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結局 君のことだけ見ていた【群青日和 #22】

【試合結果】
4/26(金) 読売ジャイアンツ
◯7-2
[勝]森唯斗
[敗]西舘


◇ ◇ ◇

ドドン、ドドン、ドオオン……

8回表、2番手のピッチャーとして森唯斗がマウンドに上がると、ライトウイング席後方から地響きのような音が聞こえてきた。
あれなんだろう、と音のする方向へ目を向ける。

と、数秒遅れて夜空に明るく大きな花が咲く。

そういえば確か、今日は山下公園の方で花火のイベントがあったんだったな。
午後8時過ぎ、そっかこのくらいの時間だっけ。
横浜スタジアムからは徒歩10分そこそこしか離れていないので、その距離程度であれば「ハマスタのすぐそばで花火大会がやってる」と言っても差し支えないだろう。

ドンドン、ドドオン……

これ、しばらくは続くんじゃないかな。
なんて思っていたら森唯斗が間を空ける。
何が起きているかは球審も把握しているようで、長めに間を取っても特に注意を受けるようなこともなく。

それが功を奏したのか、ランナーを背負いながらも失点することなくそのイニングを終えた。
この間の阪神戦と同じように、森唯斗はベンチ前で野手全員が帰ってくるのを待ち一人一人に声を掛けている。
チームを鼓舞するピッチングができる経験豊富な投手が、この若いチームに加わってくれて本当に心強い。

ふと一昨日のことを思い出す。
空が白っぽく見えるぐらいに雨が降り続いていた夜があったかと思えば、晴れ渡った夜空に打ち上げ花火が咲き誇る夜もある。
同じ天気の夜なんて、二度と来ない。
だから同じスタジアムで同じ物語が生まれることも、二度とない。

満員札止のアナウンスが出るぐらいにスタンドを埋めたお客さん達が4月の花火に目を奪われている間、そんな事を思っていた。

◇ ◇ ◇

この間読んだ小説に、こんなくだりがあった。

パパのいう「事実」と、人の心のなかで動く「物語」は全然別のものなんだってことにも、まいは気がつき始めた。二つは混同してはいけないけれど、どちらが自分にとっての「真実」かは、きっとそのときどき、ひそかに自分で決めてもいいことなんだろう。

「西の魔女が死んだ 梨木香歩作品集」より

一度破れた夢を諦めずに叶えて大粒の涙を流していたあの瞬間、開幕戦でこれ以上ないくらいの主役になったあの打席、その輝きが眩しすぎていろんな声が生まれたこと。

どれもがまぎれもない事実で、全て半年以内に起きた話。

野球は、毎日たくさんの数字に追われるスポーツだから。
ついその事実の方ばかりに目が奪われて、それが全てだと思ってしまう瞬間が増えてしまうことがよくある。

14打席無安打、2割そこそこしか打っていないならこの打席も厳しいだろう。
左打者からの被打率が1割切っているなら、この投手は『左殺し』だ。

上に書いたことは全て事実といえる。
でも真実じゃない。
こうなると決まっていることなんてこの世界にはひとつもない。
ただ、こうなって欲しい、と願う未来は生きる人それぞれにある。

私が願う未来は、度会隆輝の笑顔がずっと横浜DeNAベイスターズで輝き続けてくれること。
その煌めきが見たことのない景色を見せてくれると、信じている。
今日も君の笑顔に心惹かれた人たちの分だけあたたかく大きく、隆輝コールがスタジアムいっぱいに響いていた。

事実と物語は交わることのない、ある意味相反するもの。
でも、その間を行ったり来たりして血を通わせるのは、すごく不安定で不確実な人間という生き物にしかできない。

今夜、こんな物語が待っているなんてここにいる誰もが知らなかった。
「度会隆輝」という物語に一喜一憂できる日々が、幸せです。

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