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見えない傷が 私の魂彩る【群青日和 #11】

【試合結果】
4/10(水) 中日ドラゴンズ
●1-6
[勝]松葉
[敗]小園


◇ ◇ ◇

「まだ試合中なのに、ベイファンと多くすれ違うわ」

東急東横線に乗って帰路に着く夫から連絡が入ったのは、21時を回ろうかどうかという時間。ざっくり逆算すると、そのみなさんは6・7回辺りにハマスタを後にしたのかな。ドラゴンズが6点目を入れたあたりか。
天気は昨日に比べていくぶん回復したとはいえ、日が落ちて一気に冷え込んだ。
お子さん連れなんかは無理に最後まで見届けない方がいいだろう。
横浜公園でほぼ満開になったらしいチューリップ達も、今頃肩を寄せ合っていることでしょう。

まあこの展開はちょっとね、と返信するとすぐにまた返信。
「無理もないな」
うーん、と『ぼのぼの』のシマリスくんが頭を抱えるスタンプを送る。
1点じゃこの勢い溢れるドラゴンズには勝てんわな。

でも今日という日を「ほろ苦デビュー」なんて手垢のつきまくった表現にしたくはないよね。

◇ ◇ ◇

あの日の小園健太も、今日と同じく中日ドラゴンズ相手に投げていた。
2023年3月11日、オープン戦。
その時は3回で降板。1巡目が終わるまで保たなかった。

あれから一年と少し。
昨年組んでいたのは山本祐大だったけど、今日は同じ高卒ドラ1指名の松尾汐恩。
経験のある捕手と組むよりも、同年代かつ横須賀でより多く組んだことがある若い二人に一試合分投資する、ってことなんだろうな。
ピッチャーとしての経験、バッテリーとしての経験、どちらも同時に一軍の場で得られるのは、なかなかに貴重。

正直、自分たちじゃどうしようもない面に引っ張られる割合もまあまああった。
でも、それにどれだけ抗えるかも見たかった。
よくもがいていたし、要所要所で光ったものもあった。

3回表、ツーアウトまで行ったところで投手の松葉に安打を浴びる。
ここまでかな、と思ったところで番長が立ち上がり、ベンチから出てきた。

昨年と同じく、3回途中で降板。
でも、表情は全く違う。
あの日はどこか呆然としたような様子だったけど、今日は自分に腹を立てているような、苦しそうな、そんな表情。
眉間に皺を寄せて唇をきゅっと結んでいる。
伊藤光と二言三言交わしながら、ベンチの最前列でグラウンドを見つめる。

巡ってきたチャンス、今日のために、と力んだだろう。
また結果が出せなかった、と悔しかっただろう。

確かに「横浜の背番号18」は、なかなかの重さがある。
というか、ファンが重くしている部分もある。
でもね。背番号18の先代も、いわゆる圧倒的な投手じゃなかった。
その代わり、手酷くやられても何度でも立ち上がって、執念深くアウトローにストレートを投げ込める人だった。

登板する前、脱帽して深く長く、たっぷり3秒程マウンドに一礼していた。
まだまだ。あなたのプロ野球選手としての人生はこれからよ。

そしてもう一人、リベンジして欲しい人。

今日は松尾汐恩にとっても、ある意味本当のデビュー戦だった。
前回スタメンマスクを被った試合は、途中交代で伊藤光にマスクを譲る形になった。
でも、今日は違う。
小園が降板した時、もしかしてバッテリーごと交代かと思ったがそうじゃなかった。後を継いだ石川達也と0.1回、ロングリリーバーとして登板した中川颯と5回、そして上茶谷と1回。
一軍の舞台で捕手として、27個全てのアウトを見届けた。

本来はバッティングも良く、打席内でもアプローチを色々考えられるタイプのはずなのだけど、9回裏最後の打者としてバッターボックスに立つやあっさりと三球三振する姿を見て「今日は頭も体もフル回転、相当ぐったり来たな」と感じた。
無理もない。
だけど、それでいい。
この時期じゃないと、若い二人に投資できない。
一軍の選手相手に勝負しないと分からないことが、たくさんある。
ファームでは空振りが取れても、一軍の選手相手だとファウルで粘られる。
ファウルで済んでいた球が、一球でフェアゾーンに持っていかれる。

今後のことは分からない。
でも、今日任された試合は二人の糧にしかならないはずだから。

出されたたくさんの宿題を両手いっぱいに抱えて、一旦ベッドの脇に置いたら、とりあえず今日はゆっくり休もう。

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