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信じて立ち向かえ 今の位置から【群青日和 #39】

【試合結果】
5/18(土) 中日ドラゴンズ
◯3-2
[勝]中川颯
[敗]松葉
[S]森原

◇ ◇ ◇

不思議な気持ちだった。

「二週連続で中川じゃないですか〜」
友人からこんな連絡を受けた。
そう、先週も私はここに居て、中川颯がマウンドに上がるのを見守っていた。
先週と同じ三塁側内野席で。

今シーズン、横浜DeNAベイスターズに加わった新たな戦力。
球界でも稀少なアンダースロー投手で、横浜市出身の『ハマのサブマリン』。
高校時代は神奈川の名門、桐光学園のエースそして4番打者として名を馳せた。

神奈川県民の野球熱は、他県の皆さんの想像を遥かに超えてくるものだと思う。平日昼間に行われる地区大会の決勝で横浜スタジアムのウイング席が開放されるレベルの集客、といえば伝わるだろうか。
なので元々の知名度もあったし、神奈川の野球好きからすると古巣オリックス・バファローズの、よりも先に「ああ桐光学園の」と出てくる訳で。

それもあってかたぶん、中川颯が思っている以上にベイスターズファンはあなたの加入を喜び、それはそれは歓迎しているんです。
ショップで取り扱っている選手名タオルは、入荷するたびすぐに売り切れては再入荷を繰り返している。レプリカユニフォームは元々ショップには置いていない受注販売対象選手だったのに人気が上がりすぎたのか、先日ついに筒香嘉智を初めとする追加常設販売メンバーに名を連ねた。
7月に予定されているYOKOHAMA STAR⭐︎NIGHTの限定レプリカユニフォームも、予約受注販売分はM・Lの両サイズが既に完売。

グッズの売れ行きは選手へ向けられた期待値、そしてファンからの愛そのものだ。
もちろん相対値ではなく絶対値で。

少しずつ、スタンドで「HAYATE」の背ネームを見る回数が増えてきた。
ちょっと前まで三桁の背番号だった選手が、今や横浜でこんなに多くの人たちから活躍を願われている。

高くまっすぐ突き上げられた右腕が振り下ろされ、足首くらいの低い位置から球がリリースされる。
5月のデーゲーム、三塁側は順光。
彼の投球フォームはまるでそういう日時計のようで、作り出されたその影までもが綺麗でずっと眺めていたいと思えるほど。
夏のような五月晴れの下、でも時折吹く柔らかい風は確かにまだ少しだけ春の名残を感じる。風が作る見えない曲線と、テンポ良くボールを投げ続ける中川颯の日時計を見つめている間に、ひとつずつアウトが増えていく。

「きよらかできびきびしたさま」
颯という漢字を辞書で引くとそんな意味が記されていた。
名は体を表しているのを、私は今まさに目の前で見ている。

◇ ◇ ◇

先週からちょっとそんな予感はしていた。

その時は伊藤将司が投じた初球、内角のカーブにうまく反応してしっかり待って振り抜いて「えっ?これ入る?」とスタンド全体がざわつくぐらいの特大ファールをライトポール際に放った。

今日も、初球のカーブ。
おそらくこれも反応で打ったんだろう。

投手が確信歩きするのを初めて見ました。
さすがに投げた松葉も口を開けて呆然としている。
そりゃそうだ、今日ここまで相手してきたどの野手よりも豪快なスイングでカチ込まれたんだから。

https://x.com/ydb_yokohama/status/1791704418162974941

ただ、中川颯は高校時代に通算26本塁打を記録し、元東海大相模の名将・門馬監督にもそのバッティングセンスを評価されていた。
昨オフにはドジャース・大谷翔平を参考にバットを寝かせず立てる構えに変えるなど、ピッチング以外も新天地に向けて準備を進めてきた。

これは事故のような一発ではなく、彼の才能と努力が創り出したアーチだ。

先週は3回表が終わった時点で72球、9失点。
今日は3回裏が終わった時点で35球無失点、そして2打点。
前回は仲間達が打って負けを消してくれて、今回は自分の右腕とバットで勝ちを引き寄せた。
野球は一人でできないからこそ、そういうスポーツであってほしい。

この地から、もう一度。
ベイスターズの仲間達と、真っ青に染まった横浜の大歓声が、中川颯の味方です。

ハマスタ初勝利、プロ初本塁打おめでとう!

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