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いつの日か優しくなって 【群青日和 #35】

【試合結果】
5/12(日) 阪神タイガース
●0-1
[勝]才木
[敗]大貫

◇ ◇ ◇

2024年シーズンが始まって今日まで、山本祐大は35試合のうち25試合で先発マスクを被ってきた。捕手は基本的に併用、と言われてはいるが週5日あるうちの4日は捕手としてスターティングメンバーに名を連ねているので実質横浜DeNAベイスターズの正捕手といっても間違ってはいない、そう言える存在になった。
昨年の今頃は先輩捕手の伊藤光、戸柱と出場機会を分け合い、先発投手によって組む機会が異なっていた。
例えば伊藤光はバウアー、大貫。戸柱は今永、石田。山本は東、といった感じだ。

山本がキャッチャーとしていつもどんな振る舞いをしているのか、どんな印象があるかと聞かれたら……
個人的に彼はピッチャーに寄り添い励ますタイプかな、と思っている。

ピンチで近寄って声を掛ける時、中継ぎ投手であればリリーフカーを降りてきた時、必ず山本はそっと自分の掌を投手の体に添えながら、支えるように傍に立って話す。

人は、優しく身体に触れられると脳の神経伝達物質「オキシトシン」が分泌される。オキシトシンには不安やストレスを緩和する、痛みを和らげる、脈拍や血圧を安定させるという作用があるので、不安な時、緊張している時、気持ちが昂り過ぎている時にほっとして緩和されるような効果が期待できる。

果たしてその効果を知っているかどうかは定かではないけれど、寄り添いたい、一人にしないよ、さあここからだと励ましているように見える。

「いろいろな要素がありますけど、僕が重要視しているのは、ピッチャーのボールの良さと打者の反応。一番は投手のボールですかね。ただ、状況によっては打者の苦手なところを攻めないといけないなど、ほかの要素が越してくることもあります。基本的な割合で言えば投手のボールの良さが5~6割くらいを占めています。3割ぐらいは打者の反応を見ていて、残りがデータです。データだけでやることは少ないのかなと思います」

ピッチャーの調子は登板する日によって揺らぎがある。
今日の大貫を例に挙げれば、ストレートのコントロールが定まらず、そこまで走ってもいなかった。生命線になる三振・ゴロアウトが取れるスプリット、ツーシーム、スライダーといった変化球の方がコントロール、球の変化量もよく出ていたのでバッテリーはすぐに変化球主体の組み立てに切り替えていた。
たった一つのフォアボールがきっかけで失点してしまったが、大貫の投球内容は8回1失点。十分すぎるほどに十分だ。
相手が才木・梅野バッテリーでなければ、白星を掴めた未来もあったかもしれない。

◇ ◇ ◇

山本祐大の師匠的な存在でもある、阪神タイガースの捕手・梅野隆太郎。
まだキャリアが浅いうちから、メッセンジャーや藤川、能見といった名だたる投手達と組んでメキメキと頭角を表してきたかと思えば、そこからずっとタイガースの投手陣を引っ張ってきた、という印象が私の中では強い。
今の阪神はその頃と比べて選手層がぐっと若くなったので、いつの間にかすっかりお兄さんの立場になっていた。

「相手ももちろん真っすぐを狙ってくるやろうけど、その中で引いたらダメやぞって、そういうところが好投につながったんじゃないかな」

確かに才木のストレートは100球を超えても球威がほとんど落ちず、ベイスターズの打者陣は最後まで弾き返すことが叶わなかった。
そこを「引いたらダメやぞ」と強く背中を押せるのは、梅野の経験とリードあってこそなんだろう。

ここぞの時には必ずキャッチャーマスクを外し、自分の声と表情がダイレクトに伝わるようにしている姿。
そして身長173cmと野球選手の中では比較的小柄な梅野の上背に合わせ、背の高いタイガース投手陣が少し背中を丸めてバッテリーで言葉を交わす姿が昨日の試合からずっと印象的だった。
特に今日先発の才木浩人は身長189cmとかなり背が高い。
完封勝利を収め、二人でハイタッチしている時なんかは才木がぐっと前屈みになるようにして目線を合わせていた。

◇ ◇ ◇

寄り添うのも、背中を押すのも、どちらもキャッチャーとして必要な姿。

こういう締まった投手戦で、守備の間ただひとりバックスクリーン方向を向いている彼らの働きぶり、そして表情は、どうしても目で追ってしまうんだよな。

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