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一緒に燃やそう その思いを【群青日和 #28】

【試合結果】
5/3(金) 広島東洋カープ
◯2-0
[勝]東
[敗]アドゥワ
[S]森原

◇ ◇ ◇

8回裏のアウトを一つ取ったところで、先発の東克樹がマウンドを降りた。
先頭打者の二俣、そして続く宇草にボール一個分甘くなったストレート、チェンジアップを拾われ、秋山が送りバントで作った一死二三塁の状況。

この回を投げ切ってもらいたいのは山々だけど、既に7回裏でも二死一二塁のピンチを凌いだ後の回でもあったし、この辺での交代がギリギリのラインかな。
状況としてはまあまあのピンチだけれど、リリーバーの準備とかも考えてみるとここでしかないかな、とも思えた。

登板間隔、対チーム別成績を考えると……伊勢大夢かな、と思うと予想は当たっていて、背番号13がマウンドに立ち、ゆったりと構えたところから投球練習を始めている。

「嫌な予感がする」
「大丈夫か……」
「伊勢でいいのか」

球団タグを付けた投稿だけ眺めていると、こんな感じの呟きがわーっと流れていく。

失点し敗戦投手になったのは直近6試合のうち、たった1試合。
4月19日、神宮球場でのヤクルト戦で村上宗隆に勝ち越しホームランを被弾してしまったイメージが強いのか。

それとももっと前、昨シーズン6敗したことをつい昨日のように思われているのか。
去年の伊勢といえば、どうしても忘れられない記事がある。

2点リードで迎えた八回、右翼スタンド下のブルペンからリリーフカーでマウンドに向かう伊勢大夢は、歓声の中に交じる「ため息」に気が付いた。
「僕、耳がいいし、神経質なので聞こえちゃって。でも、最近は打たれているし、なるほどなって」
《中略》
耳についた落胆の声は、むしろ25歳を奮い立たせた。

記事文中より引用

ゴールデンウィーク真っ只中、老若男女が詰めかけたマツダスタジアムの中ではベイスターズファンの歓声もため息もなかなか届きにくいかもしれない。
けれどもSNSを眺めている限り、目の前ではため息に近いつぶやきが次から次へと流れていく。

チームが勝っている展開で出てくるリリーバーは皆、ことさらに失敗することを許されない立場を求められてしまう。
でも、思うんだよね。
失敗が許されないことと、重ねてきた良い結果を称えることは別の話だし、前者はそのままなのに後者がどんどん薄れてしまうのはしんどいことじゃない?

今日までの伊勢大夢の成績は、
9登板、投球回8.2回に対して防御率 2.08
この投球機会の中で、たった一試合の1イニングで2失点してしまったが故の数字だ。

特筆すべき伊勢の指標はここ。
奪三振率(9イニング投げたと仮定した場合の奪三振数)→8.31
WHIP(1イニングあたり何人の打者を出塁させたか) →0.46

つまり、ベイスターズのリリーフ陣の中ではトップの森原に次いで三振が取れて、基本的にバッターを塁に出さないのが伊勢大夢なんです。
昨年のイメージ、今年唯一失点してしまった試合の印象、それでため息をつかれるにはあまりにも、伊勢が報われないんじゃないか。

そんな思いを一瞬のうちにぐるぐると巡らせていたところに、目の前の中継画面から聞こえてくるカープファンが奏でるチャンステーマで我に返る。
そうだ、結構なピンチだよな一死ニ三塁って。

ふう、と両肩を落としてそのまま低く低くサインを確認する。
投球練習の時よりもさらにゆったりとモーションに入り、投げ込む。
山本祐大がミットを構えている位置よりもだいぶ真ん中寄りにボールが行ったものの、本人曰く「自分では操れない」シュートライズ(伸びながら左打者の内角上・右打者の外角上に吹き上がる)する球がここで出たのが勝負を分けた。
代打の左打者、松山はこの初球ストレートを高く打ち上げ、ファーストフライ。
ツーアウトにしてしまえば、打ち取る方法は一気に増える。
その後の野間に対しても臆することなくストレートを2球投げ込み、セカンドゴロ。

一球速報の画面には「146km/h ストレート」の後に「好リリーフ」と表示されていた。

再びタイムラインに目を向けると、そこに『ため息』は一つも流れていない。
歓声、感謝、賞賛の声ばかりがさっきの3倍速で流れていく。

なんでもかんでも褒めろっていう話じゃない。
ファンだって不安な気持ちになる、それも分かる。
それでも、相手に向かっていくその一歩がより力強く踏み出せるように。
最前線に向かう彼らが、勇気を奮い立たせられるような声が届いてほしい。

そのスケールは違えども、不安な思いはファンも選手も同じものを抱えているはず。だって望んでいるのは同じ結果、チームが勝つことなんだから。

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