【ひとりビブリオバトル】マイス

絵本作家、小説家を目指すアカウント。 YouTubeで小説を紹介しています。 YouT…

【ひとりビブリオバトル】マイス

絵本作家、小説家を目指すアカウント。 YouTubeで小説を紹介しています。 YouTube : https://youtube.com/@user-xv2js4bm6i

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【ショートストーリー】空の色は

小学1年生の時だったか。優しい女の先生だった。 「そらのいろは、なにいろかな?」 「あおー!」 20人の黄色い声がこだました。もちろんその中には僕もいた。 元来、真面目な性格だから。 野球部に入ってすぐに気づいた。 空は青くない。 むしろ白だ。 白い絵の具に水で溶いた水色を1滴だけ落とした。そんな色。 大嫌いな色だった。 高く上がったフライは否応なしにその空に飲み込まれ、落下地点を狂わせ、 チームメイトの落胆と、保護者の悲鳴に変わる。 大嫌いだった。野球が。 よく高

    • 【エッセイ】本はまだ生きていた②

      ①「SA001」「間引全集」  杉森仁香「SA001」「間引全集」は以前YouTubeで紹介した、やまなし文学賞受賞作「夏影は残る」の著者、杉森仁香さんの短編集とエッセイ集である。  エッセイ集では作者の感覚、社会への疑問など首がもげるほど頷かされる。首がもげると表現してしまったのはおそらく、杉森さんのホラーに直結する表現にインスパイアされたからだと思う。ブースには杉森さんと一緒に装丁を担当された麻生誠治さんがいらっしゃり、麻生さんはパッと見たところ、怖い人なのかと思わせるオ

      • 【エッセイ】本はまだ生きていた①

         私が生まれ育った和歌山県は、驚くほど本を読む人が少ない県だ。それは主観ではなく、2016年の読書人口偏差値はワースト2位であるとの統計が出ていた。どうやら人口100人あたり26,7人しか本を読まないらしい。  そんなことだから、本の話をすることができる友人は少なく、執筆をしている人を見つけることなど、砂浜でダイヤを見つけるようなものだ。  5月19日(日)  文学フリマ東京38 に行った。 SNSで知り合った執筆仲間が本を出すというものだから居ても立ってもいられず、日帰り

        • 【エッセイ】お金を払うということ

          安ければ安いほどいいと思っていた時がある。というよりは今も思っている。 収入もそれほど多くなく、なけなしのお金で物を買い、趣味程度に投資をしている。 最近でこそ、新NISAをメディアが大々的に報じたことで、それほど抵抗なく話すことができるようになったものの、やはりまだ「投資は危ない」や「投資はギャンブルだ」のような言説を見かけるし、周りの人たちにお金関係の話をすれば、「胡散臭い奴だ」と相手が引いていく様子がよくわかる。 お金について考えることを避けてきたことが、今の国民

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          【エッセイ】蛙になっちゃえ

          蛙化現象という言葉が一斉を風靡して久しい。 簡単に言うと好きになった人の行動に気持ちが冷めてしまうことらしい。 例えば、憧れだった人が自分に興味を示した途端に気持ちが冷めたり、フードコートで自分たちの席が分からなくなって気持ちが冷めたという例もあった。 LINEの文章に「笑」が使われていて蛙化という話も聞いたことがあり、「笑」を多用する私にとっては死活問題だったりするのだが、いかんせんこの「蛙化現象」という言葉に違和感がある。 蛙化現象の語源は「かえるの王さま」というグ

          【エッセイ】蛙になっちゃえ

          【エッセイ】返信が早い

          LINEの返信がすこぶる早い。 返信をせぬままにしておくと、携帯の中にタスク(しなければいけないこと)が入ったままになっていて、それはイガイガと針のような形状をしているから、そのままポケットに入れるとポケットが破れるのではないかという気になる。 アイコンの右上の❶というマークも嫌で、 「あなたの知らない事柄がこんなにもあるのですよ」 と煽ってくる。 煽ってくるイメージの中の人はいつも40代くらいの女性である。 相手からの返事が遅い場合は特に何も思わない。 何も思わない

          【エッセイ】なんでなんでなんで

           無理をして辛くなるくらいなら、自分のできる範囲のことをゆるくやりましょう。という潮流があるように思うし、実際、書店のコミックエッセイにはそれらの本が多く並べられている。  ではその自分のできる範囲とは誰が決めるのだろうか?  「自分ができる範囲」と言うくらいだから自分自身で決めるのだろうが、自分がどれだけできるかなど、自分が一番分からない。それは可能性を狭めることにつながる気がしているので、その言葉はあまり使いたくない。  子供には「これって何?あれってなんで?」と手

          【エッセイ】なんでなんでなんで

          【エッセイ】人間の残虐性について

           不道徳と感じさせる内容や動物虐待の描写もありますので、苦手な方ご覧にならないで下さい。 また、以下を有料記事としますので、本気で書きます。

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          【エッセイ】人間の残虐性について

          【エッセイ】球児だった頃

           現実か虚構か分からない事柄をつらつら書き殴っている私にも高校時代はあって、当時はもっぱら野球に打ち込んでおり、県下では進学校であった手前、野球部としても文武両道を掲げていたものの、電車に乗って開いたターゲット1900の英単語を3つも覚えぬうちに意識が飛び、小・中と授業中に居眠りなどしたことがなかったのに、高校の授業中はどうあがいても睡魔に勝つことができず、気づけば学年でも下から数番目の学力になっていた。  和歌山では当時から智辯和歌山が一強で、県下の高校球児が皆、智辯の校

          【エッセイ】球児だった頃

          【エッセイ】ないがしろにしてはいけない

           障害福祉に関わる仕事をしていると、「障害者は純粋ですもんね」と言われることが多く、その度に「ねー」とか言って話を流すのだけど、正確には「純粋な人もいる」である。  それは障害の診断を受けていない私達にも、犯罪に手を染める人がいたり、道端のゴミを拾う人がいたり、仕事をして家庭を持つ人がいたり、子供を産まないという選択をしたり、それぞれにそれぞれの生き方があるのと同じようなものだ。  障害のある人には、(障害の種類によって特性は違うけれど)嘘を言って誤魔化そうとする人もいれ

          【エッセイ】ないがしろにしてはいけない

          【エッセイ】パンツの葬式でもしようか

           パンツと言うと「下着?ズボン?」みたいな事を言われるようになったのだけど、私のような野良のおっさんが「パンツ」と言った時は確実に「下着」である。  ファッション界隈がいたずらにズボンを「パンツ」と言い出し、しかも「パ↑ン→ツ→」の発音ではなく「パ↓ン↓ツ→」の発音で表現する。  そんな四声の使い方は和歌山にはないから。「パ↓ン↓ツ→」など言おうものなら「お前何イキってんねん」と言われることは確実で、そう言われないために息を殺して今まで生きてきたのだから、ここで言う「パン

          【エッセイ】パンツの葬式でもしようか

          【エッセイ】赤白帽のゴムはしょっぱかった

          ※本気で困っている人や診断を受けている人は以下の限りではない 最近思うこと、と言ってもここ数年思い続けているし、なんなら学生の頃は自分もそう言っていた時期があったような気がする事柄ではあるのだけれど、AD/HDやアスペルガーなどの、いわゆる発達障害を口にする人が増えたような気がしていて、しかも、そういった人たちへの配慮に言及するのではなくて、自分自身の特性として「私、発達障害だから」や「俺、AD/HDだから」などとカミングアウトする場面をよく見る気がする。 おそらくそれを

          【エッセイ】赤白帽のゴムはしょっぱかった

          【エッセイ】そんなレベルの話ではないのだ

           芸能人の合意なき性交があったのではないかと週刊誌がすっぱ抜き、連日ニュースを賑わせていた時、批判も養護も両方あったのだけど、その中で「肯定する人間はセカンドレイプをしているに等しい」という言葉を放ったタレントが「よく言った」とSNSで称賛されていた。そして一人もやもやとした感情に駆られたのだ。  もやもやした感情の原因をもじもじと考えていた。おそらく、この必殺の言葉で議論を完全に閉じてしまったことに不快感を感じたのだ。 SNSでも情報番組でも、問いに対する答えになってい

          【エッセイ】そんなレベルの話ではないのだ

          【エッセイ】みんなうっすらスケベだから

           以前大学の授業で習ったことがある。220 − 年齢 = 最大心拍数 だから私はせいぜい190くらいまでしか心拍数を上げることができない。考えてみると、体を動かして筋肉を痛めつけて、イタズラに心拍数を上げる行為は死に近づいていて、死に近づけば近づくほど今生きていることを実感する。だから運動を続けているのだと思う。  最近はAIが自分の検索や視聴傾向を分析しておすすめを提示してくれるが、稀にインスタのおすすめフィードがセクシーな水着や下着姿の女性で埋まることがあり、その度にA

          【エッセイ】みんなうっすらスケベだから

          【エッセイ】好きだけど体に悪いものと嫌いだけど体にいいもの

           幼少期は好き嫌いが多く、中でもドロッとしたものが嫌いで、炊いたナスの柔らかさとか、コーンスープの溶け切っていない粉の塊がてらてらと光りながら掬い出されるとぞっとした。  しいたけは今でも嫌いで、噛み締めた時にしいたけ汁が滲み出すあの仕様とか、時に私の大好きなイカに擬態するところとか、小賢しいと思う。  食べずにいると母から「体にいいから食べな」とよく言われたが、もし私がナスやしいたけなら、「おいしいから食べな」と言われた方が絶対にうれしいし、「体にいいから食べな」は「あの人

          【エッセイ】好きだけど体に悪いものと嫌いだけど体にいいもの

          【エッセイ】散文

           耳に届くものをただ音として聞いていて、意味のある文節のまとまりと捉えることができない。今エンターキーを押す勢いが強すぎたかもしれない。思いの外大きい音が鳴ってしまった。スターバックスの長机の向かいに座る女の子は受験勉強をしているのだろうか。つい今しがたスマホを手にして何かを打ち込んでいるのはおそらく、Twitterに「前の奴エンター押すの強すぎワロ」と書き込んでいるのだろう。  勉強の邪魔をしてしまったかもしれないし、私が席を立つまで、もしくは彼女がそうするまで、彼女は私を