いました。

株式会社fogや、élab(えらぼ)に繋がる体験として共有してくださったことの1つが「Park Slope Food Coop」です。

アメリカの大学を卒業してから、就職したニューヨーク・ブルックリンで、近所にあり新鮮な野菜を購入できるという理由で入会した生協「Park Slope Food Coop」での体験が現在の活動につながっています。
「Park Slope Food Coop」はアメリカ最大規模の生協で、月に一度2−3時間ほど業務に従事することで新鮮な地場産のオーガニック野菜が安く買えるそうです。

そこで、隣を見ると、おじさんが食べ終わった食パンの袋をもってきて、野菜をそれにいれていたりする。野菜のプライスタグの横に、何キロ離れたところから運ばれてきたものなのかの表示がかかれていたりする。
最初は大山さんとしては、その理由がわからないまま、その場の慣習にしたがっていたそうですが、あとから例えばプライスタグの横の距離の表示は、フードマイレージの話なのだと気づいたりされたそうです。

押し付けるのではなく、ただ、人と共に実践していける場をつくることをこの場で学ばれたそうです。
そして、それをélab(えらぼ)で実践していこうとされています。


■ 同じまなざしをもって、ともに未来のスコープをつくっていく「共視」

トレンドだとか、顧客に求められているからという理由で、SDGsに取り組む会社が増えていますが、そうなると思考が停止したまま、マーケティング材料として処理されてしまうものになると、大山さんはお話しされていました。
本来は、組織全体のリデザインをしなければならないのに、一部の部署のみで消費されるものになってしまうことを危惧されていました。

サーキュラーの起点を人にして、同じまなざしをもって、ともに未来のスコープをつくっていくこと、「人を起点にした循環型社会の共創を行うこと」がいま取り組まれていることだそうです。

こちらも原点になったような体験を紹介してくださいました。

大学時代にエルサルバドルへ訪問し、家を建てる活動をされたそうです。
その活動の最終日に、大山さん一人にだけ現地の棟梁が声をかけてくれ、道の端の砂が溜まっているところでコーラをシェアしてくれました。
一緒にいった他の学生たちは、やっと帰れるという感じでしたが、大山さんは「現地の人の生活はこのまま続いていくのに、自分たちは先進的な都市に帰っていくのだ」ということが嫌で、帰りたくないと思っていたそうです。

その時に大山さんが感じたことが、「溶け込んで、入り込んで、同じ目線を生み出すこと・持つこと。それを先入観を取り払った状態で行うことで、その場所の人々が何をみているのかがわかる」ということ。

この「溶け込み目線を調節する」ことを大山さんは「共視」という言葉で表現されていました。
自分ごと化して、一緒に進むべき方向を見つめていく姿勢が表れている言葉だと感じました。



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