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有名も無名も 関係ない【群青日和 #20】

【試合結果】
4/23(火) 阪神タイガース
△1-1

◇ ◇ ◇

今シーズンから新たにベイスターズの戦力になったのは、当然ながらルーキーだけじゃない。
そんな事は春季キャンプの時点で分かっていたつもりなのだけど、自分自身なんとなく実感が得られていなかった選手が居たのも事実で。

私の中で、森唯斗がまさにそんな選手だった。

だってあんまりにも有名すぎる。
所属していたリーグは違えど、彼の名前と打ち立ててきた記録は知っていた。
通算100ホールド・100セーブ。
並大抵の記録じゃない。
リーグ優勝4回、日本一6回の経験者。
横浜がどの球団よりも遠ざかっているその高みは、どれだけ高いところにあるのかもはや想像が付かない。

何より一番強く印象に残っていたのが、白地に黒と黄色の配色のユニフォームを身に纏い、マウンド上で鬼のように吼える姿。

延長12回表。
8人目の投手として中継映像に映る森唯斗は、今年から新しくなったビジターユニフォームに袖を通して、確かに横浜スタジアムのマウンドに佇んでいる。

真っ青な横浜ブルーと「Y.MORI」の背ネームの組み合わせはかなり新鮮だ。
背番号は変わらず、38番。

この回を抑えれば負けは無くなる、という延長戦最後のピッチャー。
だというのに、彼の表情は至って冷静そのもの。
そこには気負いも焦りも全く無い。
その前の回に登板していたルーキー、松本凌人がリリーフカーに乗っている時点から顔を強張らせていた様子と比べると、かなり対照的に見えた。
1年目と11年目。
こんな局面は何度も潜り抜けてきたはずだ。

阪神の先頭打者は代打糸原。
強いまっすぐに押し負けず当たれて、ある程度読みが外れても割り切って振ってくる。チャンスを作られたくない場面でこの選手の名前がコールされるとちょっと怖い。

糸原は3球目のナックルカーブに反応しかかり、バットを止める。
高めのボールゾーンからぐんっとボールが急に落ち、ストライクゾーンに構えられた山本祐大のミットに吸い込まれる。外角いっぱい。これで2ストライク。
セ・リーグの日本人投手はあまり使用しないこの球種。
見たことのない軌道だったのか、ストライクコールに糸原がちょっと驚くような仕草をしていた。

最後はインローに小さく変化するカットボール。
まっすぐに強い糸原に対して、一球もストレートを投げなかった。

そして何に驚かされたって、投げ切ったその後。
打ち取った当たりはファーストゴロとなり、逆シングルで処理した大和がトスを上げたのだけれども。

森唯斗のベースカバーが恐ろしく速かった。
バッターの糸原はそこまで瞬足、という程の選手じゃない。
万が一、すら許さない。
何百回、下手したら何千回と繰り返してきたであろう動きなのに、ざっくり流すような意識は一切見られなかった。
このワンプレーに、森唯斗が積み重ねてきたものの片鱗が見えたような、そんな気がした。

一球一球投げ終わるたびに大きく跳ね上がる右脚は、そのまま相手に向かって強く一歩踏み出される。
真っ向勝負しにいく気持ちがそのままフォームに現れているみたいだ。

最後のバッター、木浪をセカンドゴロで抑えたその瞬間。
森唯斗は大きく吼えて下を向き、両手でガッツポーズを何度も取り、グラブを二度強く叩いた。
そのままくるりと向き直ると、バックを守っていた野手全員が帰ってくるまでベンチ前で待ち受けてハイタッチを交わし、一人一人とアイコンタクトを図る。

彼が積み重ねてきた当たり前のレベルの高さに驚いたし、何より、あの森唯斗が横浜のために全力で腕を振ってくれている、その事実に胸が震えた。

最初に連絡してくれたところに行こうと決めていたので、迷いはありませんでした。横浜さんには感謝しかありません

上記記事文中より

義理堅い選手だなあ。
入団が決まった時の記事を読んだ時は、そのくらいの印象しか受けなかった。

今はもう違う。
12回表を三者凡退で終えてマウンドを降りてきた、揺らめく闘志を身に纏った投手は間違いなく「ウチの森唯斗」だ。



この試合note『群青日和』に載せている選手の写真は全て夫もしくは私が撮影したものなのですが、今回の写真は福岡に住む友人のとびたくんに提供して貰いました。
ありがとうございました〜!

タイガースファンの方は特にグッとくるような記事を沢山書いてます。「大山とそば屋のコラム」の彼です。

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