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「ちょっとでも良い22世紀」のために種を蒔くデザイン研究者に学ぶ「想像力の筋トレ法」

この記事は、"武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース"というやたら長い名前の大学院での "クリエイティブリーダーシップ特論I" というこれまた長い名前の授業での学びを紹介する記事のシリーズ第二弾です。

この授業では、クリエイティブとビジネスを活用して実際に活躍されている方々をゲスト講師として、60分講義・30分ディスカッションというセットで学びを得ています。

第二回 (2021年4月19日)は、岩渕 正樹さんからお話を伺いました。

自己紹介

記事の本題に入る前に、簡単に自己紹介をさせてください。

私は、社会人として働きながら武蔵野美術大学の大学院に今月2021年4月に入学しました。仕事ではUXデザイナーとして働いており、大学院ではUXデザイナーの仕事に活かせる生きた知識を、体験も通して身に付けたいと思っています。

ゲスト講師のご紹介

岩渕 正樹(イワブチ マサキ)

NY在住のデザイン研究者。東京大学工学部、同大学院学際情報学府修了後、IBM Designでの社会人経験を経て、2018年より渡米し、2020年5月にパーソンズ美術大学修了(MFA/Design&Technology)。現在はNYを拠点に、Transition Design等の社会規模の文化・ビジョンのデザインに向けた学際的な研究・論文発表(Pivot Conf., 2020)の他、パーソンズ美術大学非常勤講師、Teknikio(ブルックリン)サービスデザイナー、Artrigger(東京)CXO等、研究者・実践者・教育者として日米で最新デザイン理論と実践の橋渡しに従事。近年の受賞にCore77デザインアワード(Speculative Design部門・2020)、KYOTO Design Labデザインリサーチャー・イン・レジデンス(2019)など。
ビズジン紹介記事より。ご自身のサイトでの自己紹介はこちら

ゲスト講師の活動内容

あくまで一部ですが、これまでにつくられたものをご紹介します。

Lamppoets

街灯を、地元の美しさや街の隠された物語を伝える街灯に変えるもの。Lamppoetsは、見たものから詩を書き始め、人々が持つ一元化された文脈を超えて街のイメージを再構築することを可能にするそうです。カメラ、スピーカー、画像を詩に変換する人工知能モデルを搭載したデバイスを取り付けることで、街灯が自律的に詩を生成します。

詳しくはこちら


People in Japan 2050
労働舞踊


能や歌舞伎は歴史を記録するものであったということから着想を得たもので、2050年に人間はすでに労働を行なっていない状況で、「人間が労働していた時代があったということ」を表すための労働舞踊なる踊りが踊られていることを表現した動画です。
例えば「アパレル店員舞踊」といったものがあり、服を畳んで棚にしまうような仕草を踊っていたりするので、とても面白いです。

詳しくはこちら

授業から学んだこと

(1) 未来を「現実に即して」想像し、議論をすることの意義

■スペキュラティヴ・デザインとは
デザイン思考などの広まりにより、デザインは、「問題解決」につながるものと捉えられることが増えていっています。
それに対し「speculative」という単語の意味は、「思索的な」という意味であり、スペキュラティヴ・デザインとは、「問題解決」よりも「問題提起」を重視するデザインです。

“スペキュラティヴ・デザイン”の代表的な提唱者である、アンソニー・ダンとフィオーナ・レイビーは、著書の「スペキュラティヴ・デザイン 問題解決から、問題提起へ。—未来を思索するためにデザインができること」で、
このことを下記のように表現しています。

(ただし、岩渕さんによると、アンソニー・ダンとフィオーナ・レイビーはもはや「スペキュラティヴ」という言葉は使っておらず、現在は「Designed Realites Studio」という新たな試みを模索されているそうです。)

デザインには別の可能性がある。デザインを、物事の可能性を“思索”〔speculate〕するための手段として用いるものだ。これがスペキュラティヴ・デザイン〔speculative design〕である。「スペキュラティヴ・デザイン」は、想像力を駆使して、「厄介な問題〔wicked problem〕」に対する新しい見方を切り開く。従来とは違うあり方について話し合ったり討論したりする場を生み出し、人々が自由自在に想像を巡らせられるよう刺激する。スペキュラティヴ・デザインは、人間と現実との関係性を全体的に定義し直すための仲介役となるのだ。

また、スペキュラティヴ・デザインを理解するために、下記のPPPP図が有効です。

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(出典:アンソニー・ダン&フィオナ・レイビー『スペキュラティヴ・デザイン』)


PPPP図というのは、
・Possible(起こりうる)
・Plausible (起こってもおかしくない)
・Probable(起こりそう)
・Preferable (望ましい)
という4種類の未来があることを示す上の図のことです。

現在から見ると、懐中電灯の明かりのように、未来は円錐状に広がっています。中央(Probable=起こりそう)は明るく、外へ行けば行くほどぼんやりとしていますが、周りのぼんやりしているところにも、未来はあります。

その「普段見ていないぼんやりしたところにある未来を、デザインによって可視化し、議論を促す」のが、スペキュラティヴ・デザインです。
想像力により、ぼんやりしたところにある未来をみることを、「Social Dreaming through Design」という言葉で表されていました。

また、前述した、アンソニー・ダンとフィオーナ・レイビーの新たな試みである「Designed Realites」では、それを可視化すること、つまり「まだ見ぬ世界を形づくる」ことを下記の表現で表しているそうです。

Not Here. Not Now. (ここではなく、いまでもない)
Aesthetics of Unreality(存在しないものの手触り)
Show us. Not Tell us. (語るのではなく、机に並べる)

未来を「現実に即して」想像し、議論をすることがなぜ必要なのか

スペキュラティヴ・デザインは、あり得ないようなことを想像するのではなく、あくまでも「現実に即して」「リアリティのある未来」を想像することが必要です。
話を聞いた当初、実は私は、「なんで起こりもしてない未来の想像に対して、みんなで議論しないといけないんだろう?」と感じていました。

しかし、例えば明日ならどうだろうと考えてみたら、理解できたように思います。(注意!:下記はあくまで私の勝手な解釈です。

「朝起きて、仕度して、電車乗って会社行って。で、仕事終わったら帰ってきてー、ご飯食べてお風呂入って、Netflixみて寝るよね。」っていうのが普通に考えての明日だとして。

もしかしたら明日、大地震が起こるかもしれなくって、そしたら今日、大切な人と話をしておいた方が良いかもしれないし、非常用の備蓄を用意した方が良いかもしれない。

もしかしたら明日、先日買った宝くじが当たって、「もはや会社に行かなくても良くない?」ってなるかもしれない。でもそうなったときに、実は宝くじに当たって幸せになるのってなかなかに難しくって、「本当に信用できる人にしか伝えちゃダメ」だし、「安易に生活水準あげると戻ってこれない」ってことも理解しておくべきだし、「ローンや借金の返済を優先するべし」だしみたいな、実際になったときの対処法をあらかじめ理解しておけるかもしれない。
それに、「いや、もし3億円当たったら、家族と平等に分けるな。...うわぁ、これって、家族のこと大好きだったってことかぁ」みたいな、自分の認識していなかった価値観に気づくことになるかもしれない。

これをもっと長い期間にして、さらに個人ではなく、地球全体に広げた上で、「起こりそうな未来」だけではなくて、「起こってもおかしくない未来」「起こりうる未来」にも焦点を当てて、現実的に考え、議論することで、新たな価値観や考え方の発見をもたらすことが、意義なのだと思いました。

さらに、岩渕さんのDesignship2020での講演によると、「暗い未来を憂えるのではなく、それでも行きたい未来を想像する」「デザイナーはまだ見ぬ世界のリアリティをカタチ作れる唯一無二の存在」とのこと。
国連やユネスコでもスペキュラティヴ・デザインを使いながら、未来を議論しようとし始めているそうですが、デザインを利用することで、Preferable Future(こうなって欲しい未来)をオープンに会話する、どのような未来が欲しいのかを会話すること。そのための触媒になるのがスペキュラティヴ・デザインなのだと理解しました。

(2) 想像力の筋トレ法
「Reverse Imagination」つまり、作品を見て、例えば、何年ごろで、誰がしているのかなど、そこから想像されるストーリーを考えることが、「想像力の筋トレ法」だそうです。

例えば、バイオアートやスペキュラティヴ・デザイン、デザイン・フィクション等の手法によって、生物学的課題や科学技術の進歩をモチーフに、現代社会に潜む諸問題を掘り出す作品を発表しているアーティスト/デザイナーである長谷川愛さんの「I WANNA DELIVER A DOLPHIN…」を観てください。

作品への意図などはこちらなのですが、まずはそれを見ずに、「Reverse Imagination」してみましょう。

・一体何年ごろの話なのか。
・みんなイルカを産んでいるのか、それとも産みたい希望者だけが産んでいるのか
・国や政策でサポートはあるのか
・人と動物のカップルが当たり前になっているのか
・保健体育の授業はどう変わるのか
・少子化問題はどうなっているのか
・人間の子供を残すという選択肢もあるのか

などたくさんの疑問を持って、想像し、それを例えばニュースのような形でまとめてみます。

例えば、

2080年のお昼のニュースです。人間と動物の結婚を認可する異種結婚法が定められたことで、人間と動物の結婚も認められるようになってきました。体外受精及び人工カプセルにより子供を授かることが一般的ですが、従来の自然妊娠を望むカップルもまだおり、自然妊娠を支える医師には人間と様々な動物についての知識が求められることになり、人手不足が深刻です。

といった風に、新たなストーリーを考えることで、想像力が鍛えられるそうです。
他にも、大喜利的に、「何をしているところか」「何の画像か」ということを想像するということも有効だそうです。

今後の活動につなげたいこと

UXデザイナーとして働く上で、社会的・文化的・倫理的影響という点で、「これをつくった時に世の中にどんな影響を与えるんだろう」ということの想像力は持っておかなければならないと思っています。
そういう意味では、U Xデザイナーに限らず、あらゆる何か新しいものをつくることに携わる人は、想像力の筋トレが必要なのではないかと感じました。

次週は、「社会に自由と寛容をつくる」をコンセプトに活動をされる森 一貴さんです!

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