賢いのか? それとも狡いのか?
僕が小学1年生の時だった。
お母ちゃんの友達と思われるオバチャンが、僕と弟にプレゼントをくれた。
プレゼントしてくれたのは、車のオモチャ。
僕と弟へ、それぞれ1台ずつだった。
後輪を接地させたまま軽く後ろに引く。
「カチ、カチ」と、ゼンマイが巻かれる音がする。
手を放す。
車は、凄いスピードで走った。
『チョロQ』と同じ原理なのだろうが、大きさは、子供の手のひらには収まらなかった。今でいうなら、大きめのスマホくらいだったと記憶している。
素材は、おそらくブリキで、デザインはリアルだった。
本物ソックリだった。
1つは、真っ赤なスポーツカー。
フェアレディZだった。
子供でも、「カッコイイ~!」と分かる。
もう1台は、青い大衆車に見えた。
後になって、あれはサバンナだったな、と思った。
本当は、こっちもスポーツカーなのだ。
だが、ボンネットも短いしヘッドライトが普通の【丸4灯】だ。
幼い僕には、カローラと似たような車にしか見えなかった。
🍀🦖🍀🦖🍀🦖
僕は、6歳にして「あんたはお兄ちゃんなんだから我慢しなさい」と、何度も何度も、そうお母ちゃんに言われて育った。
1年と半年後に生まれた弟が、泣いてダダをこねると、僕が割を食うのだ。
その結果、僕は、「あんたはお兄ちゃんなんだから我慢しなさい」というセリフにはウンザリしていた。
今日こそは、この、「あんたはお兄ちゃんなんだから我慢しなさい」というセリフを、お母ちゃんに言わせちゃダメだ。
そのセリフが出たなら、全ては決してしまう。
僕の欲しい赤いスポーツカーは、弟のモノとなってしまうのだ。
閃いた!
6歳で、こんな作戦が閃くなんて、僕は天才だったのかも。
しかも、2段階作戦だ。
まず弟に、「どっちの車が欲しい?」と、ちゃんと聞く。
おそらく弟は、赤いフェアレディZを選ぶ。
たまたま青いサバンナを選んだら、それはラッキーだ。受け入れる。
でもこの時、喜びの顔をしてはならない。「やっぱりそっちがイイ」と、弟が言い出すからだ。
さて、弟に、「どっちの車が欲しい?」と、聞いてみた。
「こっち」と、弟はフェアレディZを指さした。くそ、と思った。
しかし、僕はすぐに気持ちを切り替えた。
僕は、大声で叫んだ。
「やった~~~!!!
オレ、コッチが欲しかったんだ~!」
「じゃあ、コージはこっちな」
そういってフェアレディZを弟に渡す。
「いや~、『コッチ』って言われたらどうしよう、って思ってたんだぁ~。
この青の輝き! カッコイイ~~~!
カッコイイわ~。これ、レースで何回も優勝している車なんだぜぇ~」
そう言って僕は、早速その車で遊び始めた。
「わっ! スゲェ速えー!」と驚き、感動をあらわにした。
全力でのブラフだった。
食いつけ、と祈っていた。
ダメかと思う。
食いつけと祈り、喜びを演じ続けた。
「おれ、そっちがイイ」と、弟が言った。
食いついたのだ。
でも、念には念を入れる。焦っちゃダメだ。
「え~? コージは、その赤い方がイイって言ったじゃん」と拒む。
今はまだ、本心の逆を演じ切る!
弟がついに、「そっちがイイ!」とダダをこね始めた。
折れるのが早すぎると分かってはいたが、僕は折れる。
本当は、もう2~3回拒んだ方が良い。何ならケンカを続けて、お母ちゃんの裁き、「あんたはお兄ちゃんなんだから我慢しなさい」を加えた方が、より良いだろう。
だが6歳の僕には、そこまでの胆力が無かった。
「まあ、コージがそこまで言うならしょうがないな。
オレは、赤い方でガマンするよ」
そう言って折れた。
弟の気持ちが、再度変わって困る。
だから僕は、赤いフェアレディZをゲットしたのに、一切喜ばなかった。
しばらくは、赤いスポーツカーに、さして興味のない演技を続けた。
弟と、一緒に車を走らせて遊ぶときも、ちょいちょい「そっちが良かったな」という言葉を発し、そういう顔もした。
アフターフォローにまで気を使う6歳だったのだ。
僕は、この作戦を思いついた自分を、「賢い」と思った。
誇らしかった。
でも、割とすぐに、「僕って、ズルい人間だな」と、自己嫌悪をするようになった。
僕は、よく嘘をつく小学生となった。
嘘をつくと、「また嘘を言っちゃった」と自己嫌悪した。見栄で嘘を言うことが多かった。
嘘をつくと、嘘がバレないようにと嘘を重ねるハメに何度もなった。
何度も何度も、嘘をついたことを後悔した。
それでも中学3年生まで、僕は嘘つきだった。
反動で僕は、嘘を必要以上に嫌うようになり、高校生になるタイミングで、「オレは正直に生きる」と自分に誓った。
馬鹿正直でもイイと、開き直った。
以来、馬鹿正直に生きてきた。
その結果、たくさん損もした。
でも、それ以降の僕は、嘘を原因に僕を嫌うことはなくなった。
妻のゆかりちゃんに聞いてみた。
「このときのオレって…。
6歳のオレって、賢かったのかな?
それとも、狡い子供だったのかな?」
「へ?」と、ゆかりちゃんは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
「狡賢いんちゃうの?」
と言って、そんなことも分からないの、という顔をした。
おしまい
PS. 僕のKindle本 ↓『いいかい、タケルくん』【考え方編】です。
読むと、恋人ができてしまう自分に変わります。
恋愛とは、若者だけのものではありません。
人生100年時代。
40代、50代、60代、70代でも、恋愛って必要です。(僕の主観です)
そばにいるパートナーは、誰にだって必要ですよ。(僕の感想です)
「考え方」ですから、若者だけでなく中年にも参考になります。
もちろん若い男性には、モロ、参考になります。
女性にも参考になります。
【男の思考】が詳しく書かれていますから。
「男性って、そんな考え方をするんだぁ」と、きっと参考になります。
ご一読いただけたら幸いです。
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